元自衛官の時想(99) 新型肺炎コロナウイルスに寄せて再び緊急事態の初動対処とトップの状況判断、決心、実行(3)

    本日、新型肺炎ウイルスに関する「政府基本方針」が決定発表された。感染拡大防止策、医療提供体制、国民への情報提供及び水際対策が国家の総力を挙げて強力に推進されるであろう。国民の理解と積極的な協力、実行が求められる。

   新型肺炎コロナウイルスへの対処に関連して、国家の緊急事態における対処については、去る2月2日のブログ「緊急事態に対する初動対処とトップの状況判断、決心、実行」で述べた。私の所信は全てあの拙い一文に尽きる。

    その後、コロナウイルス対処に関するメデイアの報道動向を注視してきたが、焦点は、当面の対処策に関する事柄に終始しており、初動対処は成功であったのか失敗であっのかなどにとどまっていた。

   今回、感染拡大防止策など「政府の基本方針」の明示により、今後終息まで「見えない敵」との戦いに、国家の総力を挙げての戦いが始まる。国家の全機能を動員発揮して感染の拡大阻止を図るべきである。

    これと並行して、最も重要なことは、その先の大局的な見地からの国家の緊急事態に対しては今後どのように対処したら良いか。国家として断固やるべきことを為政者はじめ各部門が躊躇したり、実行を阻害する要因は何なのか。それを解決する抜本的な方策はどのような方向に進むべきか。本来国家のあるべき姿はどうなのか。といった議論に進んでいって欲しいものである。

   残念ながら、今まで、どの番組、新聞を読んでも、国民意識・国民世論が一歩踏み込んで所信を堂々と表明できない空気・雰囲気があることである。国民はもとよりメデイアも、政治家も政党も、政争に目を奪われ、そこにはこの問題の本質と国家としてのありように関する議論が低調ではなかろうか。

   最近の新型肺炎コロナウイルスに関する世論調査の設問項目も当面の項目・評価のみで、将来の国家としての緊急事態としてどのように考えるべきかの設問は一切見受けられない。世論調査一つを取り上げても、国家としての対処の本質を突いた設問項目・内容はなく、相変わらず旧態依然の同じ状況にある。

    こうした中で、今朝の産経新聞のオピニオン「正論」欄に、東洋学園大学教授桜田淳氏が、別掲のような「武漢ウイルス禍に「強権」対応を」と提言されており注目した。桜田氏の所論はいつもながらズバリと核心をついたもので、十数年前から若手の新進気鋭の学者として注目してきた。

    桜田氏は、本稿において、わが国のコロナウイルスの初動対処が、「全力対処」ではなく、なぜ「逐次投入」に終始したかを分析している。まことに的確な分析と拝察する。

    戦後における日本の国民意識の傾向は、大東亜戦争終結後75年を迎える今日においても、平和主義の名の下に、平時・平事と有時・有事の対応の切り替え、国家の緊急時における「強権」発動を躊躇する空気が根強く横たわり、躊躇させるものがあることである。

 桜田氏は、「緊急時には必要なことを断固として遂行できる」という政府の存在意義は、確認される必要がある。」と極めて控えめに述べておられるが、緊急事態において国家がなすべきこと、なさねばならないこと断固として実行できる体制づくりは、憲法への「緊急事態条項の明記」とそれに基づく諸法令と組織の整備によって実行することが出来るのではなかろうか。     

 世界各国は、基本法となる憲法の中に緊急事態対処条項を明確に規定しているが、わが国には「緊急時において政府が必要なこと断固として遂行できる」国家の基本となる緊急事態条項が欠落しており、いかに多くの法律をもってしてもその根源を補完することはできない。基本となる大戦略を優れた戦術をもって代えたり、補うことができないのと同じである。

    あらゆる緊急事態の発生において、初動対処は「戦いの原則」をもって対処すべきである。合わせて、対処チームとは別個に戦訓の収集・分析・評価などの検証チームが事態発生時から即座に発動、活動すべきである。

    今回、対策実行本部とは別個に、政府に検証委員会が設けられたようであるが、あらゆる部門にわたって総合的な検証が行われて、初めて戦訓収集・分析・評価、教訓・反映と次への戦いへの準備が始まる。

    国家・国民の生命、財産を守ることは、国家の最大の役割である。

 

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《 産経新聞 令和2年2月25日・オピニオン「正論」欄・東洋学園大学教授桜田淳氏「武漢ウイルス禍に「強権」対応を」の切り抜き》