元自衛官の時想( 46 )   自衛隊の日報問題への対応と意識の変革

  連日、メディアで自衛隊の日報問題が取り上げられている。過去の公文書をめぐる防衛省自衛隊の不祥事に対して、OBの立場から見ても、警察予備隊・保安隊・自衛隊と先人たちが営々として築づき、現職の皆さんが黙々と任務を遂行している最中に、これらの問題で国民の自衛隊に対する信頼が一挙に崩れかかっている現状に危機感を持つ一人である。

    今回の日報問題の背景には、大臣の調査指示に対する伝達に不具合があるやに報道されておりさらなる調査結果に注目している。自衛隊において命令指示の周知徹底と迅速な報告は、部隊行動の基本であり最も重要な事柄であるからだ。

 自衛隊の日報問題と防衛省自衛隊の対応については、昨年7月にブログで元自衛官の所感を記したことがある。当時と今もその所感に全く変わりがないので再掲にとどめることにした。 

2017-07-29 元自衛官の時想(18) 日報問題と防衛省・自衛隊の対応 

 先日の産経新聞に掲載された、元イラク派遣航空部隊指揮官(元航空自衛隊航空支援集団司令官・空将)織田邦男氏に聞く、「政争の具にせず本質直視を」は、元イラク派遣航空部隊指揮官として指指揮率し、「日報」の本質、目的・内容に触れ、将来への部隊指揮管理・運用にあたっての調査研究・分析・戦訓と一般情報公開との関係など、軍事専門家としての論評は、他で見られないものであり、最近の自衛隊の内部事情を熟知しての所見だけに、OBとして全く同感である。

 今や政争の具と化しているが、冷静になって、自衛隊の日報をどう取り扱うのか、一般的な文書ではなく、自衛隊の日報なるものは、戦闘速報・戦闘詳報であるとの認識に立ち、国家の安全保障・自衛隊の能力・装備機材・軍事情報という高い次元から日報問題に対処すべきではないかと思うがどうであろうか。

 世界のいずれの国家・軍隊においても対象国の日報・軍事情報は最も欲しい収集内容であり、絶対に明かさないのが軍事の世界の常識であるからだ。

    自衛隊における部隊活動報告の日報に盛られる情報の漏洩は、時には国家の命運、部隊の全滅、隊員の生死を左右するものであるとの認識が、昨今の政争や議論の中に全くないことを憂うるものである。

    軍事情報の取扱と処理について国民へ積極的な理解と認識を深め、国家の安全と軍事情報の関係についての意識変革が政治家はもとより国民にも求められているのではなかろうか。

    一般の行政文書とは異なるとの認識のもとに、仕分けを明確にし、情報公開すべき内容は、積極的に国民に知らせ、理解を得ることが最も大切ではなかろうか。

1  政争の具にせず本質直視を 

  元イラク派遣航空部隊指揮官(元航空自衛隊航空氏江集団司令官・空将)

  織田邦男氏に聞く

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 《 産経新聞 平成30年4月6日 記事の切り抜き 》

 

2 防衛大臣特別訓示 ( 防衛省ホ-ムベ-ジ 出典)

 防衛大臣の特別訓示の内容を読んで、小野寺大臣の自衛隊組織を揺るがす事態であるとの認識と危機感をひしひしと感じた。昭和の時代、大臣の交代と自衛隊記念日等における訓示を全国放送でそれぞれの勤務場所で聞いたものである。

 今回、特別訓示として、全国の隊員に呼びかけられたことは適時適切であったと考える。訓示内容が全隊員にしっかりと届いたであろう。

4月6日(金)、小野寺防衛大臣は全国の隊員に対し、特別訓示を行いました。

                                防衛大臣特別訓示

    本日、防衛大臣として、全国の隊員諸君に対し、自衛隊が国民に信頼されるために重要な課題について申し上げたいと思います。

    遠く離れた任地において、任務に励んでいる隊員におきましても、どうかその場において手を休めずに聞いて下さい。

    昨年、南スーダンPKOの日報に係る問題が発生しました。これは、情報公開請求に対し存在している日報を不存在としたことに端を発し、大臣への報告が遅れ、不適切な対外説明を繰り返すなど様々な問題を引き起こしました。この結果、防衛省自衛隊に対する国民の信頼は大きく損なわれることになりました。特別防衛監察でこの問題を解明する過程で、防衛省自衛隊においては、情報公開の重要性に対する認識が十分でなく、適正な行政文書管理が行われていなかったことが明らかになりました。

    昨年8月に、私が再び防衛大臣を拝命した際、安倍内閣総理大臣から、「日報問題のようなことが再び起きることがないよう再発防止を徹底し、国民の信頼回復に向けて全力で取り組む」よう指示を受けました。

    これを受け、着任の訓示をした際、私から隊員諸君に対し、自衛隊の活動には国民の理解と支持が不可欠であり、国民に適切に説明する責務を全うすることが極めて重要であること、今後、同様の問題が再び起きることがないよう抜本的な対策を講じ、再発防止を徹底することを申し述べました。

    しかし、残念なことに、この再発防止策の一環として進めてきた日報等の一元管理作業において、昨年国会において、「確認したが、見つけることができなかった」と当時の大臣が答弁したイラクの日報が確認され、また、その日報は陸上自衛隊研究本部においては昨年3月の時点で発見されていたにもかかわらず報告されなかったことが今月になって明らかとなりました。さらに、本日、航空幕僚監部においてもイラクの日報が存在していたことが明らかになりました。これは防衛省自衛隊に対する国民の信頼を再び大きく揺るがす極めて大きな問題であり、今、私は大変強い危機感を抱いております。

    我が国において最も重要な制度である民主主義の根幹は、国民が正確な情報に接し、それに基づき国民が正確な判断を行って主権を行使することにあります。国民が正確な情報に接する上で、政府が保有する行政文書は最も重要な資料であり、これを適切に管理し、適切に公開することは国の重要な責務であります。

   防衛省自衛隊も例外ではありません。自衛隊における文書、部隊が保管し、業務に使用する文書も、行政文書に当たるものであり、これらを適切に管理し、国民の情報公開請求に適切に応じることは、法令によって防衛省自衛隊に課せられた重要な責務であります。

    この重要な責任について、今、自衛隊員一人ひとりに認識してもらいたいと思います。隊員一人ひとりが、自分が管理する責任を有している文書の範囲をあらためて確認し、それらが適切に管理されているか確認して頂きたい。また、国民からの情報公開請求や国民の代表たる国会からの資料要求に対し、適切な対応がなされているか確認して頂きたいと思います。

   もちろん、自衛隊が扱う行政文書には国の安全保障上保全を必要とする内容が記されている場合などがあります。こうした場合も、情報公開法に不開示とできる事由が定められておりますので、文書を特定した上で法令に基づいて適切に公開できる範囲を明確にし、公開していく必要があります。こうした業務を適切に行ってください。

    こうした文書管理や情報公開業務は、行政事務の基本であり、部隊の訓練における、いわば基本動作というべきものです。基本動作の習得を怠って任務を全うすることができるでしょうか。訓練において基本動作を適切に繰り返し体に染みこませて覚えるように、こうした文書管理業務や情報公開業務においても常に適切な対応を心掛け、隊員一人ひとりが基本として身につけて頂きたいと思います。

   特に、部隊の本部や司令部、幕僚監部といった部署においては、通常、現場の部隊よりも多くの文書が保管されています。こうした部隊を統率する部署において文書管理が不適切であることによって、国民の信頼を損ね、それにより現場の第一線で活動する隊員の士気を低下させることは、あってはならないことです。今一度、自らの業務のあり方を見直し、適切に業務に当たって下さい。

    今、我が国をとりまく安全保障環境は大変厳しい状況にあります。このような中、国の平和と安全を保つためには、自衛隊は国民の信頼と理解を受け、任務を全うし、国民からの強い期待に応える必要があります。

それにも関わらず、文書管理・情報公開といった基本動作を不適切に行っていては、我々に課せられた任務を全うすることはできません。今一度こうした業務の重要性を認識して下さい。

   今、ここに、私は隊員諸君の先頭にたって、防衛省自衛隊に対する国民の信頼回復に全力を注ぐことを誓います。私の危機感と信頼回復への決意を、全国25万の隊員全員で共有し、自衛隊が国民の信頼を回復するために今自分が何をなすべきか強く自問して下さい。

   全国の隊員諸君の奮起を期待し、私の訓示といたします。

                                                                              平成三十年 四月 六日

                                                                            防衛大臣 小野寺 五典

《  防衛省ホ-ムベ-ジ 出典 》

 

3 2017-07-29 元自衛官の時想(18) 日報問題と防衛省・自衛隊の対応 

❶ 陸自PKO派遣部隊の日報問題を巡る特別監察

    陸自の日報問題については、7月28日防衛省から平成29年3月17日から実施した特別監察果が公表されたので、「平成29年3月17日から実施の特別防衛監察結果関係(防衛監察本部ホームページ)」によって報告書の全文を確認した。 

 新聞各紙によって、ほぼ全文、要約のものに分かれるが、何事も一番知りたいのは報告書の全文であった。いつの場合もそうであるが、報道メディアの立場で報道の仕方や報告書内容の受け止め方、解釈がかなり分かれている。偏向報道という言葉があるごとく、記事内容は眼光紙背に徹すで熟読吟味が必要であろう。

 今回の南ス-ダン国連平和維持活動(PKO)派遣部隊の日報問題は、防衛大臣、防衛事務次官陸上幕僚長の辞任にまで発展したが、問題となった日報は、陸自で見つかるよりも先に統合幕僚監部が公表ずみのものであった。

 報告書では、デ-タの防衛大臣関与は不明、非公表は事務次官陸自の判断、ことの発端は日報開示が部隊の安全危惧にあったと要約できる。

 特別監察報告を機に、防衛大臣の隠蔽関与の有無から指揮統率、文民統制なとがとりあげられている。 なぜ防衛省陸自の保管を非公表にしたのか。誤った判断に至った背景や原因はどこにあるのか、この問題の根っこは何なのかの議論が欠落しているように思うがどうであろうか。

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《 平成29年7月29日産経新聞 》

❷ 情報公開の不手際が国民の信頼を損ねく事態の生起

    日報問題の発端から特別監察に至るまでの経過を見ると、そこに国家機関として、軍事秘密でない限り、活動状況を適時適切に 、国民に積極的に情報を公開し知らせることは当然の責務であろう。

     特に、国家防衛の骨幹をなす自衛隊は、国民の理解と支持無くして成り立たないことは自明の理である。今日、情報公開は当たり前の時代となっている。 国家の安全に著しい害を与えるものを除いて一般的には公文書は公開されることになる。日報の非開示の判断は誤りであった。

❸ 政治的なしわ寄せに翻弄されるPKO

    国民の絶対的な支持を得ている自衛隊も、国連の要請に基づくPKO派遣部隊は、わが国の厳しい派遣5原則の制約を受けながら、各国軍隊の国際基準との格差に悩み、苦労しながら任務を遂行してきた。過去の派遣部隊の指揮官の派遣記などを読むとその辺の苦労を拝察することができる。

  自衛隊が、国連平和維持活動(pko)に参加する際の条件・5原則は次のとおりである。

(1)紛争当事者間で停戦合意が成立していること、(2)当該地域の属する国を含む紛争当事者がPKOおよび日本の参加に同意していること、(3)中立的立場を厳守すること、(4)上記の基本方針のいずれかが満たされない場合には部隊を撤収できること、(5)武器の使用は要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られること、の5項目で、それぞれPKO協力法に盛り込まれている。 

    国際的に評価の高い自衛隊の派遣部隊であったが、PKO派遣部隊指揮官の体験記に見られるように、現場での部隊活動及び各国派遣部隊との連携などで、法制上の不備が派遣部隊に過度の負担を課してきたことが認められる。こうした反省教訓の上に立って、先の駆け付け警護など安全保障法制の充実で体制固めは一歩前進した。

 このように、自衛隊のPKO派遣に当たって、諸問題が生起したならば、政治が責任をもって解決していく必要がある。諸問題の背景には、つまるところ、自衛隊の位置付けが国家の基本法である憲法に明記されていないことから、第一線部隊の現場の報告書一つが、時の政治情勢や政争によって自衛隊の骨幹に大きな影響を与えることがあることである。

    世界の軍隊で、今回の派遣部隊の活動報告である日報程度のことで、揺れる事例はないであろう。ましてや胸を張って活動報告をするのが通常である。恥ずかしい限りであるが、報告書に「戦闘」という用語があるだけで、鬼の首を撮ったかの如く大騒ぎをし、政争の具に使われる。これがわが国の実態である。

    世界各国において、軍事の世界ではごく当たり前の「戦闘」「戦闘地域」など「戦闘」という用語の定義や解釈をことさらしなければならない自衛隊の立場が、第一線の部隊と言えども、報告書一つに細心の神経を使わなければいけない事態が問題であることを知る必要があるのではなかろうか。

 こうしたことは、与野党を問わず政治が解決しなければならない課題を、第一線の派遣部隊にしわ寄せされている状況にあるということである。問題の本質は突き詰めていくと、自衛隊の存在が憲法に定明文化されていないところにあることを見逃しているところに問題の根源があることを強く指摘するものである。

❹ 自衛隊では「戦闘」等軍事用語は日常に使っている  

    自衛隊では、軍事組織である限り.「戦闘」「戦闘訓練」「戦闘報告」「戦闘詳報」という用語は日常的に使っているといって過言ではない。そこには小難しい理屈や厳密な定義や法律的な解釈を考えて使っているわけではない。一般的な用語として隊員すべてが、何の疑問もなく使用している言葉である。第一線部隊は上級部隊への報告にあたって、厳密な法律的な立場や政治的な配慮をしてこの用語を使っているわけではないからである。

     世界各国は国家の基本として軍隊の保持を国是としているのが普通であり、国家の基本法たる憲法に国軍の保持を明記している。したがって、国民は軍事や軍隊用語への共通の理解がある。 世界を見渡して軍組織において各国で全く起こり得ないことが、わが国では起っている。

❺  活動報告記録はしっかりと保存し今後の活動の資とする

 昭和の時代、35年余の自衛隊の各級司令部勤務で、幕僚としてしっかりと報告書等で作成記録をしてきた。個人においても日記等をつけてきた。当たり前のことである。自衛隊の部隊が毎日の活動状況を上級司令部に報告するのは当たり前のことで、上級司令部の指揮官はこれらによりはl隷下部隊の状況を把握することができる。各種の報告等はすべて規則等で明示し確実に実施されている。

 また、活動報告記録は、今後の部隊任務遂行上の教訓・反省の資とするものであり、再び作ることのできない貴重な資料等となるものである。宝と言ってよいものである。特に、海外における諸活動は新しい活動分野であり、報告書の分析検討と教訓の積み重ねにより、部隊運用、活動上からも得難い資料となるものである。

 今回の日報問題で、毎日の活動報告がおろそかになったり、内容に忖度が行われるようになってはいけない。事実を正確に記録し報告することが求められる。

 基本的には、対外的な発表は、現場部隊の諸報告に基づき最高司令部が全般状況と合わせて要約整理し公表するのが原則であろう。

 貴重な活動記録を破棄するという方向より長期にわたって保存し、より広く活用する方向が求められている。 

❻ 国家国民の負託にこたえる堂々たる自衛隊の任務遂行

 今回の日報問題に関連して、防衛省自衛隊をして、PKÒ派遣部隊の活動報告などにおいて、自衛隊のおかれた国内情勢から政治的な配慮や忖度が行われることを恐れるものである。国民に対する活動状況の積極的な広報はもとより情報公開は当然のことである。

 自衛隊は国家・国民から負託された使命を遂行している。正々堂々と胸を張ってひるむことなく 任務の遂行にまい進してもらいたい。問題が生起した時は、政治の解決にゆだねるのみである。これが政治と軍事の在り方である。政治が問題解決を怠れば、国民は批判し、正しい方向を必ずや示すであろう。

    また、第一線で黙々と任務を遂行している隊員のためにも、防衛隊大臣をはじめ内局 、統合・各幕僚監部及び作戦部隊の最高司令部は、適時的確な判断処置を行い、積極的に活動状況を広報し、国民に安心感を与える責務がある。