元自衛官の時想( 41 )   平成29年度政策提言書に寄せて(4) 3 日米共同防衛・国際共同行動の実効性の確保

    平成29年11月.公益社団法人隊友会」、公益財団法人「偕行社」、公益財団法人「水交会」及び航空自衛隊退職者団体「つばさ会」の4団体が合同して作成された「平成29年度政策提言書」が発表された。

 この提言書は、長年にわたって国家防衛の任務に服したOBと現職の声なき声を代弁する内容のある提言と言って過言ではない。政策提言に寄せるOBとしての思いは、28年度政策提言書が発表された折に、ブログに記した。

 2016-11-17 元自衛官の時想(9)   隊友会・偕行社・水交会・つばさ会の4団体の「政策提言」に思う

OBとして29年度政策提言書に寄せる思い

❶    わが国の国家防衛の第一線にあって任務を全うしたOBとして、この政策提言書は、今日 厳しい環境下で世界各地における国際平和協力活動や国内での諸活動・訓練に励んでおられる自衛隊員の皆様の任務達成と安全を支える立場からも、国家存立の基本である安全保障・防衛について国民の皆様の理解が一層深まることを願ってやまない。

❷ 世界のどの国家であっても、憲法等の国家の基本法には、国家防衛、軍隊について明記している。憲法上、国を防衛するための実力組織を明記し、その地位・役割を明らかにすることが必要と考える。それは国家の平和と独立、国民の生命財産の保護・主権の基盤をなすものではなかろうか。一介の元自衛官であるが、この政策提言書の内容は多くのOBが現職当時からの長年の願望であり、政治的な駆け引きは全くなく、現実を踏まえ長期的視点に立った、実によくまとめられた内容と確信するものである。

❸ 国家の安全保障・防衛は、憲法とこれに基づく諸法令に基づいて行われる。民主主義国家おいては、国民の支持と国民から選ばれた政治によって達成されるものである。政策提言とされたゆえんもここにあるであろう。防衛省の防衛政策、防衛諸計画の策定はもとより、国会における安全保障、防衛政策の審議・議論、政党の政策策定・提示にあたり、この政策提言書が、一人でも多くの方に理解され支持されることを願うものである。

【 平成29年度政策提言内容 】 隊友会ホ-ムベ-ジ 出典)

3 日米共同防衛・国際共同行動の実効性の確保
 日米安全保障体制を中核とする日米同盟は、過去60年余にわたって我が国の平和と安全及びアジア太平洋地域の平和と安全に不可欠な役割を果たすとともに、国際社会の平和と安定及び繁栄にも大きく貢献してきました。
 一方で、今世紀に入り、中国やインドといった新興国の台頭によってパワーバランスに変化が生じ、国際社会における米国の影響力は相対的に低下していると言わざるを得ません。ただし、このような変化の中にあっても自由・民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値観や戦略的利益を共有している米国との同盟が、我が国の国家安全保障の基軸であり続けることに疑問の余地はありません。厳しさを増す安全保障環境の下で我が国の安全を確保し、アジア太平洋地域を始めとする国際社会の平和と安定を確実なものにしていくためには、自らが効果的な防衛力を保持していくことはもちろんですが、加えて日米共同防衛の実効性を一層高めるとともに、国際共同行動
に積極的に貢献していくことが不可欠です。
 こうした観点から平成26年7月の憲法解釈見直しを含む閣議決定「国の存立を全うし、国民を守るため切れ目のない安全保障法制の整備について」の閣議決定に続き、平成27年4月には新たな「日米防衛協力のための指針」(以下、「指針」という。)が了承されるとともに、平成27年9月には、「平和安全法制整備法案」と新法の「国際平和支援法案」が成立しました。こうした動きは、我が国の安全保障体制を強化するとともに国際社会の平和と安全に貢献するものであり、重要かつ大きな一歩として高く評価できるものです。
 ただし、法整備後もROEの策定や新装備の取得、反復訓練による習熟が必要になる等、自衛隊が実際に対応できるようになるまでには多くの時間を要するとともに、隊員が迷うことなく任務を遂行できるよう更に確実なものとする必要があります。
日米共同防衛・国際共同行動の実効性の確保に関連して以下の2点を要望いたします。


(1)日米安全保障条約の改定検討
    「指針」では、「切れ目のない」形で我が国の平和と安全を確保するための協力を充実・強化するとともに、地域・グローバルや宇宙・サイバーといった新たな戦略的領域における同盟の協力の広がりを的確に反映したものとなっています。そして、日米協力の実効性を確保するための仕組みとして同盟の調整メカニズム、共同計画の策定など協力の基盤となる取り組みが明記され、同盟調整メカニズムの具体的な活用目的として、状況を評価し、情報を共有することに加え、「柔軟に選択される抑止措置及び事態の緩和を目的とした行動を含む同盟としての適切な対応を実施するための方法を立案すること」を挙げており、日米間で平素から認識を統一させ実効性のある抑止行動にかかる選択肢を準備しておくことが求められています。
   また、安全保障関連法制整備により、現に戦闘が行われていない場所での補給や輸送が可能になるとともに、米艦防護や戦闘機への空中給油、米国に向かう弾道ミサイル対処についても実施可能となり、重要影響事態等における対米支援が大いに拡充されるものと期待しております。
    このように「指針」は、日米同盟がアジア太平洋及びこれを超えた地域に対して前向きに貢献し続ける国際的な協力の基盤であるとの認識をもとに見直されたものであり、地域及びグローバルな安全保障環境の変化に対応しています。
    そもそも「指針」は、日米安全保障条約を前提にし、両国の権利・義務の上に成り立っているものです。有事における共同作戦の立案にあたり米軍と調整する自衛官や有事において直接米軍と作戦を調整する現場の自衛官にとって何よりもかかる条約上の権利・義務が明確であることが重要です。
   また、1960年に改定された条約は、当時の日米双方の共通の関心であった極東における国際の平和及び安全の維持を基盤としており、現在の安全保障環境の変化に対応させる必要があります。
   かかる観点から日米安全保障条約そのものの改定についても検討が進められることを強く望みます。
(2)国際平和協力活動等における武器使用基準の見直し
    安保法制整備では、自衛隊の国際平和協力活動が拡充され、国連PKO等において実施できる任務が拡大(いわゆる安全確保、駆けつけ警護)され、任務に必要な武器使用権限の見直しが行われるとともに、国連が統括しない人道復興支援やいわゆる安全確保等の活動が実施できるほか、邦人の保護措置を自衛隊の部隊等が実施できるようになりました。
   これにより自衛隊による他国部隊への補給・輸送・医療支援や国連平和維持活動でより実効性のある活動が期待できます。
   しかし、武器使用権限については、安保法制整備によって「駆けつけ警護」のための武器使用や「任務遂行型武器使用」が規定されたことは大きな前進であるものの、このようなポジティブリスト方式の規定では運用に限界があると言わざるを得ません。いかに緻密に起こり得る事態を予測しようとしても現場では想定外の事態が起こりますし、その際に本国において現場で起きている事態の全貌を把握し、タイムリーに的確な指示・命令を出すことは困難と言わざるを得ません。

    また、複雑多岐にわたる規定は現場の隊員を混乱させるばかりでなく、瞬時の判断を求められる隊員を危険に陥れる可能性すらあります。国際の平和と安全の維持という共通目的をもって他国の軍隊と共同行動を行う際には、国際的な法規と慣例に則ったグローバル・スタンダードと整合させることが必要不可欠でする。

    したがって、先進国が採用している「行ってはならない禁止事項」を規定したネガティブリスト方式への変更を強く要望します。派遣部隊の任務が拡大されることに伴っ
て、隊員が迷うことなく任務を遂行できるよう、国際平和協力活動及び邦人保護措置等の海外活動における武器使用基準の早期見直しを提言します。

 

【 平成29年度政策提言についての所感 】

❶ 日米安全保障条約の改定検討

  提言の内容について、全く同感である。 

❷ 国際平和協力活動等における武器使用基準の見直し

 軍事組織において、明確な武器使用規定は諸行動の基礎をなすものである。武器使用規定について、先進国は「行ってはならない禁止事項」を規定したネガティブリスト方式を採用している。

 これに対して、自衛隊における武器使用規定は、ポジティブリスト方式であり、運用面に限界あると提言している。これらは現場指揮官及び隊員の体験からくる切実な要望であることだ。いかに緻密に起こり得る事態を予測しようとしても現場では想定外の事態が起こり、その際に本国において現場で起きている事態の全貌を把握し、タイムリーに的確な指示・命令を出すことは困難と言わざるを得ないからである。

    また、複雑多岐にわたる規定は現場の隊員を混乱させるばかりでなく、瞬時の判断を求められる隊員を危険に陥れる可能性すらある。国際の平和と安全の維持という共通目的をもって他国の軍隊と共同行動を行う際には、国際的な法規と慣例に則ったグローバル・スタンダードと整合させることが必要不可欠ではなかろうか。

 これらの解決のリ-ドは、政治の責任であり、政治家にしかなしえないものであり、政策提言としている理由もここにあるのではなかろうか。

     どの国でも、政党間において外交と安全保障については、一枚岩であり、共通の地盤があるものである。これに対してわが国では政党間に天と地ほどの差がある。

    政党において、国家国民の守りは必要である、自衛隊は必要であるとするならば、大きな立場で提言された内容を政治の立場から調査研究・討議して政策面に反映して、国民をリードし揺るぎない国家を築いてもらいたいと願うものである。