元自衛官の時想( 161) 本質・核心を突き、的確かつ実行可能な具体策を論ぜよ

    かって、若い時代に、「物事の本質・核心を突き、的確かつ実行可能な方策を案出せよ」と先輩から指導を受け精進をした。その転機となった出来事があった。

 航空自衛隊在隊中の52年前のことである。自衛官歴任16年、部内幹候出身の1等空尉の時、航空自衛隊幹部学校指揮幕僚課程(CS)選抜試験を受験した。旧軍で言えば、陸軍大学、海軍大学である。

 受験資格は、階級及び在級年数、年齢、受験回数が決められており、所属長の推薦があれば受験できた。世間で俗にいう「たたき上げ」であったことから、年齢制限の38歳未満のギリギリで、最初にして最後の1回だけ受験資格があったので挑戦した。

 全国各基地で行われた第1次の筆記試験を通過し、第2次は幹部学校において、数日間にわたって、試験官が異なる試験班の集団討論及び個別面接に臨むことになった。

 当時、浜松基地に所在する教導高射隊本部総務班長の職にあった。そこで、北村宏隊司令のご尽力により、指揮系統は異なるが、術科教育本部主催の第2次試験を控えての集合教育に参加させてもらうことになった。

 時の本部長はじめ、教育担当の試験官は、全員が陸大、海大、指揮幕僚課程卒業者で、本番さながらの集団討論、個別面接試験を数回経験した。

 特に、集団討論では、交代で司会、書記を経験した。その場でテーマが提示され、全員で協力して時間内に結論を出す討論であった。

 終了した後、各試験官から講評と個別の厳しい指導と改善すべき事項の指摘を受けた。

 その中に、自分に関しては、「発言内容が情緒的である。本質・核心を突き、的確かつ実行可能な具体策を述べるように」ともっともな指摘を受けた。情緒的な表現は柔らかく綺麗に聞こえるが、実は中身がないことに気づいた。自分の弱点をずばりと指摘されたのである。

単なる感想であればそれも良しであるが、実行可能な具体策を案出して結論を出す討論の場である。ハッと気がつき反省をしたものである。その時から意識して、何事に対しても情緒的な表現、発言をしないように心がけた。自分の持ち味、強みを活かし切っていなかったことに気がついたのである。

 このズバリの痛烈な指摘を契機に、受験者の中では、最も隊務歴が長く、空自創設期の2士から1尉までの経験を有している強みを活かして、自信を持って具体的かつ実行できる方策を述べることにした。その後、何事にも消極的になるのではなく、自分の持ち味・強味を利点として生かすことに努めることにした。今にして思えば、CS受験が人生の大きな転機となったように思う。

 振り返ると、航空自衛隊勤務は、創設から建設期の時代であり、それぞれの階級、職位で失敗を恐れずに自分の考えを述べ実行する機会を与えられた時代であった。

 こうしたこともあって、空曹時代は、内務班長や課内の各ポストの経験、幹部となってからは、第一線の要撃管制幹部、群本部の運用班長、団司令部副官、群の総務人事班長、服務指導担当などの経験を積んで、自信を持って、幕僚として指揮官を補佐することになった。

 幸い指揮幕僚課程に合格して修学し、団・方面隊・航空総隊の各司令部の作戦部隊、術科学校航空教育集団司令部、航空幕僚監部、調査隊で勤務することになった。

 人生には、いろいろな転機となる事柄があるものである。自衛官生活におけるCS受験準備の指導における厳しい指摘が、その後のわが航空自衛官人生を大きく変えるきっかけとなったことに深く感謝している。

 今日、新聞・テレビの番組や声明・談話・発言を視聴していても、情緒的な表現でなく、事柄の核心・本質を突いているか、課題や問題点は何なのか、それに対処する方策は実行可能な具体策であるのかの視点で問うことにしている。

 理想と現実をごっちゃにせず区分けし、現実的な対処から成果が生まれるものであるからである。