昭和の航空自衛隊の思い出(427) 指揮統率と宮下語録(3)

❶   航空自衛隊における語録

    昭和29(1954)年に創設された航空自衛隊は、精鋭の部隊が空の守りを完遂している。この間幾多の先人たちが、厳しい任務遂行の中から指揮官、指揮統率、幕僚勤務、隊員指導などに関する名言、教訓、示唆に富んだ言葉が生まれ残されている。

    航空自衛隊入隊の昭和30年から昭和の時代において、語録といえば、創設期の第2代航空総隊司令官島田航一空将(海兵55期・海大)の「幕僚準則」及び第10代航空総隊司令官鏑木健夫空将(陸士51期)の「鏑木監察」に関連する「特命総合監察における鏑木語録」が有名である。

 その細部は、2015-08-09昭和の航空自衛隊の思い出(165)「島田航一元総隊司令官の幕僚準則」及び、2016-01-10昭和の航空自衛隊の思い出(225)「鏑木健夫空将と鏑木語録」において取り上げたので省略する。

   これらは、指揮要綱、指揮幕僚、業務管理などの教範に記述された原理原則の内容をベースに、実任務遂行における経験から生まれた具体的な行動の規範を示したもので、それぞれが現実的な指標となるものであろう。   

     昭和の時代、創設期の航空自衛隊の各級部隊指揮官及び幕僚が、会議、講話や部下指導などで発せられた語録的なものは、収録できないほどあるものと思われる。

 かって私の上司が熱誠を込めて話した、経験談・失敗談などの講話のメモなどは日記や資料の形で残してきた。また、私自身も教育等における講話の中で「人事業務の実践アドバス」や「上司の期待する先任空曹5章」などを残してきたことがある。

2016-03-01  昭和の航空自衛隊の思い出(249) 人事業務実践アドバイス(1) 

2016-03-14 昭和の航空自衛隊の思い出(258) 上司の望む先任空曹5章(1)

 

    これらの発信は、すべからく、部隊任務の遂行や部下隊員の資質能力の向上と発揮を期待したものであった。たぶん先輩や先人たちも同じ思いではなかったのではなかろうか。 

  宮下語録

 空幕人事課人事課に勤務した当時、特に印象に残ったものでは、空幕人事教育部長に就任された宮下裕将補(防大3期)の「宮下語録」であった。宮下部長は、私が西警団司令部人事部長の時、同じ春日基地で第2高射群司令として俊腕を振るっておられた。

    「宮下語録」は、宮下将補が、前任地の西空隷下の第2高射群司令として勤務されたとき、折々に発言されたものを群本部の幕僚がまとめたものである。特にタイブにしたものではなく、幕僚が書き留めたものと思われる。

    宮下語録は300項にわたるもので、その都度のものを、時系列的に収録したものと思われる。航空自衛隊の指揮官と指揮統率、部隊と部隊運営、部下隊員と指導というものを簡潔な言葉で現わしているのでその一部を取り上げてみた。

   幕僚がしたためたものなので、表現など至らない点があるかもしれないが、当時の時代背景を踏まえながら、文章の末節にとらわれず、本質はどこにあるのかという態度で読み取ると時代を越えて、貴重な示唆と教訓とすべき点が多いと思われる。

 宮下空幕人事教育部長は、その後、西部航空方面隊司令官、統合幕僚会議事務局長、次いで航空総隊司令官を歴任退して退官、しばらくして、故郷の香川県善通寺市長として、平成6年(1994)年~22(2010)年・4期16年にわたって市民本位で職員削減や財政健全化を進め活躍された。27年逝去された。ご冥福をお祈りいたします。

 各項目と順序は、私が勝手に整理したものである。

 

10. 部隊訓練及び訓練管理

〇 目標を見極め、現状を認識し、訓練の方法を決め、レベルを区分して訓練することが大切である。 

〇 ASP(年次射撃)訓練では、過去の減点事項を具体的に徹底して把握し、二度と同じ失敗をしない。

〇 訓練は厳しく身につくまでやる。厳しさは有事に役立つ。有事の頼りは平時の訓練である。

〇 高射隊は、戦力発揮の単一細胞で、その活動は軽快でなければならない。

〇 5年先、10年先の国の安全のために、地に着いた訓練をし、抑止力となる力を持つことが大切である。

〇 狙いとする練度があって、訓練回数がある。

〇 隊員をよく休ませてから訓練することが大切である。

〇 訓練の実施に当たっては、やり方を創意工夫し、自分の殻に閉じこもらないことである。

〇 訓練の成果を分析評価することが大切である。

〇 訓練管理のノウハウを整理することが大切である。

 

11.教育訓練

〇 人を育てるプロセスは、「知る」「教える」「励ます」「叱る」「ほめる」ことである。 

〇 個人の薫育に、テマ・ヒマをかける。そして後輩を育て次期世代を担う隊員を養成する。

〇 射撃は100mでやっているが、本来200mでやるべきである。いつの間にか射撃は100mでやるものだと思い込んでしまうことが恐ろしい。

〇 先ずほめよ、そして励ませ。

〇 厳しい訓練の中に、楽しみ、ばかになることが大切だ。 

〇 体育が訓練としての体育になっていない。

〇 空自は、見学者にものを見せる発想に陥りやすい。隊員の教育を見せることが大切で自分の隊員を自慢できる部隊であってほしい。

〇 野外訓練は、よく鍛えた、よく鍛えられたと感ずることが大切である。

〇 競技大会は、成果を問う一つの場である。競技大会が終わればすべて終わりでは駄目である。

〇 走ることで大事なのは、走ることの限界を知ることである。

〇 断郊競技は、走っている最中に優劣が分かるようにすることが大切である。

〇 訓練点検は、検閲に準ずるものであり、補佐官としての威厳と自覚をもってことにあたり、部隊には、平時の緊張感を醸成することが大切である。

〇 訓練点検は、保全を図り、あらかじめ問題を渡すとか、なあなあ点検にならぬよう注意し、部隊に状況を付与して能力を確認することが大切である。

〇 体力、気力の向上だけが訓練ではない、士気向上も大切である。

 

12.隊員指導、服務指導

〇 隊員指導は、薫育教導である。激励し、薫育し、自衛官に変身させる。

〇 血の通った指導が必要で、冷厳一徹では駄目である。

〇 若者は一度や二度の失敗があり、事故を起こすこともあるとの前提に立って隊員指導をする必要がある。

〇 若者はいいところや可愛いところがある。

〇 平時における武人の心構えの第一は、進んで指揮官の掌握下に入ることである。

〇 隊員の意識が管理する側、管理される側になっては進歩がない。

〇 指導は本人個人のためを思い指導していることをよく徹底せよ。

〇 人の悪口は言うな。

〇 生活指導には限界があり、本人の了解が必要である。

〇 本気で指導していないから、本気で叱れない。

〇 指導に不平等があってはいけない。

〇 隊員が後で振り返って本当に良かったと思えるようにしたい。自衛隊が負け犬的根性になっては駄目だ。

〇 隊員指導を片手間にやってはいけない。

〇 隊員をほめることが少ない。一人ほめれば10人働く。

〇 人は日によって心がコロコロと変わるところに問題がある。

〇 実態を知らず、思い込みで指導しないことである。

〇 借金は、病気である。

〇 服務指導の狙いは、事故防止でない。

〇 服務指導を一生懸命やっているので事故ははありませんというのはよくない。

〇 どうしてやる気を起こさせるか、幹部は関心を持つことが大切である。

〇 人に注目し、褒め、目的を与え、ほめられたことのない隊員をほめてやることが大切である。

〇 若者の二-ズを無視しない。

〇 隊員指導は、机上の指導になってはならない。

〇 隊員指導は、他人事、人様がやることになっていないか。

〇 自分の都合の良いように休みたいという若者の考え方がある。

〇 若者の本音を聞いてやることが大切だ。

〇 温情主義ばかりでは駄目である。

〇 退職隊員(任期満了)の心情を把握しないと隊員指導はできない。

〇 やめていく隊員の中に隊員指導のカギがある。

〇 どうやってよいか分からないときは、みんなで知恵を出し合って策を練ることが大切である。

〇 信頼されるまで、真剣に部下指導しているだろうか。

〇 服務の実態を知らないのは、幹部だけであるということは戒める必要がある。

〇 幹部は部下を、部下は幹部を信頼しない関係を作らないことである。

〇 若年者の失敗(事故)に際して、私が指導し立派に立ち直らせるという隊員が必要である。

〇 上下の信頼関係を裏切ったらきびしくやること。真剣に怒り指導する気迫が必要である。

〇 服務安全の指導は、きれいごとのみでは徹底しない。