昭和の航空自衛隊の思い出( 2 ) 非常時の資質能力の発揮

1.不測事態対処で資質能力が問われる

    先の3.1Ⅰ・東日本大震災で、ときのわが国の最高指揮官である内閣総理大臣の「危機管理能力」、つまり「不測事態対処能力」・非常時における「指揮官の資質能力」が問われ話題となったことがある。

     新聞テレビ等の映像を観ると、巷の評価もうなずけるものがあった。

    これは、総理大臣だけではなく、東北の被災した自衛隊の駐屯地・基地の指揮官はもとより、出動した全国の各級の部隊指揮官・幕僚もそれぞれの立場で、不測事態対処における指揮官、幕僚としての資質能力を試されたのである。警察官も消防官も同じであったであろう。

    不測の事態は、ある日突如として生起し、部隊及び指揮官・幕僚の対処能力を無情なほど容赦無く試される。

    そこには、歴然として結果が出るから取り繕いや隠しようがない。指揮官の性格・判断力・決断力 などその人の全てが試され明らかとなり評価される。状況によっては行動、言動が部下の直視するところとなることもある。

    時の統合部隊指揮官に任ぜられた君塚栄治陸将は出動した各自衛隊の大統合部隊を束ねて指揮統率し、名指揮官として評価され、陸上幕僚長に栄進された。

   これは氷山の一角であって、持てる実力を発揮できた指揮官・幕僚、十二分に発揮できなかった指揮官・幕僚とさまざまであったであろう。

   人は平常時は上手く出来ることが非常時には狼狽えて、上手くできないことがあることを経験することであろう。

    こうしていざという不測の事態に対処を命じられた指揮官・幕僚が、毅然として任務に立ち向かう基盤はどこにあるであろうか。普段の厳しい錬成によって培う以外にないのである。

 

2.大航空事故の対処

    航空自衛隊に35年間在職したが、航空機事故、服務事故など大小様々な事柄を経験したり見聞してきた。創設期は航空事故が多く発生した。

    特に、基地外における航空機事故といわれる大事故が発生した場合の対処において、各級指揮官及び幕僚がどのように対処したか、上級指揮官の采配がどうであつたか厳しく評価される。

    予測される事態の場合は、事前準備などの余裕があるが、突如として発生した事案の場合、即座に対処しなければならないとき、各級の指揮官及び幕僚の資質能力がよく分かるものである。

    俗に言う度胸が据わって、冷静沈着にして状況を的確に判断決心し、命令を出すことができる者と平素優秀と目されれながら動転し、持てる能力を発揮できなかつたり、迅速に事態の推移に対応できず、オタオタする者もいる。普段よりずば抜けて能力を発揮する者もいる。

    特に初動の修羅場は情報が錯綜し、事態の把握が困難であればあるほど、指揮官・幕僚の資質能力が歴然としてくる。

     指揮官の場合、小部隊の指揮官は務まっても、大部隊の上級指揮官には向かない者もいる。人物に申し分がなくてもその重責に耐えられず持てる能力を発揮できないタイプである。小部隊の指揮官のときは、その資質能力の弱点が顕在化しなかっただけのことであろう。

    これらは、大きな事故・事案であればあるほど対処の過程でその資質能力が明確となってくるものである。

 

3.  不測事態対処の資質能力の錬成

     私は、航空自衛隊の創設期の昭和30年代に青年幹部としてレーダーサイト勤務した。防空指令所の要撃指令官として、彼我不明機に対して初めて、待機の要撃機に対して、「スクランブル」をかけたことがある。レーダースコ-プの回る薄暗い作戦室でクルーの全員がかたずをのんで見守る中、航跡が確立されてから数分のうちに各種の情報から判断決心しスクランブルを発出したときの「あの息詰まる緊張の一瞬」のことは終生忘れることがない。

    実任務として初めてスクランブル機を要撃管制したときもしかりである。何回も実任務経験を重ね、平素たゆまぬ錬成訓練をしていくとその成長を自分で自覚し自信がついていったことを鮮明に覚えている。

 人の資質能力は場数を踏めば踏むほど向上する。将来の上級指揮官として資質能力があると認められた幹部自衛官には経歴管理として、主要なポストに配置し、幅広く経験させ、逐次選別することはどの軍隊でも同じであろう。「ポストが人を磨く」といわれるゆえんである。

    これらは平素の訓練、修練によって克服できる面と本質的に精神・性格等の資質面から上級指揮官に向かないものを秘めていることがある。

    「適材適所」と「抜擢」は人事の基本であるが、ポスト・階級・年齢を重ねていくうちに、各人の資質能力は自他ともに暗黙のうちに評価し合い、同期の間でもほぼ分かってくるものではなかろうか。

 

4.指揮官の資質能力

 自衛隊、警察、消防の世界、特に軍隊においては、緊急時における各級指揮官の対処能力は極めて重要である。その中でも指揮官の的確な判断と確固たる決心は、部隊の任務遂行の成否、隊員の生死に直結するもので必須の資質能力であろう。

    自衛隊では、曹・幹部、部隊の大小、職種、職位を問わず各級の指揮官として、日々目標を持って錬成している。修練の積み重ねが各自の資質能力を高めている。

    いざという時どう対処するか常に考えて長年錬成してきた者とそうでない者との差は、非常のときに歴然とするのは当たり前のことである。

    古今東西、軍隊は有事においてその実力を発揮し「戦勝」することにある。全てはそこに帰結する。

 

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