元自衛官の時想(1) 自衛隊OBの一人一役運動

初めに「元自衛官の時想」

 35年余の自衛官生活を終えて約25年が経った。自分自身の人生の総決算の意味で、ブログを立ち上げて、人生の主要活動期であった自衛官生活・勤務を中心に、「昭和の航空自衛隊の思い出」として認めつつあります。一方、退官後、元自衛官の立場から天下国家の最近の防衛環境に対応した安全保障体制等の話題から地域の身近な防災、安全について、時折「元防人雑感」として綴ることにしました。

 徒然の雑感なので、推敲に推敲を重ねた理路整然とした内容や文章を目指すものではない。どちらかというというと、普段着のままで、大上段に構えず、難しい専門的なことではなく、ごく普通のことを書くことにしています。

 人生の大きな節目に当たる80歳の峠を越してみると、これから先は上り坂というより下り坂のようである。ごく自然に年々萎んでいくのであろうか。

 ブログも、こうしたことから自然な形で過去と現在を並行して進めて行けたらと思う。

初回は、「自衛隊OBの一人一役運動」について触れたい。

自衛隊OBの一人一役運動」

 隊友活動への参画

 平成2年に航空自衛隊を定年退官して、1年半ほどして大先輩の桑原善明隊友会浜松部長から仕事に慣れたであろうから支部活動を手伝ってくれないかと誘われた。自衛隊勤務は35年お世話になっており、いつかは恩返しをしたいと思っていたので隊友会活動に参画することにした。

 新しい職場は、自動車保険料率算定会(現損害保険料率算出機構)調査事務所で自動車保険の損害調査を主たる業務とするところで、全く一から始める仕事であった。

未知の全く新しい仕事への挑戦は、自衛隊時代から幾度も経験し乗り越えてきたのでやり甲斐があった。浜松から静岡への電車通勤であり、勉強・勉強の連続と大量の仕事量の処理に没頭していたが、仕事は仕事と割り切り、土曜日曜に支部活動に集中した。

 こうした中で、損害調査員を経て課長職、所長職を務める傍ら、副支部長、支部長に選出され浜松支部を統括することとなった。

 

 一人一役運動の提唱

 静岡県隊友会浜松支部長に就任するにあたって、1年6月半、副支部長として全体の活動を勉強した。桑原先輩が築いてこられた活動基盤に立って、更に充実発展を期するには、時代の進展に先行すべく今後やるべき方向と重点を固めるべきだと考え、支部活動の中期計画を立案し年度計画に織り込むこととした。

 その中で、平成4年度から隊友が在隊間に培った実力を発揮し、地域社会に貢献しようと「一人一役運動」を展開することにした。支部創設以来、こうした活動は実際に行われていたが、活動方針の大きな柱として打ち出したものである。

  これは、地域社会にどっしりと根を張って、自治会、各種団体、スポ-ツの役員・リ-ダ-等として積極的に活躍し、地域社会に貢献する、尊敬される隊友一人一人が存在することによって、OBの社会的評価を高め、隊友会の存在を周知させ、「自衛隊と国民との架け橋」としての役割を果たすことに繋げようとするものであった。

    隊友個人を対象とした「一人一役運動」は、隊友会の組織的社会活動と両輪をなすものであるとの考えによるものである。

 

❸ 一人一役運動の成果

 「一人一役運動」は、全国どの支部でも同様であるが、一人一役どころではなく、一人何役もこなす状況で、その成果は着実に結実しつつある。静岡県会議員・浜松市会議員等の政治の分野をはじめ、浜松市連合自治会長・地区自治会連合会長・各町自治会長、家裁調停員、児童民生委員、各種ボランティア団体の代表、ポランティアガイド或いはスポ-ツ団体の理事長・指導員、地域の神社総代等多士済々、各分野での奉仕を積極的に行い、地域社会から高い評価と信任を受けていた。この運動は現在も続行しており着実に成果を挙げている。

 

 地域社会で信頼と抜群の能力発揮の源泉

 地域社会の活動にあたって、自衛隊OBの利点は、自衛隊在隊間培った体力・気力・知識・経験もさることながら、何といっても奉仕の精神、真面目・情熱・意欲、企画・文書作成力、調整力、実行力に優れている点があげられる。

 多くの隊友が最初は地域の普通の係程度の役柄を担うヶ-スから始まって、短期間で、目を見張るような成果を上げ、周囲の信頼を得て推挙されて逐次上位の役柄についているのが特色である。

 自衛隊出身者が総べてそうだとは言えないが、特に、隊友会に入会している隊友は、手抜きをしたりしないで真面目にやり抜く、いとも簡単に企画・計画を作る、実行力と実員指揮に優れているといったことの積み重ねによって周囲から多大の信任を得ているようである。

 共通して言えることは、在隊間の階級・地位・職務にかかわりなく、地域社会で一人一役以上をこなしていることは特記すべきことであろう。

 

❺ どうして地域社会において自衛隊OBの活躍度が高いのか

 地域社会には、地域運営のための各種の組織があり、主要役員が組織運営の中核となって円滑に事業等が推進されている。それらの代表的なものとしては、自治会・町内会長などの主要役員であったり、ビル居住者協議会の理事長、スポ-ツ・ボランティア各種団体の役員、神社総代、民生委員、防災・防犯委員など数え上げたらきりがないほどの役目がある。

 こうした役職には、地元で育った住民が主体の組織であるが、自衛隊OBは一般的には退官前後から地域社会に定住してから何らかの役割を担っているケ-スが多い。

 しかし、准尉・曹の階級にあって、その土地で長期にわたって安定した勤務ができた隊員は、現職時代から地域社会で、本務の傍ら余暇を利用してそれなりの活動をしているものが多く見られる。

 多くの隊員は、最終又は中途の勤務地で永住地を選定し、地域に根を下ろしていく。そのきっかけは、家族・学校・再就職・老後の設計などの関係であり様々な要素が絡むものと思われる。

 退官後、短期間でその土地に馴染み一体化していくにはそれなりの努力が必要であることは当然であろう。それを支える基盤になるものは、全国の各勤務地で経験した地域社会での生活体験などの結果、最終の永住地としてその土地を自ら選択したものであることから、満足度がかなり高いということである。

 自らの意志で永住の地域に骨をうずめようと決心しただけにその土地愛・郷土愛・地域愛は一層強いものがあり、積極的な地域への奉仕の気持ちを持ち合わせている。

 また、短期間で地域になじんでいくには、自治会・町内会はじめ各種団体でそれなりの役割を果たすことが最小期間で最大の成果を挙げることに繋がることが多いといっても過言ではない。立派に役割を果たせば周囲の信頼を得ることになり、名実ともに「その土地の人」になりきれるからだ。

 この点、自衛隊員は組織の一員として地道に黙々とその役割を忠実に果たすことは、当然のこととして在隊間培ったものであり、諸活動に参画できる能力を備えている者が多いといってよいのではなかろうか。

 自衛隊OBは、本人にやる気さえあれば地域社会で一人一役の活動を見事に果たすことが出来る恵まれた資質能力を持っているといって過言ではない。この辺に活躍度が高い理由があるように思うがどうであろうか。