ふるさとがあるのはありがたいことである。歳を重ねるごとにそのことを強く感じる。ふるさとを離れて60年の歳月が流れた。
時折、「ふるさと」(作詞・高野辰之 作曲・岡野貞一)を口づさむと、今や亡き両親・兄姉や故郷の山野が浮かび励ましを受ける。
「日本はいい国だ」と同じように「故郷はいい故郷だ」と思う。
《 わが郷土 湯梨浜町宇野には、小さな集落にしては、地域のお宝がいっぱいある。昔と同じように今は宇野区としてしっかりとした自治組織があり、宇野の良さが受け継がれている。》
《湯梨浜町宇野には、湯梨浜町指定無形民俗文化財が三つある。一つは「宇野三ツ星盆踊り」、二つ目は「平成の名水百選の宇野地蔵ダキ」、三つ目は「国指定名勝尾崎氏庭園」である。
今は、これらはインタ-ネットで、検索するとその由来・経過・現状・保存状況など知ることができる。
子どもの頃は、盆踊りは見よう真似ようで加わり、ダキの水は自分のうちの水のように使い、女同級生のいた名家の尾崎邸には友達と自由に出入りし庭園を見ていた。
小学生のころは、大東亜戦争の最中と敗戦後にあたり、決して豊かな時代ではなかったが、鳥取県の静かな集落で、空襲を受けることもなく、豊かな自然の中で成長した。》
因伯の名水 宇野地蔵ダキ!
《ふるさと湯梨浜町宇野に帰ったとき、最初に訪れるところは、集落の東にある「宇野地蔵ダキ」の水を飲むことである。両手を広げて腹いっぱいダキの水を飲み干したとき、ふるさとに帰ったと実感し、至福のひと時を味わう。
子どもの頃は、海に入った後は、樋の下に身体を丸めて頭から水を浴びたものである。冷たくて短い時間しかじっとしていられなかった。時にはスイカやウリを冷やしたりもした。冷蔵庫代わりでもあった。
前の山から湧き出る水はまろやかでおいしく、ふるさとを離れてから航空自衛隊で全国を転勤して、各地の名水に接してきたが、私にとっては心を癒してくれる日本一の最高の名水であった。
平成に入って環境省の名水百選に選ばれたが、まさしくその通りで、宇野地蔵ダキの水は名水である。
子どものころに比べると、このごろは水量がやや減ったように感じられる。当時はどうしてこんなに大量の水が流れてくるのだろうかと不思議に思ったものだ。
近年は、名水運びのリヤカ-が置いてあり、近くの駐車場の自家用車まで運べるようにしてある。きっとこの名水をいただく人は、それにもまして心に響くその人情がおいしさを倍加するであろう。
宇野区の「名水と環境を守る会」の皆の努力のたまものであろう。ふるさとを離れて60年、宇野地蔵ダキの本当の良さ・魅力がわかりかける歳になったようだ。
自分の人生にとって「故郷とは何か」を問いかけている。》