昭和の航空自衛隊の思い出(426) 指揮統率と宮下語録(2)

❶   航空自衛隊における語録

    昭和29(1954)年に創設された航空自衛隊は、精鋭の部隊が空の守りを完遂している。この間幾多の先人たちが、厳しい任務遂行の中から指揮官、指揮統率、幕僚勤務、隊員指導などに関する名言、教訓、示唆に富んだ言葉が生まれ残されている。

    航空自衛隊入隊の昭和30年から昭和の時代において、語録といえば、創設期の第2代航空総隊司令官島田航一空将(海兵55期・海大)の「幕僚準則」及び第10代航空総隊司令官鏑木健夫空将(陸士51期)の「鏑木監察」に関連する「特命総合観察における鏑木語録」が有名である。

 その細部は、2015-08-09昭和の航空自衛隊の思い出(165)「島田航一元総隊司令官の幕僚準則」及び、2016-01-10昭和の航空自衛隊の思い出(225)「鏑木健夫空将と鏑木語録」において取り上げたので省略する。

    これらは、指揮要綱、指揮幕僚、業務管理などの教範に記述された原理原則の内容をベースに、実任務遂行における経験から生まれた具体的な行動の規範を示したもので、それぞれが現実的な指標となるものであろう。   

     昭和の時代、創設期の航空自衛隊の各級部隊指揮官及び幕僚が、会議、講話や部下指導などで発せられた語録的なものは、収録できないほどあるものと思われる。

 かって私の上司が熱誠を込めて話した、経験談・失敗談などの講話のメモなどは日記や資料の形で残してきた。また、私自身も教育等における講話の中で「人事業務の実践アドバス」や「上司の期待する先任空曹5章」などを残してきたことがある。

2016-03-01  昭和の航空自衛隊の思い出(249) 人事業務実践アドバイス(1) 

2016-03-14 昭和の航空自衛隊の思い出(258) 上司の望む先任空曹5章(1) 

    これらの発信は、すべからく、部隊任務の遂行や部下隊員の資質能力の向上と発揮を期待したものであった。たぶん先輩や先人たちも同じ思いではなかったのではなかろうか。 

  宮下語録

 空幕人事課人事課に勤務した当時、特に印象に残ったものでは、空幕人事教育部長に就任された宮下裕将補(防大3期)の「宮下語録」であった。宮下部長は、私が西警団司令部人事部長の時、同じ春日基地で第2高射群司令として俊腕を振るっておられた。

    「宮下語録」は、宮下将補が、前任地の西空隷下の第2高射群司令として勤務されたとき、折々に発言されたものを群本部の幕僚がまとめたものである。特にタイブにしたものではなく、幕僚が書き留めたものと思われる。

    宮下語録は300項にわたるもので、その都度のものを、時系列的に収録したものと思われる。航空自衛隊の指揮官と指揮統率、部隊と部隊運営、部下隊員と指導というものを簡潔な言葉で現わしているのでその一部を取り上げてみた。

   幕僚がしたためたものなので、表現など至らない点があるかもしれないが、当時の時代背景を踏まえながら、文章の末節にとらわれず、本質はどこにあるのかという態度で読み取ると時代を越えて、貴重な示唆と教訓とすべき点が多いと思われる。

 宮下空幕人事教育部長は、その後、西部航空方面隊司令官、統合幕僚会議事務局長、次いで航空総隊司令官を歴任して退官、しばらくして、故郷の香川県善通寺市長として、平成6年(1994)年~22(2010)年・4期16年にわたって市民本位で職員削減や財政健全化を進め活躍された。27年逝去された。ご冥福をお祈りいたします。

 各項目と順序は、私が勝手に整理したものである。

6. 指揮官・幹部

〇 幹部は部隊のマネ-ジゃ-であり、部隊を育成できなくてはならない。

〇 幹部は幹部らしく、現状を認識し、分析し、将来の方向を決定し、上級空曹に指示し、具体的にやらせる。

〇 上意下達、下意上達の気風を作れ

〇 指揮指導する者に、権限と責任を与えよ。 

〇 自分が責任を逃れるために厳しくやってはならない。

〇 意図の徹底は、口で言うほど簡単ではない。

〇 よく目的を知らせ内容を伝えないと意図は徹底しない。

〇 災害派遣が考えられれば、予め、偵察行動を起こすことはよい。

〇 目的をもって間髪を入れず、行動することが大切だ。そのためには権限と責任の範囲を知っておくことが大切である。

〇 トップは弁解するな 。

〇 命令を出せば部隊は動くと考えるのは、指揮官の錯覚である。

〇 部下指揮官に全指揮を任せのは有事である。

〇 隊長の仕事の8割は、人に関する施策である。

〇 指揮官の所在を明確にせよ。

〇 幹部は普段から覚悟を決めてかかれ。

〇 空自幹部には、決まったことはできるが、応用ができない傾向が出ている。

〇 幹部教育は、幹部の頭の体操が狙いである。 

〇 幹部の第一特技は、人をマネ-ジメントすること、隊員を教育することである。

〇 我々は評論家であってはならない。

〇 高射隊長は、飛行隊長と同様に戦闘指揮を執るべきで、基本的にはBOCであるべきである。

〇 口頭命令も命令であり、合法的なものは有効である。非合法的命令を部下に命ずることはもっともいけないことである。

〇 命令・指示の確認ができないような命令・指示は出さない方がよい。

〇 群司令のために仕事をするな、隊、群、航空自衛隊のために仕事をせよ。

〇 ASP(年次射撃)で優秀を取れないのは、幹部の責任である。

〇 幹部は転ばぬ先のことをもっと考えよ。

〇 若い幹部はビジョンを持て。

〇 幹部は、20年先のあるべき姿(代謝、処

    遇等)を考えないと社会から取り残される。 

7.幕僚及び幕僚業務

〇 幕僚は、命令、指示の根拠を自ら確認せ

    よ。

〇 幕僚は根拠がなければ根拠を作れ。

〇 幕僚は、自分の仕事のために、れい下部隊

   から報告を求めることは戒める必要がある。

〇 計画は、実施するのが人間であることを常に考えよ。

〇 計画は、人的要素が抜けてはならない。

〇 訓練計画は、目標があって計画を作るべきで、部隊の現状どうあるか認識し、理想像は何か、部隊の練度は、部隊の到達目標は何か、今何が必要か把握し計画を作ることが大切である。

 

8.指揮統率

〇 部隊の指揮、規律、団結の中心は幹部である。幹部が部隊の中核であるという気構えがないと部隊の活力がなくなる。

〇 正面ばかり目が向いていると後方の面倒を忘れる。

〇 指揮官は急を要するとき、間髪を入れず、的確な命令を出せ。理屈だけで兵を動かすな。

〇 兵は情によって動くことを知るべきである。

〇 機材は20年も同じである。人は生き物である。

〇 群全体で誰が、どこの部隊が、苦労しているか着目し、激励することが大切である。

〇 激励は電報でも可、人間は意気に感じて働くものである。

〇 年次射撃に行かない隊員(留守部隊)に目を向けよ。

〇 部隊が優秀な成果を上げるために、その舞台裏を支える心構え、気構えを持つ隊員が必要である。

〇 部下隊員は、部隊のために働かさねばならない。古来この人のためならば・・・とするのが統御の理想といわれたが、そんな指揮官はまずいない。

〇 指揮官は、その時の部下のために働かねばならない。

〇 指揮官は、部隊や部下を私物化したり、部隊に自分の趣味を持ち込むことは厳に戒めよ。

〇 和をもってまじめに職務を遂行せよ。

 

9. 隊務運営 

〇 隊務運営の中核は訓練である。

〇 有事に動ける部隊を平時に作ることが大切だ。

〇 日常の業務の中に実戦的体質の養成が必要である。

〇 部隊の全員が戦士であれ。

〇 部隊の業務を見直し、高率化、省力化、短縮化等の改善を図る必要がある。

〇 群司令は隊長に任せしすぎては改善はできない。

〇 あまり苦しい報告を求めるな。

〇 目的達成の障害に注目して、目的達成よりも目的を修正しようとする傾向があるので注意が必要である。

〇 平時は、目的を修正しても責任を問われないが、有事は許されない。 

〇 自衛隊は、営利企業でないので、やりやすいことをやったり過去やったことのあることをやりたがる。目的達成のためには、普段やらないことを考えることも大切である。

〇 入口の無駄は、無駄でない。

〇 長期ビジョンの必要な新しい計画の策定は関係者を集めて充分に読会せよ。

〇 隊員の意見、苦言は万金に値する。

〇 曹士の人異動は、移動先の戦力の向上及び本人の伸展が原則である。

〇 方針が示されれば、上から言われなくても具体的に着眼をもってやるべきである。

〇 MRの狙いは、指揮官と幕僚が同じ状況下にいて、同じことを知って、一緒に考えることにある。

〇 平時の隊務は、有事の戦力発揮を念頭に置き、一つ一つ具体的にやる必要がある。

〇 平時に甘えて、隊員を甘やかし、業務をしないことである。

〇 責任をもって人を見ることが大切である。

〇 人を中心、人を大事にする部隊運営

〇 努力の成果を公平に確認しないと、ノンプロになってしまう。

〇 部隊をやる気にさせるのが群本部の仕事である。

〇 待機だとか自分の特技に関するものが本来の仕事だと考えているが、これは仕事の一部でしか過ぎない。

〇 違反を誘発するような規則(守れない規則)はよくない。

〇 服務指導は、柔軟性と幅を持っ事が大切である。

〇 管理する側の立場だけでは服務指導はできない。