昭和の航空自衛隊の思い出(121)  副官勤務の総括

    昭和41年5月から43年7月まで中部航空管制団司令部副官として中部航空管制団司令兼ねて入間基地司令に約2年間勤めた。この間、山口二三将補(元空幕防衛部長)、白川元春将補(元航空幕僚長統合幕僚会議議長)の2代の団司令にお仕え、最後は石井信太郎将補に次の副官交代までしばらく勤めた。

 副官として、不充分ながら全身全霊をもって努めてきたつもりであるが、指揮官の立場から見たらどのように受け止められ評価を受けたたか知る由もない。そのことよりも、むしろ、私自身が副官勤務を通して、何をどのように受け止め、どのような恩恵を受けたと考えていたかということにつきるであろう。

1.  破格の学びと経験ができたお宝のポスト

 将官配置の団レベルの副官経験であったが実に有益な勤務であった。将来有為な青年幹部に経験させたい配置である。単に上級指揮官の庶務的事項を行うなどのポストではなく、本人の心がけで、学びと経験のお宝があるポストであるということである。

 階級は2等空尉の副官勤務であったが、一般部隊における2尉の立場では経験できないことを経験する機会を与えられた。これは単に上級指揮官にお仕えしたという程度のことではなく、この勤務から学ぶことが大きく、短期間で広範囲かつ高度な知識と経験をさせてもらったことである。二度と学べない、経験できない多くのことを学び、経験したことが、その後の幹部自衛官としての生き方、諸活動にとって非常に役立ち極めて有益な配置であった。

2.  空自及び基地全般についての関心と理解

 入間基地は、多くの司令部、所在部隊と隊員数の規模からも航空自衛隊最大級の基地である。首都圏・中京・京阪神といった日本の中枢地域を含む最も広い防空空域(本州中部と中国・四国地方東部)を担当する中部航空方面隊の司令部も、ここに置かれている。入間基地を離発着する主要幹部の往来・来訪だけでも席の温まる暇もないくらいであった。

 主要幹部の接遇等を通じて、航空自衛隊全般について大きな関心を持って見守ることができた。空自の主要指揮官の顔と名前がいつの間にやら一致し、戦史に出てくる旧陸海軍の著名なお方を接遇することがあった。

 特に、基地を取り巻く諸情勢と諸問題、中部航空方面隊司令官及び上級司令部との関係、基地司令と所在部隊及び部隊長の関係、基地業務運営と部隊支援など幅広い分野について、直接業務にタッチするわけではないが、毎日の副官業務の調整実施、関係指揮官・幕僚の司令に対する諸報告の出入り、文書報告決裁、多数の来訪・来客の調整・統制などを通じて概略を承知ことになるからである。 

3.  司令部活動と幕僚の役割

     副官は階級的には司令部の中では低くても、どの幕僚も副官を大事にしてくれる。それはいつ、どの時間帯に決裁を仰ぐのが一番良いか副官が知っているからだ。多忙を極めている最中に、緊急処理事案は別として、一般業務で難しい案件、長文の決裁文書を持ってきても幕僚の思惑通りに運ばないことがある。

 要領の良い幕僚は、副官としっかり調整して、副官からの連絡で副官室に待機、タイミングよく決裁を仰ぐといった次第である。当然その前に、司令にはあらかじめその旨ブリ-フングして一日のスケ-ジュ-ルに織り込むからである。

 幕僚業務の進め方にいては、副官という第三者的な立場で、毎日の司令部活動や幕僚の活動状況を見てよい事例や、悪い事例を垣間見て学ぶことが多かった。後年、幹部普通課程、指揮幕僚課程で学ぶことの実務編を実際に見聞することになった。

 これらはその後、各級の司令部勤務で大いに役立つことになった。

4.  幹部自衛官としての在り方を学ぶ

 私は航空自衛隊における操縦学生・部内幹部候補生出身の幹部の一員として歩んだ。2等空士の 空士から空曹を経て1等空佐まで幹部の道を歩んだ。短期間ではあったが陸上自衛隊も経験した。部隊勤務は隊・群・団司令部・方面隊司令部・総隊司令部・空幕と各レベルの勤務と教育部門の司令部及び学校教官を経験することができた。その上指揮幕僚課程に学ぶことができた。

 総括して振り返ると、若い時代の2等空尉の時に経験した副官勤務が、私の心の中に、内面に驚くほどのものを植え付けてくれたように感じている。内面的なことであり無形のものであるが、感化であり、自覚であり、向上心であり、学ぶことが多かった。

 副官の立場は、司令部活動の中で、自らの職務に対する上司等周りの皆さんの評価「仕事ぶり」については分からないが、僭越ながら司令部幕僚、隷下部隊指揮官のありようの一端を第三者的な位置から冷静な目で観察し学ぶ面が多かったように思う。常に「自分だったらどうするか」と考え学ぶことができた。階級は低くてもそのような恵まれた配置が副官のポストであったように思えてならない。

 幹部自衛官はどうあるべきか、公私を問わず自衛官人生における大きな命題であったが、このことを理論や頭の中で考えるのではなく、毎日の勤務・日常生活の中でいかに実践していくべきかを考え、自分なりの一つの方向・指標のようなものを見出したように憶えている。

 私にとって、副官勤務は、名将にお仕えすることができたことを常に誇りに思い、それに恥じない自衛官人生を心掛けようと固く心に秘めることになった。

 

 *次回からは、毎日の副官業務などについて若干触れることにする。