昭和の航空自衛隊の思い出(9) 空自創設60周年に思う

1.    航空自衛隊の創設から今日まで

    私が航空自衛隊に在籍したのは昭和30年6月2日から平成2年4月までの創設・建設期の35年間である。
    今日の創設60周年から見ると前半期にあたる。後半期は概ね私が退官したころの平成の時代に入ってからであり、充実発展期であったと言える。
    今や、長年待ち望んだ国家安全保障戦略の制定,新防衛計画大綱と大きな枠組みと自衛権行使に関わる諸実行動の法的体制が整備されつつあり、航空自衛隊にとって新時代が始まろうとしている。昭和時代の航空自衛隊で勤務した老兵の一人として感慨新たなるものがある。
    いみじくも、防衛省航空幕僚長斎藤治和空将は、航空自衛隊連合幹部会機関誌「翼」本年7月号の巻頭言において「航空自衛隊創設60周年によせて」と題しての中で、航空自衛隊の創設から今日を次のように述べておられる。
    「航空自衛隊は、本年7月1日に創設60周年を迎えた。昭和29年に約6700名の人員と約150機の航空機をもって発足した航空自衛隊は、今や約5万名の人員を擁し、Fー15やFー2等の戦闘機をはじめ、早期警戒管制機、空中給油・輸送機、ベトリオット等を装備、また、戦闘機や練習機等を国産化するとともに、次期輸送機の開発を推進する等、先進国空軍とまさに肩を並べる組織に成長した。
    加えて冷戦終結後は,国際貢献の重要性の高まり等により、任務や求められる役割が拡大・多様化したが、航空自衛隊は的確に対応し、カンボジアルワンダ等における国際平和維持活動や緊急援助活動に伴う空輸任務等に従事した他、イラク人道復興支援特措法に基づく空輸、あるいは弾道ミサイル等に対する破壊措置や大規模災害等への対応など、それぞれの任務を着実に遂行し、国内外から高い評価を得てきている。」と述べられている。
    私があえて斎藤治和航空幕僚長の文章をここに取り上げたかと言うと短い文章の中に、空自60年の歴史が簡潔に要約されているからである。      
 
2、創設建設期の航空自衛隊勤務に感謝
   昭和の時代は、平成の時代が早や26年経つと、遥か昔のことのようにさえ思われる。
    昭和29年7月航空自衛隊の発足から1年後の昭和30年6月2日第1期操縦学生として入隊以来、35年間在職し、平成2年4月1日付で定年退職(勧奬)した。
    この間は、年齢は20歳から55歳になり、階級は2等空士から順次昇任し1等空佐へ昇進した。
    教育訓練課程は、操縦学生基本課程・操縦英語課程・第1初級操縦課程・人事員課程・一般幹部候補生課程(部内)・要撃管制幹部課程・人事幹部課程・幹部普通課程及び指揮幕僚課程と通算4年余は自衛隊の各種の学校で教育訓練を受けた。
    職種等は操縦学生、空曹では総務、幹部任官後は要撃管制幹部・副官・人事及び総務幹部・人事幕僚・副指揮官の業務を担当した。
    勤務は 第一線のレーダー部隊から高射部隊・航空団・警戒団及び術科学校等を歴任した。
    勤務した部隊レベルは隊・群・団・方面隊・総隊・集団の各級司令部及び空幕を歴任した。
    自衛官としての歩みは一見同じように見えてもそれぞれ千差万別と言えるくらい異なるものである。
    特に創設期の第1期操縦学生の歩みは各人が波乱万丈であった。
    その中の一人であった私の歩んだ自衛官人生も同じであった。あらゆる面で起伏に富んだ人生で、希望・挫折・奮起・真剣勝負の連続であったが、動と静を織り成す人生であった。
    戦後の混乱から立ち上がった日本が高度成長とともに自衛隊も次第に成長し防衛体制が整備された。
    顧り見るに創設建設期の中で、総じて充実した自衛官人生であり、お国のために尽くすことができ男子の本懐であったと思っている。
 
3.  航空自衛隊の充実発展を祈る
 ❶防人OBとして胸に秘める誇りと矜持
    一昨日は、平成26年版防衛白書が閣議で了承されたと報じられた。間もなく、白書が出版発行されるであろう。毎年購入して読むのを楽しみにしている。
    防衛白書は初回は多分昭和49 年(1974)からと記憶し40回目とのこと、手元に置いて読むと、自衛隊の発展充実の過程に己の歩んだ自衛官人生を重ねることができる。
    そこには、単に勤務したと言う以上に、創設建設期の航空自衛隊においてわが国家の防衛を担うことができた達成感、昭和の防人として思う存分与えられた分野で自分の能力を発揮することができた満足感、多種多様な自衛官人生を歩むことができたことへの感謝である。
    退官後も今日に至るまで、昭和の防人としての名誉と誇りを胸に秘めて日々の生活を平安に過ごしてきた。
     家人から、「自衛隊のことになると目が輝き、態度や話し振りが変わる」と言われている。まさしくそうであり苦笑いすることがある。
    全ては入隊時宣誓した自衛官の「服務の宣誓」に尽きる。「日本の平和と独立を守り」「事に臨んでは身の危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託にこたえる」、これが自衛官人生であった。わが人生の幕を閉じるまで、この思いは同じであろう。
 
 自衛官が任務を遂行できる体制づくり   
    昨今、集団的自衛権を核心とした憲法解釈閣議決定によって、国民の関心と議論が高まってきたが、まだまだ国民に理解されている段階とは言えない。
    7年前始まった安保法制懇の検討では、長年、自衛官OB・隊友会が提言してきた「グレー・ゾーン問題(栗栖発言問題」や「集団安全保障問題」もとりあげられたが、政治的な駆け引きの中で十分とは言えない。
    60年間懸案であった現場の自衛官の声なき声が、ようやく安倍信三総理大臣の7年越しの強固な信念と国家安全保障に関する理念・リーダーシップによって緒についた。
    自衛官は、国家・国民が命じた任務を忠実に実行する立場である。世界各国の普通の軍隊のように、国家・国民がすべからく自衛官が与えられた任務に邁進できる防衛体制、人員、装備、予算のみならず法制面、身分保障、人事給与制度、栄典、補償、家族支援などを整えて欲しいと切望する。
     昭和の時代は、為政者に普通の国にならねばと分かっていてもそれをやり遂げる政治家はいなかった。昨今の厳しい国際環境の中で、国家のあるべき姿が求められる時代になってきた。
    それをやり遂げるのは政治であり、国民から選任された政治家しかいない。
    只今も、全国各地及び海外で黙々と任務に励む自衛官はどんなに苦労しても政治への希望を語ることができない。それだけに政治が自衛官の立場を忖度して、任務に就く自衛官の目線で積極的に諸問題の解決を図ることが必要があろう。
   航空自衛隊の発展と現場で黙々と任務を遂行している自衛官に感謝と敬意を捧げ、心から応援をするものである。
    
 

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《 航空自衛隊のOB団体「つばさ会」の機関紙「つばさ会だより」第130号平成26年7月10日は、昭和29年7月1日創設から満60周年を迎える航空自衛隊は、平成26年5月25日、入間基地において創設60周年を記念する中央式典を開催した。と記している。写真はつばさ会だよりから転載した。》