こころのふるさと(10) わが家のお国「とつとり県」自慢

 誰でもそうであるが、自分の生まれ育ったふるさとを誇りに思う。 自衛隊現職時代を含めてふるさとに対する思いを綴ったをものである。平成16年の浜松鳥取県人会の会報に投稿し掲載された。改めて読み直して見て全く今も同じである。やはりこれが「ふるさと」だと思った。

 

 わが家のお国「とっとり県」自慢        

 二十世紀梨

特産の「二十世紀梨」が鳥取県へ導入されて今年で百年目になるとのこと。幼児の頃、梨の収穫期には果樹園の下で遊び、小・中学生になると大人に混じってお手伝いをしたものだ。宇野の石ころの急な坂道を大八車に梨を満載して引くのが結構きつかったことを覚えている。梨畑の下で目の前の梨をもぎ取って食べた味は最高だった。

航空自衛隊に入って、家庭を持ち転勤族として各地を転々としても、親兄姉たちから毎年その時期になると定期便のように、二十世紀梨が届き隣近所にお裾分けしたものだ。今は両親兄も亡くなったが、姉が必ず年に三回位に分けて最新の品種を送ってくれる。そのたびに、子供の頃や郷里の梨畑を思い、「ありがとう」「ありがとう」と心の中で感謝している。どこの梨よりもとっとりの梨が一番だ。瑞々しい郷里の梨には太陽、風土、人情が溢れている。

◆ いぎす草

  子供の頃から慣れ親しんだ食品の一つが「いぎす」である。冠婚葬祭には付き物で、世帯を持ってからは郷里と私の家族を結ぶきずなのような存在です。今でこそ自然食品ともてはやされて値段も高くなったが、新婚当初、浜松育ちの家内は初めて手にした海草であった。帰郷の度に私の母姉から作り方を教わった。

  いぎす草を水洗いし混入している黒雑草を除き煮立て草が溶けたころ固めの糊状になるまで練り上げ、容器に流し込み冷やすと羊かんのように固まり出来上がりだ。母親が土間の片隅で夜なべにこの作業をするそばで育った。

 各勤務地で来客がある度に、こつこつと家内がつくり、私がいぎすの説明・自慢役をやってきた。今年の正月もわが家の食卓を飾り、郷里と亡き母を思った。あの茶褐色のいぎすには幼少年時代がいっぱい詰まっている。

◆ 寒鮒の刺身

  東郷湖の寒鮒の刺身は天下一品である。昭和二十九年に倉吉東高を卒業して以来、帰省の度に、長兄は日本海の幸を手料理して歓待してくれたが、冬場の東郷湖の寒鮒の身の引き締まった刺身を口にしたら地酒の味は格別である。

嫁いだ当初、魚を裁いたことのない家内は兄姉たちの手裁きを見よう真似ようで習得し以来、わが家では鮮魚を買い、刺身は家内が上手に裁いている。帰郷の時期からここ数年寒鮒に出会わないが,東郷湖の寒鮒はわが家で生きている。湖底に湧く温水と日本海の寒風に揉まれ育つ寒鮒は、はわいの里の絶品である。そこに故郷がある。

今年の五月は高校の同級会が三朝で開かれる。故郷でどんな出会いが待っているであろうか楽しみだ。

(平成十六年二月 鳥取県人会たより投稿)