86歳老いる雑感( 199) 老いること、老いる過程の道標と杉良太郎の歌「ぼけたらあかん長生きしなはれ」

1   老いること

 人は歳を重ねるにつれて老いる。老いることについて、先人たちは、老いるとは何か、老いる過程における心身について、簡潔明瞭にして味わい深い諸々のことわざ、人生訓などから歌、詩、川柳などを通して、老いる事の特徴、喜怒哀楽を斬新なセンスで的確に捉え絶妙な表現で残しているものがある。

 人は誰もが等しく歳をとり老いていくものである。老いる進度は個人によって千差万別である。老いることは、人間誰もが逃れられないものであり、恥じることでも恐れることでもない。むしろ誇るべきことではなかろうか。

 人は最後は枯れ木のように終焉を迎える。自ら老いることを受容、是認し、現実の自分を見つめ慈しみながら老境の人生を楽しく過ごすことができる。老いること万歳ではなかろうか。

 特に、現代は、健康寿命と平均寿命の延伸により、人生100年時代の到来が言われるようになった。昔の人生50年時代からすれば、驚異的な長生きであり、想像もできなかったであろう。

 その分、高齢期の期間が延伸したことは、長い高齢期をどのように有意義に過ごすかが問われることになってきた。

2  老いる過程の道標

   誰しも老いを重ねるにつれて心身の衰えを自覚するようになると、見えてくるものがある。人とはこんなもんだと達観すると自分を振り返って気が楽になるものである。

 人はこの世において、高僧や仙人のように徳の高い聖人と称えられるまでに至る者は一握りの人である。多くは普通の人として一生を終えるが、普通であることが居心地良く、一番座り良いものだ。老いを重ねるにつれて、一井の人として平凡ながら普通の生活を最後まで営みたいと思うようになる。

 現代は、平和の持続、生活環境や医療の進歩向上により長生きがきるようになった一方、老いる過程で普通のじいちゃん、ばあちゃんであることが実はなかなか難しい時代となってきつつある。

 普通のおじいちゃん、おばあちゃんとして老いながら暮らす「道しるべ」として、杉良太郎の歌「ぼけたらあかん長生きしなはれ」は実に含蓄のある文句が散りばめられている。

 老いていく過程の人間の本性や特性しがらみが的確に表現されているから共感するものがある。

杉良太郎の歌「ぼけたらあかん長生きしなはれ」

  私は演歌が好きだ。杉良太郎の歌う「ぼけたらあかん長生きしなはれ」を知り歌い出したのは遥か前である。今日に至るもよく口ずさんできた歌である。

 特に、杉良太郎氏が、若い時代から歌や演劇の傍ら国内外において社会事業に献身活動してこられたことを承知している。剣劇におい自分の体力気力から数年前にきっぱりと打ち止めにした。己を知っているからできることである。

 高齢者の宴会では、昭和の時代にはやった歌の曲に乗せて、高齢者の特性、良いところも悪いところもズバリと突いた替え歌が歌われてきた。わが身に置き換えて、共感し拍手喝采で大いに盛り上がるものだ。

    宴会でこうした歌を聴くと、歌詞をみんな欲しがるため演者は心得たもので替え歌の文句をあらかじ用意して配ってくれる。こうした戴いたものは私のメモにも何枚か残っている。

 「ぼけたらあかん長生きしなはれ」の文句は、額、色紙、垂れ幕、のれん、手ぬぐい、陶器などになって広く販売されている。作者は、不詳、松下幸之助氏などいろいろあるようであるが、今日においては、作詞天牛将富、作曲遠藤実で歌手杉良太郎の曲として広く知られている。

 したがって、この歌詞は、杉良太郎の曲を何回も聴きながら書き留めてみた。

 ここには、高齢者が歳を重ねるにつれて直面する「言動」・「立ち位置」・

「お金」・「生き方」を示唆しているのではなかろうか。

 

「ボケたらあかん長生きしなはれ」

唄   杉良太郎

作詞  天牛将富

作曲  遠藤 実

 

年を取ったら出しゃばらず

憎まれ口に泣き言に

人の陰口愚痴言わず

他人のことは誉めなはれ

知ってることでも知らんふり

何時でもアホでいるこつちや

ぼけたらあかんぼけたらあかん

長生きしなはれや

 

 

勝ったらあかん負けなはれ

いづれお世話になる身なら

若いもんには花もたせ

一歩さがってゆずりなさい

何時も感謝を忘れずに

どんな時でもおおきにと

ぼけたらあかんぼけたらあかん

長生きしなはれや

 

 

なんぼゼニカネあってでも

死んだら持っていけまへん

あの人ほんまにええ人や

そないに人から言われるよう

生きているうちにバラまいて

山ほど徳を積みなはれ

ぼけたらあかんぼけたらあかん

長生きしなはれや

 

そやけどそれは表向き

死ぬまでゼニを離さずに

人にケチやといわれても

お金があるから大事にし

みんなベチヤラいうてくれる

内証やけれどほんまだっせ

ぼけたらあかんぼけたらあかん

長生きしなはれや

 

わが子に孫に世間さま

どなたからでも慕われる

ええ年寄りになりなはれ

頭の洗濯生きがいに

何か一つの趣味持って

せいぜい長生きしなはれや

ぼけたらあかんぼけたらあかん

長生きしなはれや