元自衛官の時想(117) トップの新型コロナウイルス対処と国家の基本を正すビッグチャンス

 新型コロナウイルス感染拡大の勢いは強大である。世界的な新型コロナの大流行は、パンデミック(世界的大流行)と言われる如く、しぶとい「目に見えない敵」との対峙である。この事態への対処は、平時とは異なる有事である。国民の生命を脅かす有事であり、まさしくコロナと戦う事態である。

 現下におけるコロナ対処は、平時と異なる緊急事態であるとの厳しい時局認識なくして、コロナの拡大を阻止することが不可能である。

 こうした視点からすると、新型コロナウイルスとの戦いは、わが国にとって、有事であるとの「危機意識」と「危機管理」が全体的に薄いように感じるのは私だけの認識であろうか。

    老自衛官OBとしては、政治家をはじめ全国民がコロナ禍の厳しい第1波、第2波を経験し、教訓を学んだにかかわらず、今日に至るもまだ、「危機管理の発想」が定着せず、「危機管理体制」が確立されていない現状を省みるとき、政治のあり方を憂うるものである。

 その中でも、国政のトップたる内閣総理大臣の的確な状況判断、対処方針の決定と断固たる実行が一番大事であることは明白である。各都道県知事も同じである。

 戦史を紐解くまでもなく危機管理における各級トップの指揮統率と戦いの原則は古今東西同じである。

 大戦略を描き示すのが最高位の責任者・大統領・総理大臣などであり、戦術をもって対処するのが各級の責任者である。戦術をもって戦略を変えることはできない。

 最高位トップの職務と責任は、的確な状況判断をして、冷静沈着にして勇猛心をもって大戦略を決断するにある。この大戦略を決断できるのは、最高位のドップにしかその権限が与えられていないからである。

 英知を駆使した戦術は、下位の各級責任者に任せれば良い。

 一度決断した大戦略は断固として貫き通すことが必須である。朝令暮改は下策である。戦術は状況に応じて臨機応変に変えることができる。

 軍事はもとより、政治、経済、社会生活における危機管理・緊急事態に際しての基本対処は共通するものである。

 平時は、情報を収集・分析検討し、専門家の意見を徴して、検討を重ねて決断するなど、各組織をしっかりと使いこなせば可もなく不可もなく無難にやり遂げることができる。

 有事の事態においては、権限のある者・トップが的確に状況判断し、速やかに最良の行動方針を決断して、断固として積極的な実行策を遂行することによって戦勝を獲得することができる。

 トップの全責任を背負う決意と断固としてやり遂げるというほとばしる気概・覚悟が見えれば、国民の大多数は絶大な協力と支持を示すに違いない。

 現状を洞察すると、コロナ対処の緊急事態宣言は、「危機管理」そのものであるという意識が希薄・低調であるように感じられる。近年、普通の国家の有り様に少しずつ近づいているようであるが、新型コロナウイルス「見えない敵」は、わが国と国民に対して、「国家の基本を正す」ビッグチャンスを与えているように思えてならない。その役割を果たすのが政治であり、国民の意識改革と支持ではなかろうか。