元自衛官の時想(97) 緊急事態の初動対処とトップの状況判断、決心、実行(1)

    現下、わが国も諸外国も「見えない敵」と戦っている。新型コロナウイルスの感染拡大で国内外大騒動である。

    対策本部の設置、チヤータ機による邦人の避難帰国、チャータ機の利用費の公費負担、指定感染症の施行日、中国武漢市など河北省への滞在歴のある外国人の入国拒否措置、感染者等の指定場所施設への保護など様々な対処措置が行われている。

   国家から組織、個人レベルであろうが全てにわって、有事、緊急事態、危険な状況の発生、とりわけ、国民の保護、生命に関わる事項は初動対処の如何か事後の対応に深刻な影響を及ぼすものである。後手に回るとさらに後手となる。

   古来、何事も初動対処を迅速的確に実行できるかどうかにかかっている。今、国家・国民に問いかけられている新型肺炎への対処は正しく緊急事態における初動対処であり、有事における対処、危機管理そのものではなかろうか。

    わが国の場合、戦後における過去の各種の緊急事態対処に際して、対処の遅れや不足を省みると、そこに共通するものは、個々の迅速的確な措置の阻害要因、足かせ、判断決定の遅れの根っことなる本質は、最終的にはわが国の憲法における「緊急事態条項の欠落」にある。多くの国民はこのことを理解しているが、これを理解認識し、積極的にその是正を求める声は絶対多数の世論となっていない現状にある。

    専門担当部門においては、各種の緊急事態において、やるべきこと、やらなければならないことは分かっていても、現行法令を超える有効的、先行的、思い切った対処策をとると、憲法違反、あるいは疑いに抵触する恐れがあると制約、躊躇することになる。

    いかに法律で一時しのぎをしても国家の骨幹たる憲法を正さなくして同じことの繰り返しではなかろうか。

    憲法を家屋に例えると、土台の基礎と大黒柱の骨格がしっかりしていない限り、長年の風雪に耐えることはできない。安心して暮らせないものだ。土台や大黒柱が、欠陥工事であったり、腐ったり傷んだりしたら建て替えしかない。一時的な補修をしてもその場しのぎでしかないなと同様である。

    先月来から国会における施政方針演説等、代表質問に次いで、衆議院参議院予算委員会NHK国会中継を家でテレビ視聴したが、大局を見ない枝葉末節の質問などが続き、本当にわが国は大丈夫であろうかと、時局及び事態の認識の希薄さに怒り、嘆き、苛立ち、不安を覚えたものである。

    当面の緊急対処策は政府を中心とした対策措置で行くにしても、将来的、抜本的な対策処置がない限り同じことの繰り返しでしかない。

    わが国は大東亜戦争に敗れて、外国連合軍の占領下におかれた後独立した。戦後75年を迎えるのに、未だ国家の骨幹である国家・国民を守る軍事組織たる自衛隊国防軍の設置や緊急事態条項のなど憲法への明記がない状況である。

    国家のありように関することが国家の基本たる憲法に明確な規定がない状況下で、諸法律をもってしても、完全対処が容易でないことは自明の理である。

    小中高と子供の頃、民主主義国家の政治は二大政党が安全保障と外交は基本路線のもとお互いに政策で競い合い,切磋琢磨して国際社会と協調していくと学んだものである。

    今日の政治状況を見ると、反対、批判はしても自ら積極的に、相手に勝る提言をせず、お互いに政争に明け暮れる状況は嘆かわしい思いが深まる。

    緊急事態であるとの認識の相違、緊急事態は憲法とは関係がないとする認識、緊急事態を憲法と結びつけるのは短絡であるという認識などで、国家天下を論ずる場が政争の場となっているように思えてならない。

   国家国民にとって、一本筋が通った論戦を期待しているがまったくその気配がない、これでもか、これでもかとネチネチと重箱の隅をつつく揚げ足取りなどであった。

    こういう時こそ、英知を集めて、大向こうを唸らせる、そうだそうだと国民を注視させる、国民世論をリードするような大胆な緊急事態に対する対処策の提言、政府の対処策を一歩どころか数歩も上回る初動対処策を先手を打って提言すれば拍手喝采、政権獲得も近づくであろうに、自らチャンスを逃している。

    小手先の枝葉末節な嫌がらせらのように見える論争からは生産的、前向的、建設的な政策は生まれてこないからである。むしろ信頼感を失い、自らが墓穴を掘っているように感じられてならないのは私だけの偏見であろうか。

    私たち国民が切望してやまないのは、前向きかつ建設的な政策論争ではなかろうか。そこから国民は選挙を通じて、信頼に足る政党・候補者に判定を下すことになる。

    国家の安全、天災地変の災害、医療など政治・経済・社会など全てにわたって起こりうる緊急事態に対しては、平素から断固として国家・国民を守る体制作りと対処策の設定は各部門において不可欠である。

   あらゆる最悪の事態を想定して調査研究し、諸計画を立案し、演習訓練を重ねて問題点を洗い出し是正をしていつでも実行できる国作りが求められる。再点検が必要ではなかろうか。

    こうした視点で新型肺炎への対処を見守ることにしています。

【所感】

1     初動対処は迅速な最大限対処

    あらゆる緊急事態の発生に際しては、古来、「戦いの原則」で対処するのが鉄則である。状況不明な初動対処は敏速な最大対処して、状況に応じて、局限対処・個別対処に逐次移行していけばよい。

    過去の阪神淡路の震災、東日本の3.11の津波大震災などの初動対処で多くの反省と教訓を学んだはずである。

2     全責任を背負う決意と強固な意思

   組織のトップは、合法的に構成員から信任されたもので、所定の権限と責任を負託されたものである。

   どんな組織でもトップは、全てにわたって全責任を担うものである。全責任を一身に背負う覚悟無くしてドップとなってはならない。

   トップに立てば,批判・中傷などに躊躇、動揺してはならない。そのためには全責任を背負う決意と強い信念が必要である。

3    的確な状況判断、決心、 断固やり抜く実行力

    トップにとって、状況の判断決心は厳しいものがある。特に、情報不足、錯綜の中での的確な状況判断と決心は難しい。だからこそトップの責務は重い。一瞬にしてトップとしての資質能力が問われる。

     そのために、専門の組織とスタッフがいる。平素から最大限活用して補佐体制を作り上げておけばよい。専門組織とスタッフを使いこなす度胸と力量があるかどうかである。英知を結集して決めたことは、断固としてやり抜く実行力が求められる。

4    制約・阻害事項の排除

   何事にも法令、制度、人員、装備、予算など制約、阻害事項があるものである。しかも、制約や阻害要因の排除を妨げているものは、法令と前例との整合性、批判・非難の危惧ではなかろうか。

    国難とも言える緊急事態においてはどう対処するか。国家の存立、国民の保護のためにはドップとして国家の総力を結集して最大限やれることは断固やり遂げる。

    しかし、憲法上どうしても出来ない事項は、理由を明確に国民に問いかけるべきであろう。賢明な国民は絶対的な支持をすること間違いない。