元自衛官の時想( 43 )   平成29年度政策提言書に寄せて(6)5 任務遂行のための環境整備(自衛隊員の処遇改善等)

    平成29年11月.公益社団法人隊友会」、公益財団法人「偕行社」、公益財団法人「水交会」及び航空自衛隊退職者団体「つばさ会」の4団体が合同して作成された「平成29年度政策提言書」が発表された。

 この提言書は、長年にわたって国家防衛の任務に服したOBと現職の声なき声を代弁する内容のある提言と言って過言ではない。政策提言に寄せるOBとしての思いは、28年度政策提言書が発表された折に、ブログに記した。

 2016-11-17 元自衛官の時想(9)   隊友会・偕行社・水交会・つばさ会の4団体の「政策提言」に思う

OBとして29年度政策提言書に寄せる思い

❶    わが国の国家防衛の第一線にあって任務を全うしたOBとして、この政策提言書は、今日 厳しい環境下で世界各地における国際平和協力活動や国内での諸活動・訓練に励んでおられる自衛隊員の皆様の任務達成と安全を支える立場からも、国家存立の基本である安全保障・防衛について国民の皆様の理解が一層深まることを願ってやまない。

❷ 世界のどの国家であっても、憲法等の国家の基本法には、国家防衛、軍隊について明記している。憲法上、国を防衛するための実力組織を明記し、その地位・役割を明らかにすることが必要と考える。それは国家の平和と独立、国民の生命財産の保護・主権の基盤をなすものではなかろうか。一介の元自衛官であるが、この政策提言書の内容は多くのOBが現職当時からの長年の願望であり、政治的な駆け引きは全くなく、現実を踏まえ長期的視点に立った、実によくまとめられた内容と確信するものである。

❸ 国家の安全保障・防衛は、憲法とこれに基づく諸法令に基づいて行われる。民主主義国家おいては、国民の支持と国民から選ばれた政治によって達成されるものである。政策提言とされたゆえんもここにあるであろう。防衛省の防衛政策、防衛諸計画の策定はもとより、国会における安全保障、防衛政策の審議・議論、政党の政策策定・提示にあたり、この政策提言書が、一人でも多くの方に理解され支持されることを願うものである。

【 平成29年度政策提言内容 】 隊友会ホ-ムベ-ジ 出典)

5 任務遂行のための環境整備(自衛隊員の処遇改善等)

 東日本大震災等、近年頻発する大規模な災害派遣現場における現役隊員、招集された予備自衛官等の真摯な活動は、多くの国民に感銘を与えました。また「25大綱」においては宿舎整備、家族支援施策等、人事面に関する具体的施策に関する記述が大幅に増加し、大いに期待しているところです。
 昨年中に、施行された平和安全法制整備法及び国際平和支援法により、付与された新たな任務である、駆け付け警護、邦人等の保護措置についての手当の新設等が速やかに措置されていることは、大いに喜ばしいことであり、関係各位のご尽力に衷心より敬意を表します。
 しかしながら、いまだに自衛隊員の処遇は、一般職国家公務員との横並び・均衡が基本であり、自衛隊員の任務・職務の特性を適正に評価したものとは言い難く、不十分な現状です。防衛省において平成18年9月に防衛庁長官を委員長として設置された「防衛力の人的側面についての抜本的改革に関する検討会」が平成19年6月にまとめた「報告書」があります。

 我々4団体としては、幾多の成果を生んだ「報告書」の策定10年の節目に、当該報告書の内容に賛同し、今後は、更にその具体的検討を深化し、新たな情勢に応じた見直しを実施して、着実な施策化を強く期待するところです。
以下、当該報告書の具体化を推進するため、7点について述べます。


(1)隊員の再就職に関する施策の推進
    55歳前後の若年で定年を迎える自衛官は、退職後から年金生活に入る年齢までの間の生活を維持するため、再就職が死活的に重要な問題です。国内経済は、景気回復及び雇用情勢の改善が成されておりますが、永年の自衛隊勤務後初めて民間企業等の労働者として新規の就労を果たさなくてはならない自衛隊退職者にとっては、依然として厳しい雇用環境が継続しています。
    現在、毎年数千名に上る自衛官特有の若年定年制及び任期制自衛官の再就職については、自衛隊の精強性を確保するとの観点から、各自衛隊等の就職援護協力の下で、退職予定隊員に対する無料職業紹介所である一般財団法人自衛隊援護協会を通じて再就職する従来からの枠組みを維持することが、防衛大臣通達により、認められております。
   さらに「25大綱」において「一般の公務員より若年で退職を余儀なくされる自衛官の生活基盤を確保することは国の責務」と記載されたことは大きな前進であり、厳しい雇用情勢の中で、若年定年および任期満了等により退職する自衛官が安定して再就職できる様に、自衛隊援護協会の更なる活用、職業訓練自衛官の有用性をアピールする援護広報、これに必要な予算強化を図る等、再就職の援護態勢を一層充実させ、退職予定隊員の期待に応えられるものとなるようにご尽力いただきますことを要望します。

   この際、退職する自衛官の在隊時の実務経験を専門学校卒業と認定できる制度等、
隊員の付加価値を高めるための施策、官民でキャリアアップにつながる実務経験の認定等の枠組みの構築、警察職員等への優遇採用枠の創設等、社会への還元ルートの確保、現行の援護対象者の見直し・援護対象年齢の引き上げ・退職自衛官の事務官等での採用等、年金支給年齢の延長への対応に万全を期す処置による雇用と年金の接続を要望します。
    また、国家の安全保障や地域社会等の防災・危機管理態勢の向上を図るため退職自衛官地方自治体の防災監等として複数名採用するほか、民間企業の防災・危機管理部門担当者、高校・大学などの教育機関の職員等の他、国全体として不足している防災・消防ヘリ、ドクターヘリ操縦士及び海事従事者(船員、水先案内人等)として有効活用し得るよう必要な法令について整備・拡充することを提言します。
   さらに、再就職の資として、希望する退職自衛官が進学するための奨学金の給付及び受け皿となる協力校の整備等の進学支援を要望します。
   また、退職自衛官が、退職後も誇りを持って活動するとともに、自衛隊に対する各種支援・協力が容易となるように、諸外国と同様の「退役」自衛官の処遇の改善について提言します。


(2)隊員の即応性確保を第一義とした宿舎整備及び隊員が後顧の憂いなく任務に邁進し得る家族支援施策の推進
    これまで防衛省自衛隊の宿舎は、国家公務員宿舎法に基づき自衛隊員の職務効率の向上を図ることを目的として整備してきたものと認識しております。しかしながら昨今の安全保障環境の変化や大規模災害の発生の高まりから、自衛隊の宿舎整備は、自衛隊員の即応性の更なる向上を目指した運用基盤の整備とするべきです。
   平成23年に財務省が公表した「国家公務員宿舎削減計画」は、職務効率の向上を図るなかで行政の効率化を目的としたものであり、自衛隊の宿舎の特性である即応性の基盤としての整備を促すものではありません。

   特に、「計画」に明記された宿舎料の引上げは、隊員の即応性確保に多大な影響を
及ぼすと強く懸念しております。関係各位のご尽力により、自衛隊員に関しては、一定程度抑制され、かつ段階的な引き上げとなったものの、これ以上の引上げをおこなうことは、多くの隊員が最低限の生活水準を維持するため、基地、駐屯地近傍の宿舎から遠方の安価な賃貸住宅へ転居することが予想され、事態対処の要である市ヶ谷近傍においては、十分な宿舎が確保されていないと認識しており、首都圏の住宅事情を踏まえると隊員はより遠方に居住せざるを得ず、ひいては緊急時の参集が遅延するおそれがあります。
    また指定場所に居住する義務とともに緊急時の参集に迅速に応ずることを求められる特別職でありながら、それに対する十分な基盤が付与されていないことに対し、自衛隊員の国家への忠誠心、使命感、士気は少なからず低下するのではないでしょうか。
   そこで今後の宿舎整備にあたっては、基地、駐屯地近傍に集約して整備することが重要です。部隊としての緊急時の参集の迅速化・容易化を図るため、宿舎無料化枠の増大、適切な宿舎使用料の設定等により基地、駐屯地近傍に居住する条件を整えることにより、状況に即応して厳しい任務に邁進する自衛隊員に対し、国家として任務遂行の基盤を付与されることを提言します。
   また、即応態勢の確立のためには、限られた一部の隊員だけでなく、実動時の主力である一般隊員の参集も重要な要素であり、相応な負担軽減を要望します。
   さらに、今後、南西地域の離島に部隊が新編されていく予定であり、これらに伴う宿舎整備が重要です。また、離島の宿舎は無料となっているものの、異動機会の多い自衛官にとっては異動に係わる負担が大きくなるとともに、離島における生活環境が十分でないことから、離島赴任者に対する総合的な負担軽減策を講じることを要望します。
   また「25大綱」は、宿舎整備とともに「家族支援」が運用基盤の重要な施策として位置づけました。これは大変意義深い大きな変化であり、隊員家族の安否確認、生活支援等の公的支援施策に関し、国家としての体制整備を強く提言します。


(3)隊員の任務・職務の特性を適正に評価し得る給与制度
    特別職国家公務員である自衛隊員は、警察予備隊創設時に警察官に準じた給与制度を導入し、以後基本的には当時の考え方を踏襲して現在に至っていると認識しております。このため給与制度の改善については一般職国家公務員の給与制度の変遷に応じて制度を変更するとともに、給与水準については、人事院勧告を準用して給与改正を実施してきました。

    特に自衛官の職務・任務の特殊性を評価した俸給構造や各種手当等の独自の給与制度
は、人事院勧告では取り扱われないため、やむを得ずかつては総務省、現在では内閣官房及び財務省に対し概算要求を行い改善してきました。一般職国家公務員制度における人事院に相当する代償機関がないために事業要求してもなかなか認められず改善の進捗は遅々として進まずというのが現状と認識しています。
    自衛隊員の任務・職務の特性を適正に評価した独自の給与制度は、自衛隊員の自覚を促し誇りを持たせ、国家への忠誠心、使命感、士気を高める基盤と認識します。
   現行の自衛官俸給表は、職務内容の比較的類似する行政職俸給表(一)、公安職俸給表(一)ならびに指定職俸給表のいずれかを基準として決定されています。しかしながら、自衛官の階級等と一般職の標準職務等との対応が妥当でないといった根本的問題が存在します。さらに、自衛官の階級が17区分あることから、各階級の職階差に見合う適切な給与格差を設定することができず、特に幹部と准尉・曹の役割すなわち職務内容・専門性の相違を俸給上明確にすることができないなどの弊害が内在しています。

    また、統合運用の深化や各種行動の拡大に伴い、自衛官の任務上の変化がある場合の
機動的な給与改正についても、とても機動的とは言えない切実な問題があります。
    平成19年にまとめられた「報告書」に基づく大きな前進を担保し、更に、一般職国家公務員の俸給表等を基準とするが、一般職国家公務員とは異なる特性がある准尉・曹の職務内容・専門性に対応した自衛官独自の給与制度を新設し運用していくことが求められます。

   また、独自の給与制度の合理性等について国民の理解を得るためには、一般職国家公務員制度における人事院に相当する代償機関が必要不可欠であると認識します。
   自衛官の職務の特性に鑑み、いかなる困難な状況下においても、崇高な使命感をもって誇り高く任務遂行に邁進する基盤を付与するため、給与制度に関する代償機能を一般職国家公務員制度と同様に担保する方策として、大臣直轄の代償機関ならびに国家公務員法に相当する「自衛隊員法(仮称)」という職員法の創設の検討を、より本質的な課題として「報告書」関連施策の具体化と平行して検討されることを提言します。
   さらに、近年の運用の変化から、艦艇を拠点として活動する陸海空自衛官の増大、南西防衛強化のため離島・僻地に展開活動するのみならず洋上から陸上へと水陸に亘り活動する等従来なかった活動に従事する自衛官の増加が計画されています。これらの自衛官の任務、勤務形態の特殊性に対応した手当の新設を要望します。
    また、地域手当の支給範囲の認定が、隊員・家族の生活実感とずれがあり、同一生活圏で地域手当に由来する給与格差が存在しています。また、地域手当の支給対象とならない過疎地等で勤務する隊員は、その地域で生活するための負担に見合う処遇が必要です。さらに、過疎化の進展は急速であり、従来の特地勤務手当の充実が必要です。これらの過疎化の進展に伴う問題点の早期の是正を提言します。


(4)隊員の使命感を醸成し得る栄典・礼遇の付与
    「25大綱」において「栄典・礼遇に関する施策を推進」が明記されたことは画期的であります。昨年度は、関係各位のご尽力により、従来からの提言であった叙勲受章資格の部内選考幹部への拡大が成されています。しかしながら厳しさを増す安全保障環境の下、国の防衛という崇高な使命を担う自衛隊員の職責に相応しい栄典・礼遇とするため不十分な点を提言します。
    防衛行動の特殊性から、若年定年制を導入せざるを得ない自衛官の定年は、一般的に55歳前後であり、叙勲の対象となる通算在職年数も、60歳まで勤務する一般職公務員と比較して短いものとなります。

    また、一般的に他省庁と比較すると、定員に対しての累積の退職者数も多くなります。結果的に国家、国民の安全のため身命を賭し、危険を顧みずに任務に従事するといった過酷な職務の特性にも拘わらず、自衛官の叙勲は、低い等級に格付けされるとともに、叙勲対象者数も抑制されてきました。
    国の防衛という崇高な使命を担う自衛官の職責に相応しい叙勲とするため、より上位の等級に位置付けするとともに、長期間にわたる国家に対する献身に国が敬意を払って報いるため、叙勲対象者の数的拡大を強く提言します。
    一方、平成15年秋から危険業務従事者の叙勲制度が施行され、多くの退職自衛官が受章し、本人はもとより、現職自衛官の大きな誇り、歓びとするところです。

 しかしながら、当該受章の栄に浴していない制度開始前の退職者が多数残されています。彼等は今日の自衛隊を育て上げた功労者であり、永年の功績に対し、高齢者叙勲の対象者とされるとともに、同じく危険業務従事者叙勲を受章されるよう柔軟な制度の運用により警察官と同等レベルの受章者の数的拡大を強く提言します。
 このような功労者の中には、退職後も防衛省自衛隊等への貢献等公務への協力を惜しまない功労者も多数存在します。是非、退職後の公務等への貢献も考慮した叙勲の実施を要望します。
 また、現行の防衛功労章については、平素の活動や各種事態に貢献した隊員の中でも受章者が極めて限定されるところ、自衛官の職務の特性や諸外国の例等を踏まえ、受章機会・種別の増加等の防衛功労章の更なる拡充を提言します。
 また、「報告書」において、統合幕僚長の高位の自衛官認証官とするかどうかの問題については、それらが現在認証官となっている職種に当てはまらないと考えることから、今後、自衛隊の位置付けを含め、これらの職の認証の在り方について検討していくべきものとされていますが、検討の進捗を切に期待するものです。

 特に平成18年3月に統合幕僚監部が発足し、自衛隊の統合運用の長として統合幕僚長の職責が一段と高まり、自衛隊の運用に関しては統合幕僚長が3自衛隊を代表して軍事的見地から一元的に防衛大臣を補佐することとなり、また運用に関する大臣の指揮は、統合幕僚長を通じて行い、その命令は統合幕僚長が執行することとなりました。これらの重要な職務を担う統合幕僚長を、その職責に相応しい認証官として位置付けされるよう強く提言します。
 更に、先ほども付言したように、平和安全法制整備法及び国際平和支援法による新たな任務が付与されることにより、自衛隊員の活動の幅や頻度は拡大し、予期できない事態に遭遇する可能性が相対的に高まることは十分に予想されます。一昨年度は、関係各位のご尽力により、これら新たな任務のみならず防衛出動及び治安出動が賞じゅつ金の対象として追加されました。
 一方、自衛官の賞じゅつ金より一部の地方公務員の賞じゅつ金が高額な例もあり、隊員の処遇は部隊の士気にかかわる重要な課題であるため、賞じゅつ金の増額等の検討を強く提言します。
 最後に、防衛省の各種業務に協力し自衛隊の精強化・防衛基盤の強化育成に尽力頂いた民間の協力者(団体)に対して、これまでの功労に報いるとともに今後の少子高齢化の進展等厳しい社会環境に対応して防衛省に対する幅広い協力基盤の維持・強化のため、褒章を授与する対象の拡大と授与数の増加を要望します。


(5)戦闘における殉職者の追悼
 平成27年には抑止力の向上と地域および国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献することを通じて、我が国の平和と安全を一層確かにする平和安全法制が成立し、昨年には施行されています。防衛省自衛隊にあっては、周到な準備特に十分な教育訓練を行い、任務の必遂に努力を傾けられていることは、非常に心強く思います。  

 新法制の中で、法的に任務が具体化されて従来より積極的な対応が求められていることは、周知の事実です。この機会に、これまで正面から議論されることの無かった「戦闘で殉職した隊員」すなわち「戦死者」の追悼のあり方を考えることは、防衛省自衛隊にとどまらず国民的な問題であることを強く訴えたいと思います。
 まず、このような問題について、国としての基本方針の確定が最重要と考えます「戦死者」については、先の大戦における「戦没者」が、最も類似した事例と考えられます。先の大戦とその「戦没者」は、今後の日本が直面する様々な事態とその中における様々な状況下で発生する「戦死者」とは、時代も内外情勢も大きく異なることは論を待たない事実です。

 そのなかで、国家としての視点からは、共通する点があります。それは、両者は平時ではない環境下で「身をもって」あるいは「身命を賭して」国益を担い、国策を遂行するための活動中に斃れたという点です。

 このことは他の公務上の殉職とは大きく条件を異にしており、国はなしえる限り最大限の敬意を払う必要があるものと考えます。戦没者はそのように取り扱われていると考えます。
 従って、国は「戦死者」に対して、先の大戦の「戦没者」と同様の取り扱いを行うとする基本方針を定めることを強く要望します。すなわち、防衛省レベルの追悼ではなく、国家レベルの追悼とすべきであります。この基本方針を受けて、政府部内で追悼式のあり方を検討することが必要であると考えます。
 また、この4月に施行された「戦没者遺骨収集法」に定める収集の実施にあたり、自衛隊による輸送等の支援、併せて全国に存在する旧陸海軍墓地の維持についてのより積極的な協力を要望します。


(6)予備自衛官等の制度の充実
 予備自衛官制度は、昭和29年自衛隊の発足と同時に導入され、その後即応予備自衛官及び予備自衛官補の各制度が発足し、有事等における自衛官所要数を急速かつ計画的に確保するとともに、防衛予算の効率的運用及び防衛基盤の育成・拡大を狙いとしており、自衛隊のみならず世界各国で重視されている予備役制度です。

 東日本大震災においては、即応予備自衛官及び予備自衛官が制度発足以来、初めて招集され、大いに活躍しました。しかし、予備自衛官手当については、昭和62年に改訂されて以来20年余も据え置かれたままとなっています。その増額については、訓練招集時予備自衛官を支援する県隊友会等から第一線の声として強い要望が寄せられており、早期改善を強く提言します。
 また、予備自衛官等の制度を円滑に運用するためには、彼等を雇用する企業側の理解と協力が不可欠であり、雇用企業への国からの協力・支援としての「雇用企業給付金制度の拡充」などの補償措置を検討されますよう併せて提言します。
 東日本大震災における即応予備自衛官等の活躍、予備自衛官補制度広報の成果により、国民の中に予備自衛官への関心が高まりつつあります。諸事情から平時の訓練招集には応じられないが、有事等において自衛官となり活動したいという要望が寄せられています。

 この機運を活かして防衛基盤の育成・拡大という予備自衛官制度の目的を達成するため、招集予定者を登録してリスト管理して平時・有事の業務が同様である高度の技術及び知識を有する質の高い人材を更に有効に活用することを狙いとした「登録予備自衛官制度(仮称)」の実現改善を提言します。
 平成9年度に導入された即応予備自衛官制度は、陸上自衛隊の「人(マンパワー)」を確保するために大変重要な施策ですが、自営業を営む即応予備自衛官に対しては、即応予備自衛官を雇用する企業に対し支給されている雇用企業給付金の適用が認められていません。自営業を営む即応予備自衛官も、年間30日の訓練招集期間中、当然その事業所得の損失があることに鑑みて、この損失に見合うような補填措置制度を盛り込むよう提言します。
 予備自衛官補の導入により、今まで自衛隊として手薄な正面にも数多くの優れた人材が入隊するようになりました。最近の国際協力活動においては今まで以上に世界各地に自衛隊が派遣される可能性が出てきました。従って、予備自衛官補の技能区分の拡大特に語学職域の種別の拡大を提言します。

 また、予備自衛官予備自衛官補の訓練施設や宿泊施設並びに装具は現在、基地・駐屯地の古い施設や現職自衛官の使用した古品が使用されており、予備自衛官予備自衛官補の士気に影響を与えています。彼等にも独自の宿泊施設を有する予備自衛官訓練センターや新しい装具が充当されるようお願いします。
 更に、予備自衛官制度の充実を図る観点から、海空自衛隊への即応予備自衛官予備自衛官補の導入、運用の改善、特に高度な識能を有する予備自衛官のグレーゾーン事態等における招集、将官級の予備自衛官の採用、予備自衛官規模の拡大、建設工事で具体化されている入札加点制度の他事業への拡大等について、諸外国の例も参考にしながら、検討されることを提言します。


(7)働き方改革への対応
 政府の重点政策である働き方改革は、一億総活躍社会を実現するための最大のチャレンジと位置付けられており、文化の領域や企業社会の在り方の変化を目指すものであります。自衛隊は、有事を基準とした文化を保持しています。この特性に応ずる処遇が必ずしも実現していないなかで、社会における働き方の変化が起これば、部外とのギャップが拡大するという極めて深刻な課題です。是非とも、働き方改革にきちんと対応することを要望します。
 このため自衛隊における働き方改革は、有事を基準として組織の魅力化及び業務の効率化を図る「任務遂行を第一義とした働き方改革」を推進すべきであります。そのためには、制度の見直しに始まる、不断の業務見直しによる業務の効率化、ITの活用、次いでAIの導入を可能とする業務要領の見直し、柔軟な代替勤務を可能とする要員の確保及び部外力の活用といった勤務環境の整備が重要です。
 また、介護や育児等により時間制約のある隊員は増加しつつあり、勤務環境等の整備は有事平時を問わず重要であり計画的な整備を進める必要があります。特に、今後増勢が見込まれる女性自衛官に係る生活・教育・勤務環境の整備は、働き方改革のための環境整備の主要な分野であり、組織の魅力化につながる有事即応体制の整備でもあります。
 以上述べた勤務環境の整備のなかで、自衛隊の即応性維持・向上のためにも庁内託児所の整備及び災害派遣等において各駐屯地・基地が実施する子供一時預かり等の緊急登庁支援施策は重要です。庁内託児所の整備に当たってはす、隊員の子育て支援ニーズを適切に把握し、民間託児所とは異なる24時間対応の託児所の整備を要望します。

 また緊急登庁支援については、平成28年4月に生起した熊本地震においても多くの隊員が子弟を預けて活動しており、自治体と保育に係る協定の締結等の連携を強化するとともに、受け入れ基盤となる駐屯地厚生センター等の各種基盤整備を提言します。

 

【 平成29年度政策提言についての所感 】

    この政策提言書の内容は膨大であり、私のブログで取り上げるには、いささか長文し過ぎたがあえて取り上げることにした。

     昭和の時代の勤務とはいえ、35年余の自衛隊勤務で経験し、退官後、地域社会で30年近く暮らしてきた中から、考えてきた我が国のありよう、わけても、厳しい国際情勢における安全保障、防衛のあり方を自分なりの考え、想いを抱いてきた。その根底にあるものは、ごく当たり前の世界の近代国家と同じ「普通の国家」であって欲しいと言うことである。

    こと、安全保障、防衛に関しては、世界の近代国家と比較して余りにも差がありすぎることである。これらの根源は国家の基本をなす憲法に由来することではなかろうか。

    ここで紹介した最終章「5 職務遂行のための環境整備(自衛隊員の処遇改善等)」の政策提言の内容は、現状を踏まえ、実に広く的確によくまとめられた内容であり強く共感する。特に、現職隊員の心を心として代弁している内容で切実な課題であることを知っているからである。

   その最たるものは、自衛隊員の処遇である。いまだに自衛隊員の処遇は、一般職国家公務員との横並び・均衡が基本であり、自衛隊員の任務・職務の特性を適正に評価したものとは言い難く、不十分な現状にある。

 昭和の時代から「人的防衛力についての抜本的改革」は、時代ごとに数多の有識者や内部でいろいろな形で検討され、改善が進められてきたが、解釈変更、現行法制のもとではどんなに小細工をしても限界があり、抜本改革することは不可能であるように思われる。

   それは、自衛隊及び自衛隊員の位置付けが憲法に明記されない限り、人的防衛力の整備、自衛隊員の任務遂行の環境整備(処遇改善等)の抜本的改革が進まないことは明白であるからだ。 

    これらを解決するには、最終的に憲法への「自衛隊の明記」ないしは「国防軍の明記」に帰結するであろう。なぜならば70年前の保安隊、自衛隊時代からの継続した問題提起でありながら、改善に改善を重ねてきたとはいえ、抜本的改革に至っておらず、遠い道のりであったからである。

    国家の軍事組織の設置について、世界各国において憲法に規定しているのが通例であり、それが普通の国のありようである。

   私は、政策提言書のとおり憲法第9条を改正し、「国を防衛するための実力組織」の保持を軍(国防軍)として憲法に明記し、その地位・役割を明らかにすることに賛同する。

    その方策は、  軍事組織の第一段階として、「自衛隊の明記」で法的安定確保を行い、次いで、将来的には「軍(国防軍)の明記」をするステップバイステップの方法をとるか、最初から「軍(国防軍)の明記」をして本来のあるべき国家のありようにするかは、時の政治情勢と国民の理解と支持の度合いなどによるであろう。

    今後、憲法に関する国民的な議論がさらに活発に行われ、本来のあるべき姿、世界各国と同じ普通の国家の在りようへの理解が高まり、「国を防衛するための実力組織」としての国防軍の保持が明記されることを期待するものである。

 

 ❶ 隊員の再就職に関する施策の推進

   55歳前後の若年で定年を迎える自衛官は、退職後から年金生活に入る年齢までの間の生活を維持するため、再就職が死活的に重要な問題である。

   厳しい雇用情勢の中で、若年定年および任期満了等により退職する自衛官が安定して再就職できる様に、自衛隊援護協会の更なる活用、職業訓練自衛官の有用性をアピールする援護広報、これに必要な予算強化を図る等、再就職の援護態勢を一層充実させ、退職予定隊員の期待に応えられるものとなるようにご尽力いただきたいとする要望は至極当然である。

   具体策として、退職する自衛官の在隊時の実務経験を専門学校卒業と認定できる制度等、隊員の付加価値を高めるための施策、官民でキャリアアップにつながる実務経験の認定等の枠組みの構築、警察職員等への優遇採用枠の創設等、社会への還元ルートの確保、現行の援護対象者の見直し・援護対象年齢の引き上げ・退職自衛官の事務官等での採用等、年金支給年齢の延長への対応に万全を期す処置による雇用と年金の接続を要望している。

    国家の安全保障や地域社会等の防災・危機管理態勢の向上を図るため退職自衛官地方自治体の防災監等として複数名採用するほか、民間企業の防災・危機管理部門担当者、高校・大学などの教育機関の職員等の他、国全体として不足している防災・消防ヘリ、ドクターヘリ操縦士及び海事従事者(船員、水先案内人等)として有効活用し得るよう必要な法令について整備・拡充することを提言している。

❷ 隊員の即応性確保を第一義とした宿舎整備及び隊員が後顧の憂いなく任務に邁進し得る家族支援施策の推進

   これまで防衛省自衛隊の宿舎は、国家公務員宿舎法に基づき自衛隊員の職務効率の向上を図ることを目的として整備してきたものと認識している。しかしながら昨今の安全保障環境の変化や大規模災害の発生の高まりから、自衛隊の宿舎整備は、自衛隊員の即応性の更なる向上を目指した運用基盤の整備とするべきである。

    指定場所に居住する義務とともに緊急時の参集に迅速に応ずることを求められる特別職でありながら、それに対する十分な基盤が付与されていないことに対し、自衛隊員の国家への忠誠心、使命感、士気は少なからず低下するのではないでしょうか。
   そこで今後の宿舎整備にあたっては、基地、駐屯地近傍に集約して整備することが重要です。部隊としての緊急時の参集の迅速化・容易化を図るため、宿舎無料化枠の増大、適切な宿舎使用料の設定等により基地、駐屯地近傍に居住する条件を整えることにより、状況に即応して厳しい任務に邁進する自衛隊員に対し、国家として任務遂行の基盤を付与されることを提言している。
   また、即応態勢の確立のためには、限られた一部の隊員だけでなく、実動時の主力である一般隊員の参集も重要な要素であり、相応な負担軽減を要望するとの提言に全く同感する。

    自衛隊員の隊員の宿舎については、かってブログで所感を認めたことがある。

❸ 隊員の任務・職務の特性を適正に評価し得る給与制度

   特別職国家公務員である自衛隊員は、警察予備隊創設時に警察官に準じた給与制度を導入し、以後基本的には当時の考え方を踏襲して現在に至っていると認識している。

    自衛隊員の任務・職務の特性を適正に評価した独自の給与制度は、自衛隊員の自覚を促し誇りを持たせ、国家への忠誠心、使命感、士気を高める基盤と認識する。
   現行の自衛官俸給表は、職務内容の比較的類似する行政職俸給表(一)、公安職俸給表(一)ならびに指定職俸給表のいずれかを基準として決定されている。しかしながら、自衛官の階級等と一般職の標準職務等との対応が妥当でないといった根本的問題が存在する。さらに、自衛官の階級が17区分あることから、各階級の職階差に見合う適切な給与格差を設定することができず、特に幹部と准尉・曹の役割すなわち職務内容・専門性の相違を俸給上明確にすることができないなどの弊害が内在している。

     かって、現職時代もしばしば、この問題は有識者等から提言されたが、未だ解決されていない。自衛官自衛官であって、軍人でないからである。ましてや、憲法自衛隊及び自衛官の位置付けが明記されておらず、特別職とはいえ一般職公務員の同一線上で解決せざるを得ないからである。抜本的改革は、憲法への「自衛隊明記」によってなしえるものと言えよう。

 

❹ 隊員の使命感を醸成し得る栄典・礼遇の付与

    従来からの提言であった叙勲受章資格の部内選考幹部への拡大が成されている。しかしながら厳しさを増す安全保障環境の下、国の防衛という崇高な使命を担う自衛隊員の職責に相応しい栄典・礼遇とするため不十分な点を提言している。
    防衛行動の特殊性から、若年定年制を導入せざるを得ない自衛官の定年は、一般的に55歳前後であり、叙勲の対象となる通算在職年数も、60歳まで勤務する一般職公務員と比較して短いものとなる。

    また、一般的に他省庁と比較すると、定員に対しての累積の退職者数も多くなる。結果的に国家、国民の安全のため身命を賭し、危険を顧みずに任務に従事するといった過酷な職務の特性にも拘わらず、自衛官の叙勲は、低い等級に格付けされるとともに、叙勲対象者数も抑制されてきた。
    国の防衛という崇高な使命を担う自衛官の職責に相応しい叙勲とするため、より上位の等級に位置付けするとともに、長期間にわたる国家に対する献身に国が敬意を払って報いるため、叙勲対象者の数的拡大を強く提言していることに全く同感である。

    在日米軍司令官等外国軍人への叙勲と自衛隊員の叙勲の格差を新聞紙上で目にすることがある。国際慣例における軍人の位置付けは各国とも同じである。叙勲に関して、自衛隊員の格付けは少なくとも1ランク下である。もし、国際慣例に反して、外国軍人への叙勲を自衛隊員並にしたらどうゆう事態が生じるであろうか。想像にあまりあるものがある。

    統合幕僚長認証官も同様である。その根底にあるものは、すべからく憲法への「自衛隊及び自衛隊員の位置付け明記」にあるのではなかろうか。

    私がかって、副官としてお仕えした入間基地司令白川元春将補は、航空幕僚長統合幕僚会議議長になられたが、同じ取り扱いであったように記憶している。  

    世界を見渡して、国家と軍事組織は一体のものである。新聞紙上で見る総理大臣の動静の中に出てくる、最近の統合幕僚長の官邸への出入り回数等は過去と比較にならないくらい になり、普通の国に近づきつつあるように受け止めている。普通の国家の当たり前のことが当たり前になってきたことに時代の変化を感じる。 

 

❺ 戦闘における殉職者の追悼

    新安全法制の中で、法的に任務が具体化されて従来より積極的な対応が求められていることは、周知の事実である。この機会に、これまで正面から議論されることの無かった「戦闘で殉職した隊員」すなわち「戦死者」の追悼のあり方を考えることは、防衛省自衛隊にとどまらず国民的な問題であることを強く訴えたことは妥当であろう。

    防衛省レベルの追悼ではなく、国家レベルの追悼とすべきである。この基本方針を受けて、政府部内で追悼式のあり方を検討することが必要であると考えるとの提言に同感である。

 

➏ 予備自衛官等の制度の充実

    予備自衛官制度は、昭和29年自衛隊の発足と同時に導入され、その後即応予備自衛官及び予備自衛官補の各制度が発足し、有事等における自衛官所要数を急速かつ計画的に確保するとともに、防衛予算の効率的運用及び防衛基盤の育成・拡大を狙いとしており、自衛隊のみならず世界各国で重視されている予備役制度である。

   予備自衛官制度の充実を図る観点から、海空自衛隊への即応予備自衛官予備自衛官補の導入、運用の改善、特に高度な識能を有する予備自衛官のグレーゾーン事態等における招集、将官級の予備自衛官の採用、予備自衛官規模の拡大、建設工事で具体化されている入札加点制度の他事業への拡大等について、諸外国の例も参考にしながら、検討されることを提言している。

 

❼ 働き方改革への対応

    自衛隊は、有事を基準とした文化を保持しています。この特性に応ずる処遇が必ずしも実現していないなかで、社会における働き方の変化が起これば、部外とのギャップが拡大するという極めて深刻な課題である。是非とも、働き方改革にきちんと対応することが求められている。
 このため自衛隊における働き方改革は、有事を基準として組織の魅力化及び業務の効率化を図る「任務遂行を第一義とした働き方改革」を推進すべきである。

   そのためには、制度の見直しに始まる、不断の業務見直しによる業務の効率化、ITの活用、次いでAIの導入を可能とする業務要領の見直し、柔軟な代替勤務を可能とする要員の確保及び部外力の活用といった勤務環境の整備が重要であるとの提言は傾聴に値する内容である。

 

[平成29年度政策提言書に寄せての所感のまとめ]

    長文にわたる隊友会等4団体の政策提言書を取り上げて紹介し、所感を述べてきた。我が国の安全保障、防衛に関する政策提言内容の大部分は、憲法第9条への「自衛隊明記」によって解決が可能となるものと思う。

    現下の政治情勢及び国民の理解と支持を総括すると、「軍(国防軍)の明記」は正論であり、国家としてのあるべき姿であると考えるが、物事は全て一挙に解決できないものである。

 今日の自衛隊に充実発展するに至るまでには、警察予備隊・保安隊を経て堅実に、誠実に国家国民から託された使命を遂行した歩みによるものである。一歩一歩着実に積み上げた結果が大部分の国民の理解と支持につながったと思う。政策提言の内容の実現化も同様ではなかろうか。

    現実の政治情勢、とりわけ国会の発議と国民投票に至る状況を考察すると、第2項を維持した上で「自衛隊明記」とする改正が最も適切であると考える。

    自由民主党結党以来の党是とはいえ、安倍総理大臣が、自ら進んで憲法への「自衛隊明記」を提唱したことは歴史に残るほどの事柄であるように思う。

   指導者たるもの、自らの信念、信条に基づく考えを提示し、実現に向けて全力を傾けて努力してもらいたい。これが一国の最高指導者たる者の姿勢ではなかろうか。

    我が国は民主主義国家である。正々堂々と政策を掲げて、国民に信を問う。国家の安全保障、防衛の中核となる自衛隊憲法に明記される発議が行われて、国民投票によって支持される日の到来を切に願うものである。

    あえて、ブログに長文を取り上げ紹介した心情はここにあった。ありがとうございました。