元自衛官の時想( 42 )   平成29年度政策提言書に寄せて(5) 4 防衛体制の強化

    平成29年11月.公益社団法人隊友会」、公益財団法人「偕行社」、公益財団法人「水交会」及び航空自衛隊退職者団体「つばさ会」の4団体が合同して作成された「平成29年度政策提言書」が発表された。

 この提言書は、長年にわたって国家防衛の任務に服したOBと現職の声なき声を代弁する内容のある提言と言って過言ではない。政策提言に寄せるOBとしての思いは、28年度政策提言書が発表された折に、ブログに記した。

 2016-11-17 元自衛官の時想(9)   隊友会・偕行社・水交会・つばさ会の4団体の「政策提言」に思う

OBとして29年度政策提言書に寄せる思い

❶    わが国の国家防衛の第一線にあって任務を全うしたOBとして、この政策提言書は、今日 厳しい環境下で世界各地における国際平和協力活動や国内での諸活動・訓練に励んでおられる自衛隊員の皆様の任務達成と安全を支える立場からも、国家存立の基本である安全保障・防衛について国民の皆様の理解が一層深まることを願ってやまない。

❷ 世界のどの国家であっても、憲法等の国家の基本法には、国家防衛、軍隊について明記している。憲法上、国を防衛するための実力組織を明記し、その地位・役割を明らかにすることが必要と考える。それは国家の平和と独立、国民の生命財産の保護・主権の基盤をなすものではなかろうか。一介の元自衛官であるが、この政策提言書の内容は多くのOBが現職当時からの長年の願望であり、政治的な駆け引きは全くなく、現実を踏まえ長期的視点に立った、実によくまとめられた内容と確信するものである。

❸ 国家の安全保障・防衛は、憲法とこれに基づく諸法令に基づいて行われる。民主主義国家おいては、国民の支持と国民から選ばれた政治によって達成されるものである。政策提言とされたゆえんもここにあるであろう。防衛省の防衛政策、防衛諸計画の策定はもとより、国会における安全保障、防衛政策の審議・議論、政党の政策策定・提示にあたり、この政策提言書が、一人でも多くの方に理解され支持されることを願うものである。

【 平成29年度政策提言内容 】 隊友会ホ-ムベ-ジ 出典)

4 防衛体制の強化
 我が国を取り巻く安全保障環境は、近年、その厳しさを増大しつつあります。北朝鮮による威力を格段に増大させた核兵器の開発、ICBM 等の弾道ミサイル開発等は我が国及び周辺諸国の安全保障環境を大きく悪化させています。
 また、ロシア軍の活動の活発化、中国による軍事力の急速な強化及び東シナ海南シナ海における活動の急速な拡大、特に南シナ海において岩礁を次々と軍事基地化している事実は、将来の東シナ海の状況を連想させるものであり、さらに、度重なる中国による尖閣諸島の領海侵犯は我が国の安全保障にとって極めて重大な問題です。
 一方、安倍内閣では、平成25年の安全保障会議の創設、国家安全保障戦略の策定、平成26年度以降に係る防衛計画の大綱について(以下、25大綱という。)の策定及び「中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)(以下、26中期防という。)」の策定を皮切りに一連の平和安全法制の成立を達成し、より包括的で実効性のある安全保障体制の整備が行われました。
 このような環境下、防衛省自衛隊は、各種事態への実効的な対応と一層の即応性の向上が求められています。
以下、防衛体制の強化に関する主要な事項について述べます。


(1)着実な防衛力の整備
 我が国周辺における各国の軍事関係費の増大は大変顕著です。特に、中国における軍事費の伸びは、公表ベースで毎年2桁であり、この10年間で約4倍になっております。2017年の中国の国防予算は、公表ベースで日本円に換算して約17兆1,000億円で、約4兆9,000億円の我が国の防衛予算の約3.5倍にも達します。
また、公表されたもの以外にも別枠で研究開発費や装備購入費等があり、実質的には公表値の2~3倍と言われています。このペースで行くと10年後には、公表された軍事費だけを比較してもその差が5~9倍になるとも言われています。
 一方、我が国の防衛関係費は、平成25~28年度と4年連続で増加したものの、それ以前においては10年間連続で削減されて来ました。また、その伸び率も3年間の平均で1.3%と10%台の中国とは、けた違いに低い数字です。
 このままでは、防衛費(国防費)の差はどんどん開くばかりで、我が国がどんなに効率の良い、また、質の高い防衛力整備をしたとしてもとても中国に対処できるレベルを維持することはできません。
 国家の安全保障は、国家存立の柱であり、防衛力整備はそれを支える最重要施策です。周辺の状況変化に迅速・的確に対応するため、防衛費を大幅に増加し、武力攻撃事態対処に万全を期する着実な防衛力整備を推進することを強く提言します。
 その際、大綱においては、統合運用の観点からの能力評価を実施し、防衛力整備に反映させようとする初めての試みが実施され、極めて評価するところでありますが、今後はこれをさらに洗練させ、防衛力の質、量ともに我が国の安全保障を担保できるような実効性のある能力評価に発展させることを要望します。


(2)防衛産業の維持・育成
 防衛力整備は国産・外国製装備品の導入を主要な柱としています。導入後、装備品は30年以上に亘って維持・整備や能力向上等をしながら、使用することになります。自衛隊は他国の軍隊と違って維持・整備や能力向上を行う工廠を保有していません。多くの装備品の維持・整備等は防衛産業が実施しています。このため、自衛隊が高い抑止力を保持するには防衛産業との連携が不可欠です。また、防衛産業には、近年の装備品の高性能化に合わせて、高い開発・製造能力等を持つことが求められています。
 平成14年度から10年間に及ぶ防衛予算の削減は企業に防衛事業を継続することに不安を生じさせました。この結果、100以上の企業が撤退・廃業したと言われています。防衛産業は、戦車は約1,200社、護衛艦は約2,500社、戦闘機は約1.100社といわれるごとく、裾の広い、独自先端技術の集大成であり、一度消失すると復元には多くの時間と経費が必要です。
 平成25年度からは防衛予算は漸増していますが、26中期防で多くの主要装備品が米国からFMS※1や一般輸入で調達されているため、国内調達が大きく減り、依然として防衛産業は厳しい状態にあります。特にFMS調達品等は米政府等が許諾した範囲しか国内企業が関与できないため、今後多額の経費が国内企業を素通りして米政府や米企業に流れることになります。
 このような中、防衛省は25大綱並びに26中期防等を受けて、平成26年6月に防衛生産・技術基盤戦略、平成28年8月に防衛技術戦略と平成28年度中長期見積もりを策定しました。これら文書において、研究開発ビジョンと同ロードマップを防衛産業と共有して、研究開発を進めることが明示されたのは防衛産業にとって大きな朗報です。
 防衛産業の維持・育成については、財務当局・マスコミの関心が高い「当面のコストの重視」に偏重しない長期的な安全保障の確保といった展望に立つ総合的政策の実現とそれに基づく諸施策の展開が重要であり、この観点から以下の5項目を提言します。
 その第1は防衛産業を維持・強化するためには国産装備品や国際共同開発による装備品を少しでも多く導入すること、また、FMS 調達する装備品についても、国内企業が米国企業のパートナーとして製造に参画できるように、米との調整を進めることが必要不可欠です。これを達成するため、31中期防では、装備品の国産化率及び事業数等について数値目標を設定するように強く提言します。
 第2は、防衛装備品の国外移転、共同開発に関することです。
 安倍政権になって、「防衛装備移転三原則」が策定され、防衛装備品の国外移転、共同開発が可能となりました。
防衛装備品の国外移転に関しては、防衛省が主務官庁として装備品や部品等を国外移転できる制度を速やかに整備することが必要です。例えば、米国のFMS やIMET※2などを参考に、体系的かつ効率的に処理できる体制の構築を提言します。
また、その態勢は、官民一体で対応できるように、商社やメーカーの社員を一時的に防衛装備庁職員に身分変更して活用することも必要と考えます。
共同開発の推進は、技術、コスト面だけでなく日米共同防衛及び国際共同行動における後方分野の実効性の確保にも大きく貢献するものです。
特に、巨額の開発費を必要とする航空機の開発は、共同開発が主流であり、「欧米諸国との共同開発の拡大」にも前向きです。我が国が得意とする先端技術、例えば炭素繊維等素材技術、複合材成型技術等の維持・向上及び安定的な装備品の供給、コストの節減等が図られるよう共同開発の推進と具体的施策の策定を強く提言します。
 第3は、契約・調達制度に関することです。

 防衛装備庁が発足して少しずつ改善されていると考えますが、官民双方にとって多大な事務負担が生じる原価監査条項付契約や企業に一方的に不利な超過利益返納条項付契約などについては早急に改善すべきです。
 また、一般競争入札への偏重を改めて、装備品の特性に応じて随意契約を活用、拡大することをより促進すべきです。特に、国産品は開発を実施した企業が販売権を譲渡しない限り、他社が一般競争入札に参入できる余地はありません。同企業が製造図面などの知的財産の所有等について排他的地位にあることを確認できた場合は随意契約とすべきです。
 さらに、平成27年度から始まった長期契約については、為替や材料費等の変動要因がある中、また次の契約への保証がない状態において、企業にとって10%削減ありきの契約は防衛事業に対するインセンティブの喪失や企業体力を著しく消耗することにもなりかねず、この10%削減についての撤廃を強く要望します。契約はあくまでも適正価格、すなわち官民双方にとって”win-win”となることを鉄則に行うべきです。
 第4は、研究開発、そのうちの将来戦闘機の開発に関することです。

 防衛省は、「平成30年度までに国際、国産開発に関わる最終判断を行う。」としています。本事業は国家プロジェクトともいうべき最重要案件です。事業管理を厳格に行い、開発が計画通り進捗するように予算上の配慮を要望します。
 また、開発形態が国際共同開発になったとしても、国内企業がプライムとして事業をリード出来るように特段の配慮をお願いします。現在、航空防衛産業では、P-1 やC-2 の製造で一部の企業は仕事が確保出来ていますが、F-35A の製造では3社が参画できているだけで、多くはじり貧の状態です。
 これを改善するため、また量産効果を出すためにも、将来戦闘機は友好国等に輸出することも想定して事業を進めるように強く要望します。
 第5は、艦艇建造における契約方式の見直しです。
 平成10年度までは、艦船建造請負契約が、防衛庁長官の指示による随意契約(長官指示方式)でした。同方式の下では、新型艦計画時、建造予算要求の4~5年前の構想研究及び確定研究(当該新型護衛艦等の期待性能や要求性能の素案作成)の段階から艦船建造造船所の設計・技術者の参画を得て、護衛艦等の装備体系の構想、求められる技術及び技術的可能性の評価など護衛艦等の運用者が求めている技術的ニーズを適正確実に認識できる機会がありました。
 また、護衛艦等の一番艦においては、建造予算成立年度、技術研究本部において基本計画、基本設計が作成される際に、技本の人員の不足を補うために艦船建造造船所の設計・技術者の労務の支援を得る目的で労務借り上げ契約が実施されました。長官指示方式下では、当該労務借り上げの時点で建造造船所が内定していたため、参画する艦船建造造船所の設計・技術者に派遣元の垣根がなく、参加している官民の設計・技術者が一体となって英知を設計に反映させるとともに、オール日本として建造技術の伝承・継承が行われ、人材の育成に大きく貢献していました。
 しかしながら、官公庁がらみの不祥事多発等に端を発した「公共調達の適正化」の風潮の下、防衛庁(当時)は「自主的に」長官指示方式を取り止め、平成11年以降は、艦船の請負契約が指名競争に付されることとなりました(競争入札方式)。このことにより、艦船建造造船所に熾烈な受注競争が生起し、当該造船所ごとに艦船技術の厳格な囲い込みが行われるようになり、オール日本として建艦技術の伝承、継承、向上が途絶えることとなっています。
 また、防衛関連装備品の競争入札方式は、過当競争を生起し、前述のような技術・品質向上のための協業を許容せず、価格低下がメーカーの利益低下、ひいては防衛基盤の沈下(品質低下・事業嫌気)につながるという弊害・危機に瀕しています。
 現在、防衛省は2018年度以降に建造することを想定した新護衛艦(新艦艇)について、新たな契約方式(設計、建造計画の企画提案を公募し、審査結果に基づき、複数艦の建造事業所を予め決定する)を試みています。しかしながら、この方式がこれまでの競争入札方式の弊害を抜本的に改善することができるかについては、不透明です。
 いずれにせよ、国産の艦船建造にかかる技術基盤の維持のためにも、かつての随意契約(大臣指示)方式に基づく「オール日本としての建艦体制」の復活が必要であり、引き続き抜本的な見直しを強く提言します。
※1 FMS(Foreign Military Sales):米が武器輸出管理法に基づいて、友好国に対して有償で行う軍事援助
※2 IMET(International Military Education and Training):米の同盟国及び友好国の軍関係者に、米の軍事教育機関などへの留学、研修の機会を提供する制度


(3)島嶼部における防衛態勢の強化
 中国は、1992年2月に日本の領土である尖閣諸島を中国領とした「領海及び接続水域法」を公布し、自国の領土として宣言し、我が国領海への断続的侵入を繰り返してきました。
 また、日中中間線付近での天然ガス採掘など海底資源開発を行うとともに自国の海洋権益を守るための防衛線(第一列島防衛線)を日本本土から南西諸島に設定し、中国海軍による活動を活発化させています。2013年5月米国防省が公表した中国の軍事・安全保障に関する報告書によるとA2AD(接近阻止・領域拒否)戦略に基づき空母の装備化、ステルス戦闘機の導入、対艦弾道ミサイルの装備化等近代化を進めており、最近では尖閣諸島、南沙・西沙諸島における海空軍主体の活発な活動が目立ってきています。
 また、近年注目されている中国による南シナ海岩礁の軍事基地化は、周辺国に大きな脅威を及ぼし、米国、南シナ海沿岸諸国と中国との緊張が高まっているほか、昨年7月にオランダ・ハーグの仲裁裁判所が下した判決(南シナ海をほぼ囲い込む境界線「九段線」は「歴史的な権利を主張する法的根拠はない」などとする判決)を無視する等、国際社会の秩序を一方的に乱す行為を行っています。
このように中国は明らかに話し合いによる解決から力による解決へと移行しており、これに対抗するための防衛力整備は増々重要となってきました。
従って、以下の4項目を提言します。
 第1は島嶼部防衛においては、25大綱にも記載されているように島嶼部に対する攻撃に対応するための部隊の配備、統合運用による機動展開、水陸両用機能の確保及び強化、警戒監視部隊等の配備、輸送力の確保等の施策を着実に実施することとされています。
 また、25大綱では、その導出過程である能力評価により、「各種事態における海上優勢、航空優勢の確実な維持に向けた防衛力整備を優先する。」と明記され、これが大綱別表に一部反映されています。しかし、中国の軍事力の増強速度を考えれば、必ずしも十分な措置とは言えず、継続的な海上優勢、航空優勢確保の施策を講じることを強く要望し、ここに提言します。
 第2は、統合運用によって成り立つ島嶼防衛作戦においては海、空自衛隊による支援の下、地上部隊の事前配置、島嶼防衛作戦、反撃奪還作戦のステージが考えられ、その際の事前配置、島嶼奪回作戦を先導する水陸両用機能の向上は重要でありますが、現状の主力部隊となる作戦基本部隊(師、旅団)の多機能性、持続性ある火力、機動打撃力は不十分であり、陸上自衛隊兵站機能の向上も併せて、陸・海・空自のバランスのとれた防衛力整備を要望します。
 第3は、日米同盟を誇示し、双方による抑止力の強化という観点からは、自衛隊と米軍の相互運用性をさらに拡大し、事態対応時の柔軟性及び抗たん性を向上させるため、沖縄(嘉手納基地、キャンプ・ハンセン等)に所在する施設の共同使用を推進することを強く要望します。併せて、我が国南西域に点在する民間空港の使用を可能にし、統合機動防衛力発揮のための運用基盤を確保するよう提言します。
 第4は、島嶼防衛において戦闘の帰趨に大きく影響すると考えられる長射程のロケットについても導入の再検討を強く要望し、ここに提言します。


(4)着実な弾道ミサイル等の脅威への対応
 北朝鮮の高性能弾道ミサイル保有は、我が国にとって極めて大きな脅威であり、迅速・的確な対応が喫緊の課題です。
 昨年には15回23発の弾道ミサイル発射を行い、今年は8 月までにすでに13回18発の弾道ミサイルを発射し、北朝鮮弾道ミサイル能力は格段に向上しております。また、今年9月の通算6回目の核実験では、従来の規模を遥に超える核爆発と思われる爆発を確認しました。
 北朝鮮の脅威は、我々が考えているよりもかなり早いスピードで増大しており、北朝鮮のミサイルが我が国に弾着する可能性も現実味を帯びてきました。
 我が国のBMD は、現行においては、米軍と連携し、米国の早期警戒衛星等からの情報に基づき共同・統合体制により対処しているところであり、情報の獲得については米国に大きく依存しているのが現状です。
 我が国独自で早期警戒衛星情報を入手する手段を構築するには予算の制約から現実的ではないと考えますが、現在、防衛省で進められている宇宙空間での2 波長赤外線センサの実証をするための研究などをもって、米国が推進している早期警戒システムの性能向上に一部参画する等、米国と共同した監視体制の構築は極めて有効であり、積極的な日米協力を提言します。
 他方、迎撃態勢は米軍と連携し万全の態勢構築に努めているところですが、多数の弾道ミサイルが発射された場合は、対応に限界があり、甚大な被害の可能性も排除できません。
したがって、より確実な対処ができるよう、現在よりも重層的な弾道ミサイル迎撃体制の構築を強く提言します。
   なお、平成30年度予算の概算要求において、新規アセット(イージスアショアを中心に検討)の整備を要求されたことは高く評価するところであり、確実な予算化を強く要望します。
    現在、BMD の一翼を担っているイージス艦にあっては、BMD 任務のほか、艦隊防空や海上交通保護等の海上作戦としての任務も担っており、一部のイージス艦をこれら海上作戦に充当するためにも、早急な重層的BMD 体制の構築が必要と考えます。
 また、将来の戦闘様相においては、弾道ミサイルに加え、巡航ミサイルをはじめとする各種ミサイルによる同時又は波状の飽和的攻撃が予測されることから、こうした経空攻撃に対処できる要時要域に展開する陸海空関係部隊を一元的に指揮統制できるシステムの構築、並びに関係部隊が保有する装備品の増強を強く要望します。
 一方、北朝鮮弾道ミサイル能力の飛躍的な向上に伴って日米の役割分担(楯と矛)にも若干の修正が必要であり、抑止を強化する観点からは敵基地攻撃能力等の付与が必要と考えます。すなわち、昭和31年当時の統一見解における弾道ミサイルの基地等の攻撃が可能になるような措置、例えば航空機による航空攻撃、長射程ミサイル等の保有等について論議の継続を強く要望しここに提言します。


(5)宇宙空間及びサイバー空間の利用及び対処
 国家安全保障戦略において宇宙空間の安定的利用及び安全保障分野での活用の推進、サイバーセキュリティの強化が謳われており、これを受けて25大綱では宇宙空間及びサイバー空間における対応を上げております。
 平成28年4月、政府は、我が国の宇宙政策の指針を定める「宇宙基本計画」を閣議決定しました。この「宇宙基本計画」は、今後10年間で官民合わせて累計5兆円を目標とした宇宙機器産業の事業規模も盛り込んでおります。
   本計画では、「宇宙システムの利用なしには、現代の安全保障は成り立たなくなってきており・・」と、安全保障のための宇宙利用を強く打ち出しています。
    安全保障に関する宇宙利用においては、情報収集衛星の機能強化とともに自衛隊の部隊運用、海洋監視といった分野における衛星の有効活用が謳われております。
    これらは、我が国の安全保障、特に情報の優位性を確保する上では極めて有効な手段であると考えております。
 今後、衛星に求められる機能としては、情報収集衛星の更なる能力向上はもちろんの事、ニア・リアルタイムな監視すなわち衛星の作戦及び戦術への活用、衛星による海洋監視等多くの分野への活用が考えられます。
   なお、衛星によるニア・リアルタイムな監視を実現するためには、タイムリーに打ち上げ可能な小型監視衛星が必要と考えます。
さらに、有事の際、対象国の衛星に対する一時的な無力化について研究することも提言します。
    安全保障における宇宙利用は、平時・有事を問わず、作戦の帰趨を決定付けるといってもいいほど重要な要素であると考えており、今後、積極的に整備を進めていく分野であると考えます。
    なお、体制整備にあたっては、厳しい防衛予算の中で、防衛省が独自で衛星を保有し運用することは現実問題として大変困難な状況であり、政府全体として整備し、防衛省としては運用主体として維持管理、情報収集・分析できる体制、例えば、宇宙関係を全て扱う統合された「宇宙コマンド」の整備が必要です。
安全保障会議及び関係省庁との連携も含めて組織・運用要領等について検討する事を提言します。
    一方、近年、国内外の官庁及び有力企業等へのサイバー攻撃が多発し、安全保障上の大きな問題となってきました。
    防衛省としてもその脅威を認識し、平成26年3月に「サイバー防衛隊」を新設し、24時間体制で防衛省自衛隊のネットワーク監視にあたっているほか、ウイルス情報の収集、分析や、サイバー攻撃の手法に関する研究を推進し、米国とは共同訓練を実施し、欧州連合(EU)やオーストラリアとの情報共有も進める等、対策を講じてきていると承知しています。
また、内閣官房情報セキュリティーセンター(NISC)などの関係省庁との連携も強化されてきております。
 このような取り組みは大きく評価するところでありますが、ことサイバーに関しては日進月歩、非常に進化速度が速いものと認識しております。
 2015年5月に判明し、大きな問題となった日本年金機構に対するサイバー攻撃による個人情報流出事件は、我が国の情報セキュリティ対策に大きな衝撃を与えました。
    このように、一度サイバー攻撃を許すと計り知れないダメージを蒙ること及び完全なサイバー防護はあり得ないという認識のもと、防衛省のみならず関係機関、更には民間も含め国全体として、横断的なサイバー対処体制の確立を提言します。また、優秀な人材の育成についても急務であると考えております。


(6)海洋状況把握(MDAMaritime Domain Awareness)体制の構築
    我が国においては、海洋基本計画、宇宙基本計画及び国家安全保障戦略などにMDA の体制確立・強化が言及され、昨年7月26日には、総合海洋政策本部において初めて、我が国の海洋状況把握、いわゆるMDA の能力強化に向けた取り組み方針を決定いたしました。
   さらに、2016年4月に策定された新たな日米協力の指針(ガイドライン)において、「自衛隊及び米軍は、・・中略・・海洋監視情報の共有を更に構築し、強化しつつ・・中略・・日米両国のプレゼンスの維持及び強化等の様々な取り組みにおいて協力する。」とあり、海洋状況把握すなわちMDAは、益々安全保障上の重要なアイテムとなってきています。

   我が国は、①四面を海に囲まれており、②我が国の輸出入取扱貨物量の海上輸送依存度は99%を超え、③世界第6位の面積の領海及び排他的経済水域を持つ、という特徴を持ちます。
そのため、安全保障を考える上では、海洋の状況を把握することは極めて重要なことです。
   具体的には、航行船舶の状況を把握し、敵性艦船や不審船を特定、違法行為を行っている船舶や遭難船舶の情報を把握するという、安全保障に係るMDA が極めて重要なのです。
しかしながら、海洋の状況を知ることは、予想以上に難しいものです。
    例えば、東シナ海を例にとると、航行する船舶は漁船を含め常に千隻を超えます。現在、海上自衛隊の哨戒機がこの海域の監視活動を行っておりますが、膨大な船舶の動向を常時把握し、その中から敵性船舶や不審船をもれなく発見することは困難です。
    従って、哨戒機だけでなく、他の手段を組み合わせた統合的な監視体制が必要です。
哨戒機以外の有効な手段としては、合成開口レーダー(船舶の形状が把握できるレーダー)やAIS(自動送信される船舶情報)受信機を搭載した衛星や無人航空機が考えられます。これらの手段は、哨戒機が飛行できない海域(他国沿岸や有事における危険海空域)での情報収集や常続的な情報収集が可能です。
    現在も防衛省海上保安庁の間で所要の情報共有がなされていますが、常時、広範囲な海洋の状況を確実に監視するには至っていません。
我が国の国益を守るためには、様々な手段(衛星、無人航空機、哨戒機)からの情報を組み合わせたニア・リアルタイムな状況図を作成するなどの統合的なMDA 体制の確立が急務であり、早期の体制整備を強く提言します。


(7)任務の多様化・国際化等に対応する人的防衛力の確保
    平成24年度予算に至る10年間、防衛関係費は連続して削減され防衛力の規模が縮減される中で、自衛隊は、任務の多様化・国際化に対応すべく一層の合理化・効率化を図って来ましたが、人員・装備に大きな負担がかかっているのも事実です。

    特に、平成19年の省移行に伴う自衛隊法改正に伴い、周辺事態と国際社会の平和と安全のための活動が、本来任務に加えられたにもかかわらず人的措置がなされていないばかりか、平成19年(3月31日現在)と平成29年(3月31日現在)の自衛官の現員を比較すると、
16,548名の減員となっています。(充足率:19年95.9%、29年90.8% 防衛白書19年版、29年版より。)昨年と比較しても約3,000名の減員となっています。
   また、平成27年に成立した平和安全法制の成立により自衛隊の果たす役割が拡大され、その責任も大きくなりました。
    領土・領海を巡る警戒監視任務の強化、弾道ミサイルへの対応態勢の継続、国内外災害派遣活動等への迅速な対応、国際平和協力活動等の常態化など様々な事態に対する迅速・的確な対応が求められ、さらに新たな平和安全法制の成立により、本来任務は益々増大しており、充足率の向上並びに定員増加による大幅な人員の拡充が急務です。
    特に、東シナ海情勢の緊迫化に伴う警戒監視任務(スクランブルを含む。)は著しく増大しており、事実、これらの監視等の任務のために、本来行うべきもっとも基本的な練成訓練が出来ていない部隊もあります。すなわち、任務は増加し、逆に人員は削減され、部隊の負荷は限界に達しています。
一刻も早くこのような状態を解消するため、第一線部隊の定員の増加及び充足向上を強く要望しここに提言します。
    この際、任務の多様化・国際化、装備の高性能化を踏まえ、幹部・准曹を優先的に充足向上させることを提言します。
また、第一線部隊の自衛官の充足向上のためには、兵站・教育分野における業務に精通した事務官等の活用により自衛官の第一線部隊への転出を可能とすることが極めて有効であり、防衛事務官等の、他省庁と横並びの定員合理化の見直しを要望します。
    一方、現在の社会環境は、過去30年と比較すると、平成4年の18歳人口最大時の205万人から平成28年には119万人に減少しました。
   この間に、専門学校以上への進学率は、60%から79.8%に向上しています。少子高学歴化社会の到来です。このため、少子高学歴化及び近年の有効求人倍率の上昇に伴い、募集状況はバブル期以来の厳しい状況であり、今後、当該傾向は激化することが予期されます。
また、将来、少子化に伴う若年人口の減少により公安職公務員になる人材の枯渇も懸念されます。

    このような状況下で、優秀な人材を確保するためには、従来からの要望である人材確保の基盤となる高校や大学での安全保障教育の導入推進、募集広報の強化(自衛官募集ホームページやSNSを活用した募集広報動画の配信等)や募集体制の強化等の防衛省独自による各種募集施策の充実のみならず、関係省庁との密接な連携及び自衛隊法第97条に定められた地方自治体等による募集事務の確実な履行及び自治体等と連携した募集施策が不可欠です。

   特に、公安職公務員の自衛隊、警察、消防及び海保は、併願する応募者が一定数存在する一方で、各機関がほぼ独自に募集・採用している関係上、相互に人材獲得競争をする等非効率な現状にあるので、自衛官と警察官・消防官等の間における再就職の容易化による人材共有、各機関による合同での募集活動等を推進することを提言します。
    最後に、このような人口動態の変化のなか、任務の多様化・国際化に対応するためには、多国間連携・政府内他省庁連携および統合・共同作戦において活躍できる人材やサイバー等の高度な専門知識を有する人材、常備自衛官予備自衛官との間隙を埋める隊員等を含め、質が高く十分な規模の隊員の獲得・育成のため、自衛官の任用制度等の見直し及び多様な人材の官民の壁を超えた柔軟な交流を実現する必要があり、具体策の検討のための全省的検討の実施を提言します。


(8)有事等における元自衛隊員の有効活用
    任務が多様化し、自衛隊が活躍する機会は増加しましたが、他方、活躍する自衛隊員は逆に減少し、災害が多発する昨今では平時においても、任務遂行が限界に近い状態であると言えます。
    その改善策として、人的防衛力の確保を提言しましたが、これをさらに補強する体制を築くとともに、国民による後方支援隊力の骨幹となり得る元自衛隊員の有効活用を提言します。
有事の際には、多くの現役自衛隊員が第一線に出ていくことになると同時に後方においても業務量が飛躍的に増加します。
    したがって、現状の自衛隊員だけで常続的な後方支援を行うことが困難となります。
    現在は、予備自衛官(補)制度があり、この後方支援を補完する目的も持っていますが、召集数にも限界があり、必ずしも十分とは言えません。

    一方、有事の際には国民による支援が不可欠でありますが、その主体となるのは地方自治体や国の機関です。そこでの役割を担うに当たり、元自衛隊員と自衛隊勤務の経験のない一般国民では自衛隊の後方支援を行う上で明らかな能力の差があります。現在では防災の専門家として地方自治体において脚光を浴びているのが防災官等であり、今後は有事を見据えて平時から防衛官(仮称)の配置も求められてくるでしう。この点において、元自衛隊員は保有する経験と資格を駆使して期待に応える事ができるのです。
    自衛隊発足60年の現在において、70歳未満の元自衛隊員(自衛官及び事務官等)の勢力は既に百万人を超えており、全国に散在しています。これらの元自衛隊員を有事の際に有効に活用し、自衛隊を後方から支援できれば、我が国の安全保障にとって、大きな利点になります。
 そのためには、平時から元自衛隊員のうちから意志のあるものを登録し、有事の際に自衛隊の活動を後方から支えるという体制を国家として制度化することが必要であり、ここに提言します。
 なお、この制度は、国の後ろ盾による募集・登録・保障等を行う点で、ボランティア制度とは異なり、具体的には防衛省からの業務委託や施設の使用等に便宜を図って戴く事が必要と考えております。
 また、この制度は、有事に限らず平時の射場や演習場の管理、訓練・演習時における指導や評定、大規模災害発生時の駐屯地・基地の維持や後方支援等にも活用できるとともに、国家兵站の構築にも寄与できると考えております。
    平成27年度から防衛省と検討を開始し、昨年度からは、自衛隊家族会、偕行社、水交会、つばさ会を含め、総合的に検討を進めているところです。


(9)国民に対する安全保障教育の充実
    我が国の教育における安全保障の扱いは、十分とは言えません。平成27年に新学習指導要領に基づく中学校教科書の検定が行われ、安全保障についても一部の教科書は従来に比べて充実した記述となっている一方、ほとんど触れていない教科書がある等、依然としてばらつきが大きいのが実態です。我が国が戦後70年に亘り平和を享受してきたことにより、国民の中に、安全保障に関する知識経験を持つ人の割合は、他の先進諸国と比べて限定されていると考えられます。
    我が国が、その防衛政策や防衛戦略を構築していくにあたり、国民の理解・協力を得てゆくことが不可欠です。そのためには、国民一人一人が、安全保障・防衛について一般教養として必要最小限の知識を持っておくことはその前提であると認識します。
    特に、海外においてテロや人質事件に日本人が巻き込まれる危険は、アルジェリア人質事件やバングラディシュのテロ事件に見られるように、近年、著しく高くなっています。多数の国民が海外に旅行し、多くの外国人が我が国を訪れる時代において、軍事・テロ対策を含む安全保障について、国民が正確な認識を持つことが重要となっています。
   このような状況を踏まえ、義務教育等において、軍事力の諸外国との対比も含めて、我が国の安全保障政策等に関する教育を充実させることを強く要望します。具体的な方策としては、国家行政に関わる職業である国家公務員及び実際に国民保護等を実施する地方公務員の採用試験において、一般教養としての安全保障・防衛を出題範囲にすることを提言します。
   この際、我が国の歴史において、国防に対する先人の努力の跡を教えるとともに、国民として国を支える努力をすることの重要性や、現代において自衛隊の活動を紹介して考えさせる機会をつくることが大切であり、義務教育等においてその教育内容の充実を要望します。
   安全保障の教育にあたっては、教科書等によるものだけでなく、危険な現場での実践的な経験を多く積んでいる自衛官自衛官OB 等による講話等の場を、学校教育において積極的に活用し、理解を深めさせる施策について提言します。

 

【 平成29年度政策提言についての所感 】

 防衛体制の強化については、新聞テレビで報道される関係からか全般的に関心が高い。しかし、メディアで話題になっている割には外側からの立場で捉えたものが主体で、核心に触れる本質的な面まで掘り下げて論評・報道されているのは少ないように感じている。

    物事を的確に把握し、政策化していくには、外側と内側からの両面からの考察と具体化が必要ではなかろうか。

    その点、国家防衛の実任務に就き、部隊の指揮管理・運用・通信・装備・整備補給・研究開発・予算等に従事し、内側を知り尽くした、OBの立場からの大局的な政策提言は貴重なものと言える。単なる論評や理想論ではなく、他では見られない現実を見据え、かつ、実行可能性の高い内容となっているからである。

 テレビ等で見る安全保障や自衛隊に関する各党の討論、国会審議・質問・論戦においても、この政策提言内容と比較しながら視聴すると各党の政策内容・深さや真剣さといったものがどの程度のものかがよく分かるのではなかろうか。

    本文の政策提言内容は、現状認識、問題点と改善要望の具体策が細部にわたって提言されており、OBの一人として全く同感である。

    また、「4  防衛体制の強化」をハード面とするならば、次の「5 任務遂行 の環境整備(自衛隊員の処遇改善等) 」はソフト面であり、両面が有効に機能して、我が国の安全保障、防衛の強化につながっていくものではなかろうか。  

 

❶ 着実な防衛力の整備

    我が国の防衛関係費は、平成25~28年度と4年連続で増加したものの、それ以前においては10年間連続で削減されて来た。

   国家の安全保障は、国家存立の柱であり、防衛力整備はそれを支える最重要施策である。周辺の状況変化に迅速・的確に対応するため、防衛費を大幅に増加し、武力攻撃事態対処に万全を期する着実な防衛力整備を推進することを強く提言している。

 

❷ 防衛産業の維持・育成

    平成14年度から10年間に及ぶ防衛予算の削減は企業に防衛事業を継続することに不安を生じさせた。この結果、多くの企業が撤退・廃業したと言われている。防衛産業は、裾の広い、独自先端技術の集大成であり、一度消失すると復元には多くの時間と経費が必要である。
 平成25年度からは防衛予算は漸増したが、26中期防で多くの主要装備品が米国からFMSや一般輸入で調達されているため、国内調達が大きく減り、依然として防衛産業は厳しい状態にある。特にFMS調達品等は米政府等が許諾した範囲しか国内企業が関与できないため、今後多額の経費が国内企業を素通りして米政府や米企業に流れることになっている。

    防衛産業の維持・育成については、財務当局・マスコミの関心が高い「当面のコストの重視」に偏重しない長期的な安全保障の確保といった展望に立つ総合的政策の実現とそれに基づく諸施策の展開が重要であり、5項目の提言は実に核心を突いたものといえる。

 

❸ 島嶼部における防衛態勢の強化

   中国は、1992年2月に日本の領土である尖閣諸島を中国領とした「領海及び接続水域法」を公布し、自国の領土として宣言し、我が国領海への断続的侵入を繰り返している。 また、日中中間線付近での天然ガス採掘など海底資源開発を行うとともに自国の海洋権益を守るための防衛線(第一列島防衛線)を日本本土から南西諸島に設定し、中国海軍による活動を活発化させている。島嶼部における防衛態勢の強化は着実に進めていくべきではなかろうか。

 

❹ 着実な弾道ミサイル等の脅威への対応

    北朝鮮の高性能弾道ミサイル保有は、我が国にとって極めて大きな脅威であり、迅速・的確な対応が喫緊の課題である。抑止力を強化する観点からは敵基地攻撃能力等の付与が必要と考える。

 昭和31年当時の統一見解における弾道ミサイルの基地等の攻撃が可能になるような措置、例えば航空機による航空攻撃、長射程ミサイル等の保有等について論議の継続を強く要望し提言している。政治が大いに議論してもらいたい課題でであろう。 

 

 ❺ 宇宙空間及びサイバー空間の利用及び対処

    安全保障における宇宙利用は、平時・有事を問わず、作戦の帰趨を決定付けるといってもいいほど重要な要素ではなかろうか。今後、積極的に整備を進めていく分野である。
    体制整備にあたっては、厳しい防衛予算の中で、防衛省が独自で衛星を保有し運用することは現実問題として大変困難な状況であり、政府全体として整備し、防衛省としては運用主体として維持管理、情報収集・分析できる体制、例えば、宇宙関係を全て扱う統合された「宇宙コマンド」の整備が必要ではなかろうか。

 

 ➏ 海洋状況把握(MDAMaritime Domain Awareness)体制の構築

    我が国は、①四面を海に囲まれており、②我が国の輸出入取扱貨物量の海上輸送依存度は99%を超え、③世界第6位の面積の領海及び排他的経済水域を持つ、という特徴がある。
    そのため、安全保障を考える上では、海洋の状況を把握することは極めて重要なことであり、具体的には、航行船舶の状況を把握し、敵性艦船や不審船を特定、違法行為を行っている船舶や遭難船舶の情報を把握するという、安全保障に係るMDA が極めて重要との踏み込んだ提言となっている。

 

❼    任務の多様化・国際化等に対応する人的防衛力の確保

    平成24年度予算に至る10年間、防衛関係費は連続して削減され防衛力の規模が縮減される中で、自衛隊は、任務の多様化・国際化に対応すべく一層の合理化・効率化を図って来ましたが、人員・装備に大きな負担がかかっているのも事実であるとの指摘は的を得たものと言えよう。

    特に、平成19年の省移行に伴う自衛隊法改正に伴い、周辺事態と国際社会の平和と安全のための活動が、本来任務に加えられたにもかかわらず人的措置がなされていないばかりか、平成19年(3月31日現在)と平成29年(3月31日現在)の自衛官の現員を比較すると、16,548名の減員となっています。(充足率:19年95.9%、29年90.8% 防衛白書19年版、29年版より。)昨年と比較しても約3,000名の減員となっている。
   また、平成27年に成立した平和安全法制の成立により自衛隊の果たす役割が拡大され、その責任も大きくなった。この自衛隊に与えられる任務と人員・装備の実態を提起しその解決策を政治と政策に求めたものである。

    特に、人的防衛力の強化は、次章の  5 任務遂行のための環境整備(自衛隊員の処遇改善)と一体のものである。

 

❽    有事等における元自衛隊員の有効活用

    任務が多様化し、自衛隊が活躍する機会は増加したが、他方、活躍する自衛隊員は逆に減少し、災害が多発する昨今では平時においても、任務遂行が限界に近い状態であると言える。その改善策として、人的防衛力の確保を提言しているが、これをさらに補強する体制を築くとともに、国民による後方支援隊力の骨幹となり得る元自衛隊員の有効活用を提言したものである。

 少子高齢化の我が国において、人的防衛力の確保は厳しいものがある。有事等における元自衛隊員の有効活用は、昭和の時代から提唱されてきた課題である。

 

❾ 国民に対する安全保障教育の充実

    我が国が戦後70年に亘り平和を享受してきたことにより、国民の中に、安全保障に関する知識経験を持つ人の割合は、他の先進諸国と比べて限定されていると考えらる。
    我が国が、その防衛政策や防衛戦略を構築していくにあたり、国民の理解・協力を得てゆくことが不可欠である。そのためには、国民一人一人が、安全保障・防衛について一般教養として必要最小限の知識を持っておくことはその前提であると認識するとの提言はまさしく同感である。

 世界各国において各界の指導者は安全保障、軍事についての知識経験に深いものがある。安全保障、軍事についての知識経験は必須であり、それなくして一国の指導者になることが出来ないといって過言ではないであろう。軍務の経験がなくてもそれを上回る知識と軍事専門家の活用・助言を受け入れる包容力の持ち主でもある。また、民主主義国家では安全保障・防衛について国民の理解・協力、支持なくして成り立たないものである。また、国民一人一人に安全保障に関する必要最小限の知識が求められているのではなかろうか。