元自衛官の時想( 40 )   空自救難ヘリ航空事故に関する航空事故調査結果と殉職隊員の葬送式(部隊葬)

 1   空自救難ヘリ航空事故に関する航空事故調査結果の発表  (航空自衛隊報道発表資料 ホ-ムベ-ジ出典)

 【お知らせ】
                                    30.2.14
                                 航空幕僚監部
      UH-60J航空事故に関する航空事故調査結果について
1 事故の概要
(1)発生日時:平成29年10月17日(火)18時02分頃
(2)発生場所:航空自衛隊浜松基地の南約31キロメートルの洋上
(3)事故機の機種等:UH-60J(58-4596号機)
(4)搭乗者: 機長 2佐 花房 明寛 42歳
                          副操縦士 2佐 杉本 英昭 46歳
                          機上整備員 1曹 吉田 貴信 40歳
                          救難員 2曹 井上 雅文 32歳
(5)経過概要
ア 浜松救難隊所属UH-60J(以下「事故機」という。)は、浜松基地の南洋上にてNVG※1を使用した夜間飛行訓練を実施するため、17時51分に同基地を離陸した。
イ 同日18時0 2分頃、管制機関のレーダ航跡モニタ画面から事故が 消失し 、航空救難活動を開始し た。
ウ 同年 11月2 日から 12月 10日にかけ 実施した水中捜索等の結果 、事故機 操 縦士等乗組員3名及び 事故機 機体(FDR ※2 /CVR ※3 を含む。)の一部発 を含む。)の一部発 を含む。)の一部発 見・収容 し、同年 12月13日、航空救難活動 を終了 した。
※1: Night Vision Goggle (乗組員装着型夜間暗視置)
※2: Flight Data Recorder (飛行諸元等記録装置)
※3: Cockpit Voice Recorder (交信音声等記録装置)
2 事故の調査
本事故の調査は、航空事故調査委員会(委員長:航空幕僚監部監理監察官)が実施した。
3 事故に至った経緯(推定)
(1)事故当日、事故機は、夜間の飛行訓練のため高度約1,000フィートで洋上を飛行中、進路上に雲を視認したことから、これを避けるべく雲の下へ向け降下を始めた。
(2)事故機機長は、NVGで雲を視認しつつ、高度500フィートへ降下しようとした。
(3)その際、当日は月明かりのない暗夜であり、雲下に降りる付近で光量不足のためNVGの視認性が低下するとともに、表示が若干遅れる特性のある一部の計器(昇降率計)を見て、実際より小さな降下率を確認したため、実際の自機の降下と自分の感覚との間にズレが生じる空間識失調に陥り、過大な降下率のまま降下を継続した。
(4)また、副操縦士は、事故機が降下する過程で飛行諸元を確認しておらず、機長に対する安全確保のための適切な助言がなされなかった。
(5)他乗組員2名については、機外の見張りを実施できていたかは不明であるが、副操縦士同様に機長に対する助言を実施していない。
(6)海面への衝突の直前、高度警報(約250フィート)が鳴っているものの、操縦者が偶然、発話中であったことなどから、警報に適切に反応しておらず、結果として事故機は降下開始から約45秒後に海面へ衝突するに至った。
4 事故の原因
本事故の主な原因は、以下のとおりである。
(1) 空間識失調の影響により、 機体の 高度及び降下率等飛行諸元の確認 が不十分 であったこと
(2) 飛行諸元を相互に確認するなど、 乗組員間 において 連携 が正しく なされていな かったこと
(3)電波高度警報の確認及び対応 が適切に なされなかったこと
5 再発防止策
(1)飛行 諸元 の確認等 、飛行に係る基本操作 を教育により 再徹底
(2)乗組員の連携要領等見直し 及び教育による再徹底
(3)電波高度警報への対応要領 を教育により再徹底
(4)NVGの運用要領等見直し及び教育による再徹底
(5) 昇降率計の表示遅延是正
上の原因を踏まえた措置実施 し、 事故の再発防止に取り組む。

 

 空自救難ヘリ航空事故に関する航空事故調査結果の報道

❶ 静岡新聞 (30.2.15  出典)

急降下に気付かず墜落 浜松ヘリ事故、空自が原因発表

 

 航空自衛隊浜松基地浜松市西区)所属のUH60J救難ヘリコプターが昨年10月に同市沖合に墜落し、乗員4人が死亡した事故で、空自は14日、機長らが機体の状態と自分の感覚にずれが生じる「空間識失調」に陥り、機体の急降下に気付かなかったことが原因と推定されると発表した。
 空自によると、事故機は夜間の洋上訓練に向かうため、高度約300メートルを飛行中、高度を下げて雲を避けようとした。しかし、月明かりもなかったため、夜間暗視装置の視認性が低下。さらに表示が実際の状態よりも数秒遅れる特性がある昇降率計を見て降下率を誤認し、空間識失調に陥ったとみられる。
  このため、通常の約2倍の降下率で急降下していることに気付かず、高度約75メートルまで低下。回収された装置に残された音声記録では、高度低下を知らせる警報音が鳴っていたにもかかわらず、乗員が反応せず、その約6秒後に墜落した。フライトレコーダー(飛行記録装置)などに墜落回避の操作が取られた形跡はなかったという。副操縦士も含め、計器類の確認不足もあったとみられる。

 空自の航空事故調査委員会は、トラブルがあったような会話記録が残っていないことなどから「機体に異常があったとは考えていない」との見解を示した。

❷ 中日新聞 (30.2.15  出典)

 浜松沖ヘリ事故 高度誤って認識し墜落

◆空自が調査結果

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 航空自衛隊浜松基地浜松市)の救難ヘリコプター「UH60J」が昨年十月、浜松市沖に墜落した事故で、浜松基地は十四日、機体の高度などを操縦士らが誤って認識する「空間識失調(くうかんしきしっちょう)」に陥ったことが原因だったとする調査結果を公表した。回収したフライトレコーダー(飛行記録装置)や操縦室内の音声データ、機体の損傷状況から推定した。

 基地などによると、事故機は昨年十月十七日午後五時五十分ごろ、夜間の救助訓練のため、浜松基地を離陸。進路上にあった雲を避けるため、高度約三百メートル地点から降下を開始した。

 乗員らは、暗闇の中でも周囲の状況を鮮明に映し出す「夜間暗視装置」をつけていたが、当時は月も出ておらず、見通しが悪かった。予定より早いペースで急降下しているのに気付かぬまま、降下開始から四十五秒後に墜落した。高度計などの確認も不十分だった。

 機体は、高度約七十五メートルと七・五メートルで警報音が二回鳴る仕組みとなっていたが、調査結果では、乗員らが飛行中の速度や高度を踏まえ、機長に適切な助言もしなかったとした。フライトレコーダーや操縦室内の音声データには、回避措置がとられた記録はなかった。

 基地は、高度計の確認や、声掛けなど基本動作の徹底を再発防止策に挙げた。

 墜落したヘリは離陸から十分後の午後六時すぎ、浜松基地南約三十一キロの海上で消息を絶った。隊員三人の死亡を確認し、捜索を終了。行方不明となっていた一人も、後に死亡が認定された。

3 殉職隊員の葬送式(部隊葬)

 浜松つばさ会ホ-ムぺ-ジ(出典)

 浜松基地部隊葬を実施

 昨年10月17日、浜松救難隊所属のUH-60J救難ヘリが遠州灘に墜落した事故で亡くなられた機長ら乗員4名の葬送式が、1月30日(火)13:00から浜松基地第2格納庫において、山本朋広防衛副大臣、丸茂吉成航空幕僚長の他、空自隊員及びご遺族、来賓等、約500名が参列し厳粛に執り行なわれた。

 式は国歌吹奏、御霊に対する敬礼から開始され、まず執行者の航空救難団司令 小川能道空将補が式辞を述べ、続いて山本防衛副大臣及び丸茂空幕長が弔辞を述べた。

 また部隊を代表し、浜松救難隊長 植野英二2佐が弔辞を述べ、有為な部下4名を失った無念さ、悲痛な気持ちを表すとともに、4名の冥福を祈りつつ、さらに任務に邁進することを誓った。

 弔電披露の後、ご遺族4家族約30名が献花した。続いて執行者の救難団司令、さらに防衛副大臣、空幕長、国会議員、県知事等来賓が献花し、飯塚浜松つばさ会会長は、外薗つばさ会会長代理としてつばさ会を代表し、献花した。

 御霊に対する敬礼の後、儀仗隊が弔銃の斉射(2回)を行った。

 葬儀委員長の救難団飛行群司令 藤本悦夫1佐が挨拶し、葬送式の支援にあたった浜松基地等に謝辞を述べ、葬送式を終了した。

 参列者が見送る中、ご遺族は各車両に分乗し、北地区から南地区正門へと向かい、所在隊員は道路に整列して見送った。 

(内田記)

 

❷ 浜松自衛隊家族会二ュ-ス(会報)(出典)

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 《 浜松自衛隊家族会二ュ-ス(会報NO15 平成30年2月13日)出典)  

4【空自救難ヘリ航空事故に関する航空事故調査結果と殉職隊員の葬送式(部隊葬)についての所感】

❶ 救難ヘリ航空事故に関する航空事故調査結果の発表

 2月14日航空幕僚監部から救難ヘリ航空事故に関する航空事故調査結果が発表された。本事故の調査は、航空事故調査委員会(委員長:航空幕僚監部監理監察官)が実施したもので、今後の再発防止に生かしてもらいたい。

 今回の事故原因の中に、操縦士の空間識失調の影響により、 機体の 高度及び降下率等飛行諸元の確認 が不十分 であったことが公表された。「空間識失調」については、飛行職域に従事する者や航空関係者の間では「バーティゴ(vertigo)」として普通に語られている言葉であるが、一般にはなじみのない言葉であろう。

 ネットで調べると、ウイズペキァによると、

 空間識失調は、平衡感覚を喪失した状態。バーティゴ(vertigo)ともいう。

主に航空機パイロットなどが飛行中、一時的に平衝感覚を失う状態のことをいう。健康体であるかどうかにかかわりなく発生する。

 機体の姿勢(傾き)や進行方向(昇降)の状態を把握できなくなる、つまり自身に対して地面が上なのか下なのか、機体が上昇しているのか下降しているのかわからなくなる、非常に危険な状態。しばしば航空事故の原因にもなる。

 濃いの中や夜間の飛行など、地平線水平線)が見えない状況で飛行する場合に陥りやすく、また視界が広くとも雲の形や風などの気象条件、地上物の状態などの視覚的な原因、機体の姿勢やG(重力加速度)の変化などの感覚的な原因によって陥ることがある。(ウイズペキァ出典)

❷ 殉職隊員の葬送式(部隊葬)

 浜松救難隊の殉職隊員  故花房明寛2佐‣故 杉本英昭2佐・故 吉田貴信1曹・故井上雅文2曹 の葬送式が、1月30日、ご遺族をお迎えして、浜松基地北地区の第2格納庫で 、入間基地に司令部のある航空救難団司令小川能道将補が執行者となり、厳粛に執り行われた。謹んでご冥福をお祈りします。

 航空救難団の精鋭のエ-スたちの殉職は、胸が痛む思いがする。35年の自衛官生活で葬送式に何回となく参列したことがある。とりわけ、第1期操縦学生基本課程で寝食をともにし一緒に机を並べて勉学・訓練に励んだ同期生の任務遂行中の殉職は、今日も忘れることはない。国家防衛の礎となり今日の平和につながっているからである。

 この度の殉職者は、46歳から32歳の働き盛りの有為の人材で、部隊戦力の中核であった。ご遺族の心中察するものがあり、殉職隊員ご遺族への手厚い援護を期待するものである。今日及び将来において、国家防衛の任につく隊員のためにも、憲法への自衛隊の明記を切実に感じるものである。