元自衛官の時想( 36 ) これからの人生は「現役人生」+豊かな「高齢期人生」を全うすること

1.親の時代は「現役人生」一つで「高齢期人生」は短かった 

  歴史物語のドラマでは、織田信長の人生50年の曲舞があまりにも有名である。

「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり。
             ひとたび生を得て滅せぬもののあるべきか」
(人間の一生は、所詮五十年に過ぎない。 天上世界の時間の流れてくれべたら、まるで夢や幻のようなものであり、命あるものはすべて滅びてしまうものなのだ。)

 この謡は、「幸若舞・曲舞」と言う、室町時代から流行しはじめた伝統芸能で演じられる作品「敦盛」の一節とのことである。

    物語に出てくるごとく、昔の日本人の寿命はこの辺にあったのであろうか。信長の「人間50年」は、 戦国時代の武将たちの寿命とみてよいのであろうか。一般の日本人の平均寿命はもっと短かったといわれているようだ。

 大東亜戦争下では、軍人の戦病死、空襲等による一般国民の被災死等により、かなり平均寿命への影響はあったであろう。  

 わが国は、 昭和20年(1945年)8月、 大東亜戦争に敗れ、連合軍の占領下にあった。やがて講和条約の締結で独立し、経済の復興とともに国民の生活内容が向上し寿命も延びだした。 

 ちなみに、昭和22年(1947年)に生まれた男性の平均 寿命(ゼロ歳児の平均余命)は、50.1年、女性は54.0年であったことからもうなづけるものがある。

 私の両親や祖父母の時代までは、現役引退、しばらくして人生の幕を閉じることが多かった。つまりは、現役引退・人生引退となることが多かったと言って過言ではなかった。現役引退後の「高齢期人生」が短かったのである。  

2.資料に見る平均寿命の推移、将来推計と所感

❶ 平均寿命の推移と将来推計  (厚生労働省ホ-ムぺ-ジ 出典 》f:id:y_hamada:20180117211226p:plain

《 平均寿命の推移と将来推計 》

 続いて、平均寿命の推移です。平均寿命は2010 年現在で男性が79.64 年、女性が86.39 年となっていますが、今後も平均寿命は延伸すると見込まれています。2060 年には男性が84.19 年、女性が90.93 年となり、女性の平均寿命が90 年を超えることが見込まれています。
また、65 歳時の平均余命ですが、1955 年には男性が11.82 年、女性が14.13 年でした。2010 年には男性が18.86 年、女性が23.89 年となっており、男性、女性とも高齢期が長くなっている状況にあります。 

【所感】

 厚生労働省の資料による「平均寿命の推移と将来推計」は、2060年には女性の平均寿命が90年を超えるとの推計である。このまま推移すると、超高齢者社会がさらに進展していくと見込まれる。国家・国民を挙げての少子高齢化社会への思い切った政策の推進が緊急かつ必要不可欠であることを再認識するものである。

❷ 平成27年簡易生命表による 主な年齢の平均余命と平均寿命の推移

              (厚生労働省ホ-ムぺ-ジ 出典 》

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【 所感】

 昭和22年(1947年)を境に、日本人の平均寿命が50年を超えて、逐年向上してきたことがよくわかる。平成27年の平均寿命は、男性80.79歳(平成2680.75歳)、女性87.05歳(平成2680.75歳)となった。さらに、平成28年の平均寿命について、男性が80.98歳(平成2680.79歳)、女性が87.14歳(同87.05歳)で過去最高となったことを発表した。平均寿命の長さを世界の国・地域と比較すると、厚生労働省のデータでは、日本は男女ともに2位。トップは男女ともに香港で、男性が81.32歳、女性が87.34歳だったとのことである。

 こうして資料を見ると、高齢期の期間が着実にのびており、「高齢期人生」がいかに重要であるかを理解することが出来る。

3.これからの時代は「 現役人生」と長い「高齢期人生」の二つの人生を歩む

    前項の厚生労働省の発表資料からも、今日においては、現役引退からの「高齢期」の生活が昔に比べたらとんでもない長さになった。昔は多くの人が、「現役人生」ひとつに、短い高齢期であったが、これからは、さらに長い「高齢期人生」が加わった。 

 これからの人生は、誰もが「 現役人生」と「高齢期人生」の二つの人生を歩むことになったのである。新たなる長い「高齢期の人生」をどのように過ごすかが、その人の人生そのものを左右するようになった。

   「現役人生」が、どんなに充実した素晴らしいものであっても、「高齢期人生」がつまらないものとなれば、不幸な人生となってしまう。「現役人生」に満足できなかった人でも、「高齢期人生」が充実したものであれば素晴らしい人生になってくる。まさに人生の「有終の美を飾る」ことになるのである。できれば、二つの人生を豊かに過ごしてこそ、素晴らしい人生を送ったことになるではなかろうか。   

 4.長い「高齢期人生」をどのように過ごすかが人生そのものを左右する

 こうしてみると、「高齢期人生」の位置づけは極めて重要である。自衛隊OBの場合はどうであろうか。武装集団の精強性の保持の特性から若年定年制が取り入れられている。第2の人生と称して、自衛隊退官後、一般の企業等で再就職して生活することになる。

 私も自衛隊勤務とは全く異なる職種を選んで再出発して、一般の人たちと同じころに第2の人生を卒業した。この間、新しい仕事に従事しながら、自衛隊OBの役割、地域社会の自治会活動等を行った。特別に意識して行ったわけではないが、結果的には、「高齢期人生」に移行していく諸準備を行っていたことになる。

 そこで、「 現役人生」から「高齢期人生」へ移行していくとき役立ったのは、第2の人生と称した再就職の十数年間、かなりの助走となる予備訓練をしたことであった。  

 「高齢期人生」に入ってからは、その基盤に立って、本格的に地域の自治会・シニアクラブ・花の会活動等の社会的な活動を行うようになった。

 「 現役人生」は、職種等が異なっても、仕事に励み、家族を養い、社会的な使命を果たしていく点では共通しているものがあった。

   これに対して、「高齢期人生」の過ごし方は、それぞれの人生観やおかれた立場、健康等から大きく異なってくるものだ。「高齢期人生」のあり様の選択肢は様々であっても、その選択はその人自身にあるからだ。

 豊かな「高齢期人生」をどのように過ごすかが、自分の人生をどのように有終の美を飾るかを左右することは間違いないであろう。最近では、人生100年が普通に語られるようになった。

 さて、80代になって、自分の「高齢期人生」も先が見えてきた。どんな人生の幕を閉じるであろうか。その時にならないとわからないのが人生である。分かっているのは、自分の「高齢期人生」は自分で切り開かなくてはならないということである。