❶ 航空自衛隊における語録
昭和29(1954)年に創設された航空自衛隊は、精鋭の部隊が空の守りを完遂している。この間幾多の先人たちが、厳しい任務遂行の中から指揮官、指揮統率、幕僚勤務、隊員指導などに関する名言、教訓、示唆に富んだ言葉が生まれ残されている。
航空自衛隊入隊の昭和30年から昭和の時代において、語録といえば、創設期の第2代航空総隊司令官島田航一空将(海兵太平55期・海大)の「幕僚準則」及び第10代航空総隊司令官鏑木健夫空将(陸士51期)の「鏑木監察」に関連する「特命総合観察における鏑木語録」が有名である。
その細部は、2015-08-09昭和の航空自衛隊の思い出(165)「島田航一元総隊司令官の幕僚準則」及び、2016-01-10昭和の航空自衛隊の思い出(225)「鏑木健夫空将と鏑木語録」において取り上げたので省略する。
これらは、指揮要綱、指揮幕僚、業務管理などの教範に記述された原理原則の内容をベースに、実任務遂行における経験から生まれた具体的な行動の規範を示したもので、それぞれが現実的な指標となるものであろう。
昭和の時代、創設期の航空自衛隊の各級部隊指揮官及び幕僚が、会議、講話や部下指導などで発せられた語録的なものは、収録できないほどあるものと思われる。
かって私の上司が熱誠を込めて話した、経験談・失敗談などの講話のメモなどは日記や資料の形で残してきた。また、私自身も教育等における講話の中で「人事業務の実践アドバス」や「上司の期待する先任空曹5章」などを残してきたことがある。
2016-03-01 昭和の航空自衛隊の思い出(249) 人事業務実践アドバイス(1)
2016-03-14 昭和の航空自衛隊の思い出(258) 上司の望む先任空曹5章(1)
これらの発信は、すべからく、部隊任務の遂行や部下隊員の資質能力の向上と発揮を期待したものであった。たぶん先輩や先人たちも同じ思いではなかったのではなかろうか。
❷ 宮下語録
空幕人事課人事課に勤務した当時、特に印象に残ったものでは、空幕人事教育部長に就任された宮下裕将補(防大3期)の「宮下語録」であった。宮下部長は、私が西警団司令部人事部長の時、同じ春日基地で第2高射群司令として俊腕を振るっておられた。
「宮下語録」は、宮下将補が、前任地の西空隷下の第2高射群司令として勤務されたとき、折々に発言されたものを群本部の幕僚がまとめたものである。特にタイブにしたものではなく、幕僚が書き留めたものと思われる。
宮下語録は300項にわたるもので、その都度のものを、時系列的に収録したものと思われる。航空自衛隊の指揮官と指揮統率、部隊と部隊運営、部下隊員と指導というものを簡潔な言葉で現わしているのでその一部を取り上げてみた。
幕僚がしたためたものなので、表現など至らない点があるかもしれないが、当時の時代背景を踏まえながら、文章の末節にとらわれず、本質はどこにあるのかという態度で読み取ると時代を越えて、貴重な示唆と教訓とすべき点が多いと思われる。
宮下空幕人事教育部長は、その後、西部航空方面隊司令官、統合幕僚会議事務局長、次いで航空総隊司令官を歴任退して退官、しばらくして、故郷の香川県善通寺市長として、平成6年(1994)年~22(2010)年・4期16年にわたって市民本位で職員削減や財政健全化を進め活躍された。27年逝去された。ご冥福をお祈りいたします。
各項目と順序は、私が勝手に整理したものである。
13.安全管理
〇 ミサイル安全は、部隊の命脈である。
〇 ミサイル安全点検の実態をよく把握せよ。
〇 安全の項目がいろいろな中に入っていることが大切である。
〇 安全は指揮官の機能の一つである。
〇 安全指導は厳しくやるべきである。
〇 安全は根気よく、しっこく指導することである。
〇 安全についていろいろやってきたが、結論はこれしかない。
・厳しく指導する。
・心を鬼にする。
〇 ミサイル安全の原点は、現場いにいる一人一人と機材にある。
〇 規則を定めているから安全だと思ってはならない。
14.規律違反、事故防止
〇 絶対に事故を起こしてはならぬ時期がある。
〇 ものが言える気風を作り事故を防止せよ。
〇 官用車事故は絶対に起こすな。
〇 事故とか違反がないという結果が大切である。
〇 速度違反に関する甘い考えには迎合しない。
〇 法令を遵守することは、安全運転の基本動作である。
〇 法令を遵守できないものは、自衛官として不適である。
〇 空自の隊務の足を引っ張るのは、速度違反と飲酒運転事故である。
〇 事故を起こしたものを悪者にし、他は善い人間になってしまう。自分はどうしているかと反省すべきである。
〇 車を持たせて指導する。その熱意が大切である。
〇 事故を隠したために、「更迭」されることが最も恥ずかしいことである。
15.事故対応と報告
〇 車を持たなければ事故は起きないという考え方は誤りである。
〇 部外とのかかわりのある事故は、速やかに報告し、上下一体となって処置することが大切である。
〇 事故は、是々非の判断をし、善いものは善い、悪いものは悪いとはっきりすべきである。
〇 事故やトラブルは、かくしだてをしないことが大切であり、合理的に処理すべきである。
〇 事故があった場合、内々に隠密裏にやろうと考えないことである。
〇 交通事故の場合、担当者は現場に飛べ。
〇 夜も遅いから翌朝、事実を把握しようという考え方は甘い。
16.要人警護
〇 要人警護は部隊長の責任である。
〇 部隊に要人警護の基本的発想が必要である。
〇 vipの部隊視察は、要人警護の良い訓練の場である。
17.機動
〇 機動は、独立分屯基地の機能をもって、機動先基地の足手まといにならないことである。
〇 1基地1分任、1基地1食堂では有事に困る。
〇 機動に関し従来の考え方を廃し、戦力発揮のための自由な発想が必要である。
18.不測事態
〇 不測事態では大切なことは
・情報が的確に指揮官に届くこと。 (指揮官同士の命令支持の伝達)
・対処するのは人間である。(作業員を出すような命令の出し方は駄目)
・まず編組すること。(誰の下に何名、指揮官を決めること)
・各人がベストの方法を考えること。(現場の指揮官が指揮しないと動かない、みん
なで考えて行動すること。人間が部隊行動活動に埋もれては駄目)
〇 不測事態では何が重要か判断することが大切である。
〇 不測の事態には、最悪の事態を考えて万全の準備をすることである。
〇 不測の事態は、事実関係を幕まで報告し、上級司令部、幕の指導を仰ぐことである。
19.有事
〇 有事をもって基本なす。
〇 刀を抜いて「ヤ-ヤ-」とやるのが実戦と考えてはいけない。
〇 有事に目標像を備えて踏まえ、現状から何を向上し、何を訓練しなければならないか考えておくことが大切である。
〇 不可能なことを可能にすることが大切である。
〇 我々は、戦いに出ることは少ないと思うが、有事に役立つ視点で物事を考え、有事に役立つ隊員を育てるということを後輩に継いで行くことがでなければならない。
〇 我々は、一人一人が戦う戦士でなければならない。
〇 我々は戦いのプロであるべきである。
〇 軍人は物や金のためには死ねない。
〇 自衛隊の平時の指揮、マネ-ジメントは簡単で、有事は難しい。
(結)