昭和の航空自衛隊の思い出(424) 指揮統率と宮下語録(1)

    航空自衛隊入隊の昭和30年から昭和の時代において、語録といえば、創設期の第2代航空総隊司令官島田航一空将(海兵55期・海大)の「幕僚準則」及び第10代航空総隊司令官鏑木健夫空将(陸士51期)の「鏑木監察」に関連する「特命総合観察における鏑木語録」が有名である。

 その細部は、2015-08-09昭和の航空自衛隊の思い出(165)「島田航一元総隊司令官の幕僚準則」及び、2016-01-10昭和の航空自衛隊の思い出(225)「鏑木健夫空将と鏑木語録」において取り上げたので省略する。

      航空自衛隊創設期における随筆的なものでは、航空自衛隊幹部学校記事に固武二郎将補(陸士48期・陸大60期)が執筆された連載ものを愛読したものであつた。くだけたやわらかい表現で、実に心に迫るものがあった。今でも強く印象に残っている。

    空幕人事課人事課に勤務した当時、特に印象に残ったものでは、空幕人事教育部長に就任された宮下裕将補(防大3期)の「宮下語録」であった。宮下部長は、私が西警団司令部人事部長の時、同じ春日基地で第2高射群司令として俊腕を振るっておられた。

    「宮下語録」は、宮下将補が、前任地の西空隷下の第2高射群司令として勤務されたとき、折々に発言されたものを群本部の幕僚がまとめたものである。特にタイブ整理したものではなく、幕僚が書き留めたものと思われる。表現の仕方はともかく内容においては、ほぼ私の考えと同じであるように思った。

    航空自衛隊には名将といわれる方々が多かったが、訓示といった形ではなく、上級指揮官が日常勤務間に発せられたものを記録されたものは多くあった。それらは幹部教育などの講話の要旨の形で配布されることが多かった。

 宮下語録は300項にわたるもので、その都度のものを、時系列的に収録したものと思われる。航空自衛隊の指揮官と指揮統率、部隊と部隊運営、部下隊員と指導というものを簡潔な言葉で現わしているのでその一部を取り上げてみた。

 宮下空幕人事教育部長は、その後、西部航空方面隊司令官、統合幕僚会議事務局長、次いで航空総隊司令官を歴任して退官、しばらくして、故郷に役立ちたいと香川県善通寺市長として、平成6年(1994)年~22(2010)年・4期16年にわたって市民本位で職員削減や財政健全化を進め活躍された。実に豪胆な人柄で郷土の市長ヘ転進されたことがよく理解できた。平成26年逝去された。ご冥福をお祈りいたします。

1.食事と寝る

〇 演習時に「メシ」をやかましく言うのは、自分が食べたいのではなく、兵に温かいものを食べさせてやりたいからである。

〇 自分の家庭はなぜ良いか。例えば、温かい弁当を奥さんが作るからである。群で射撃(冬期)を実施する場合等も、より暖かいものがなければならない。

〇 雫石事件の場合、陸自は1時間以内に幕舎を設置し、通信網を構成し、湯を沸かした。

〇 戦いの原動力は、食事と寝ることである。

〇 有事、幹部の判断力は、充分寝ることによって生まれる。

〇 演習行動に合わせて喫食させることが大切で、喫食時間に合わせて演習行動を計画するのは一考を要する。

2.先任空曹

〇 群の先任空曹は群司令の分身である。

〇 先任空曹は、特技を越えて全人格的にも空曹の鏡であるべきだ。

〇 先任空曹は、隊員の立場で福利、厚生、幸せを考え隊長に助言することが大切である。

3.   空曹

〇 現場は空曹が取り仕切るようにすべきである。

〇 曹長が幹部の言いなりになっているようでは隊員の希望はない。

〇 全人格的な指揮能力を空曹につける必要がある。

〇 隊務運営の中核は、曹長、1曹である。

〇 旧陸海軍では、隊員指導は下士官がイニシャチブを持っていたではないか。 

4.内務班長

〇 内務班長は隊規の根幹である。

〇 内務班員は、内務班長を見て育つ

〇 薫育内務班のモット― 「明るく 厳しく 燃える」

5.  現場

〇 指揮官は現場を見よ。任務を判断せよ。

〇 現場を知らないで指揮することは恐ろしい。

〇 現場主義に徹し、現場を一日一回は、見るものを見る目を養うこと。

〇 一日一回は現場を回り、現場の変化を確認し、それに基づくマネ-ジメントをせよ。現場の方向が将来を決める。

〇 管理は何によって全うできるか。それは現場で成り立っている。ホッツキ歩くことである。

〇 経営者は、現場をよく見て回らないと経営が成り立たない。

〇 経営の成否は現場にある。自衛隊もしかり。

〇 日本の会社は、現場がしっかりしているから成り立っている。

〇 現場主義でリアルに物事を考えよ。

〇 人心の把握が現場指揮の最大の務めである。

〇 現場に踏み込み、隊員の身になって指導せよ。

〇 現場のものが「何を考え」「何を悩み」「何に困っているか」知らないと改善点等が見えない。

〇 現場の者が案外現場を見ていない。.

 

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《 宮下語録の一部 》