元自衛官の時想(12) 拉致問題と救出

1. 北朝鮮による拉致

  小泉総理大臣の訪朝によって、拉致被害者の一部が母国に帰ってきたあの感動的な映像に日本全国が歓喜に包まれた時から何10年と時が経った。それ以来、未だに北朝鮮に拉致された同胞は一人として帰っていない。

 先日、産経新聞に「めぐみへの手紙」と題した横田満さん・早紀江さん夫妻の手記が掲載された。わたくしと同年代だけにその思いが痛いほどよくわかる。めぐみさんが拉致されたことを知ってから40年の歳月がたった。心情が切々と伝わってくる手紙である産経新聞の切り抜きをはつけてみた。

f:id:y_hamada:20170426114844j:plain

f:id:y_hamada:20170426115154j:plain

f:id:y_hamada:20170426115440j:plain

《 平成29年4月9日産経新聞の記事 》

2.拉致問題解決とマスコミ報道

 拉致問題を最初に報じたのは、産経新聞であった。当時、拉致問題に対してほとんどの新聞、テレビは冷ややかだった。「疑惑に過ぎない」「ためにする話だ」。そのなかで、産経新聞拉致問題を追及し続けた。昭和55年に3件のアベック失踪をスクープし、平成9年には横田めぐみさんの拉致を実名で報道したからである。

 最近のマスコミの報道を観いても、拉致問題や家族会の報道は、単なるニュ-スとして流しているといった感じである。国家・国民にとって、どうでもよい話題には面白おかしく時間を割いて報道しながら、拉致問題解決の鍵となる国民の総意と決意について、世論をリ-ドして拉致被害者の救出に繋げようとの強い意気込みが感じられないのは私の思い違いであろうか。

3.拉致問題への対応と国民の総意・覚悟

 北朝鮮による日本人拉致が判明してから、国家として対処はどうであったであろうか。私が見るところ、歴代の内閣で安倍政権ほど拉致問題に真剣に取り組んでいる政権はないと思っている。

 拉致問題について、今日まで外交・政治・経済・社会面等あらゆる方策をとってきたと思われるが、北朝鮮の独裁首領の状況を考察するとき、通り一遍の方策では解決の兆しはない。拉致は国家犯罪である。国家・国民が「国を守る」と同じように「国民の生命を守る」という国家・国民の固い決意と具体的な実行策なくして解決は難しい。国民一人一人が北朝鮮の国家犯罪に敢然として、立ち向かう覚悟があるのかどうか問われているのではなかろうか。

 拉致問題の外交・政治的な解決を進めつつも、最終的な救出の方策について国家としての機能・法制面をはじめとする国家のありようについての国民的なコンセンサスが形成されていないところに本質的な問題点が存在している。相手の問題より何より、「拉致被害者の救出」を果たすという日本国家・国民の固い意志・決意が弱いという点であろう。

   その障害となっているものは何か国民の多くは知っている。拉致は国家犯罪であり、最大の人権侵害であるにもかかわらず、一部の世論に引きずられて政治家もこれを避けているように感じられる。冷徹な国際条理において、毅然として国家・国民を強力にリ-ドする政治と政治家が今ほど求められる時代はない。

 反対のための反対や党利党略などではなく、国家の基本問題について、より充実した政策を競い合う政治体制が必要である。さらに突き詰めていけば、三層の一番根底をなす国家の基本問題の改革・是正がなければこの問題の解決にたどり着く事が困難ではなかろうか。

   それに挑戦するかどうかを決めるのは国民である。拉致の発覚以来、問題の本質に迫り、救出が出来る国づくりをどれだけ真剣に議論し努力したであろうか。まさに、拉致被害者の救出ができるがどうかは、国民の総意と覚悟そのものにかかっている。

    安倍総理大臣は、拉致被害者の救出は、政権の最重要課題であり、最緊急課題であると言明した。あらゆる対応の選択肢について、国民の絶対的な支持無くしてこの問題の解決は難しい。