昭和の航空自衛隊の思い出(371) 空幕人事第2班長として部隊で積極的に准曹士人事管理講話をした理由

 平成61年(1966)12月、空幕人事課人事第2班長に補職され、63年(1988)6月末まで務めた。空幕人事課人事第2班は、班長以下8名の陣容で、航空自衛隊全般の准空尉・空曹及び空士約3万7千名の人事に関わる施策、充員・異動・昇任・昇給等の業務を担当した。 

    班長在任間、会議・講習等で基地・部隊に出かけた際には、部隊の状況を確認するとともに、航空自衛隊の准空尉・空曹及び空士人事に関わる施策、充員・異動・昇任・経歴管理などについて積極的に講話することにした。

1.  人事担当者の人事制度・運用に関する一般的傾向

     私の長い部隊勤務で司令官・団司令、群司令・隊長などの講話を聴くことはあっても、課程教育や人事の新制度の部隊説明会的なものを除いて、人事制度・運用について空幕・各級司令部部長・班長の講話を聴いたことはなかったように記憶している。

    また、部隊等勤務において人事関係を担当するようになってから、上級司令部人事部長・人事 班長の部隊訪問を数多く受け入れたことはあるが、多数の隊員を対象に人事管理をテーマにした講話的なものをしてもらったことは記憶にないと言ってよかろう。

     自衛隊員は、自衛隊法により「秘密を守る義務」を有している。また、人事発令事項に関しても発令に至るまでは人事上の秘密として厳しい人事規律が必要であることは当然である。特に、隊員個人に関する事柄については厳格な秘密保持が求められていた。

 こうしたことから、空自創設以来、当時の風潮としては、人事に関することは、触れることを避け、人秘とする傾向があり、人事業務に従事する隊員は、「口が固いこと」が必須要件であった。人事関係者以外の目から見れば、人事は密室で行われているような印象を受ける面があったように記憶している。

 ただし、空自における准空尉・空曹及び空士に関する人事制度、異動・昇任・経歴管理などの人事管理の方向・運用方針は、航空幕僚長から部隊・機関の長に通達されており、必要な事項については、部隊指揮官から部下隊員に周知を図るよう教育指導が行われていた。

 個別の人事に関する秘密保持は必要であるが、全般の人事制度、異動・昇任・経歴管理などの人事管理の方向・運用方針は部隊指揮官はもとより広く隊員に周知していくべきであるが、関係者の会議・講習を除いては積極的にPRする傾向にはなかったように記憶している。

     人事担当者が自ら積極的に人事制度・人事管理についてPRすることはなく、もっぱら「黙して語らず」、黙々と人事業務処理に専念することに務めていたように見受けた。

2.人事管理の方向・運用方針を周知するのも人事担当者の職務の一つ

 こうしたことから、要撃管制幹部から人事幹部へ転進した時から、「開かれた人事の推進」「開示できることは積極的に資料提示」「積極的に人事管理の方向・運用方針の周知」をすべきとの考えと信念に基づき、どのレベルの部署に配置になっても班長職等に配置された時は、上司の了解を得て、積極的に上部から示された全般の人事制度、異動・昇任・経歴管理などの人事管理の方向・運用方針を、機会あるたびに集合教育等を通じて講話し周知することに努めてきた。これは人事担当者の職務の一つでもあると考えていたからであった。 

 その点では、形破りの部隊人事班長、司令部班長・部長、空幕班長のひとりであったかもしれない。

 特に、空幕人事第2班長に補職されてから実行したことは、会議・講習等で基地・部隊に出かけた際には、部隊の状況を確認するとともに、航空自衛隊の准空尉・空曹及び空士人事に関わる施策、充員・異動・昇任・経歴管理などについて積極的に講話することにした。

 なぜそうしたのであろうか。

3.空幕人事第2班長として積極的に准空尉・空曹及び空士の人事管理に関する講話をした理由

    人事第2班長は、空自の准尉・空曹及び空士の人事全般を所掌する立場から、全体の状況を最も熟知する立場にあり、人事制度の適切な運用にあたっていた。

    人事運用の立場から、航空幕僚長が示している人事制度及び運用、更には人事施策の内容等について講話することによって、今風でいう積極的な情報の開示にあった。

 隊員に人事施策を広く周知徹底し、人事管理の方向を理解することによって自己の目標の設定、生活設計に資するともに働き甲斐・勤務意欲の向上につなげたいという強い思いがあったからであった。

 人的戦力の中核をなす准空尉及び空曹の職務遂行能力発揮の基盤となるものは、部隊指揮官の指揮統率であり、適切な教育訓練・異動・昇任・特技管理等の経歴管理、表彰・特別昇給等の人事管理であった。

 航空自衛隊の創設時代に、空士の勤務、昇任試験、内務班長などを経験した得難い経歴を有することを誇りにしてきた。また、人事部門において、第一線隊及び各級司令部の人事幕僚を勤務し、航空自衛隊全般の准空尉・空曹及び空士の人事に関わる業務を担当する空幕人事第2班長というポストにあることから、准空尉及び空曹の皆さんが最も知りたいことを的確に講話することができること。

 担当業務である人事施策と実務運用については、参集の範囲に対応して、話せる範囲と内容を仕分けして話すことができること。人事第2班長在任が人事担当としての最後の勤めであると考えていたことから「今やらずしていつやるのか」の思いがあったこと。などを挙げることができる。

 幸い、北は根室、沖縄は宮古島、沖永良部分屯基地をはじめとして各基地を訪れ講話の機会を与えられた。男子の本懐と銘すべきであった。関係の皆様に感謝申し上げる。

 

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《 空幕人事課人事第2班長に補職され、准曹士充員計画業務講習の折、中国、台湾に隣接する最西端、最南端の航空自衛隊の基地であり、24時間昼夜問わず、我が国の南西域防衛の最前線である沖縄の離島・宮古島分屯基地を訪れ、准空尉及び空曹に講話をした。》