昭和の航空自衛隊の思い出(365) 発想録と人事施策の立案・業務の充実改善

  航空幕僚監部人事課において、 昭和60年(1985)8月~63年(1988)7月)の3か年勤務した。身辺整理をしていたら空幕勤務時代の「発想録」が出てきた。

 これは、空幕勤務の着任の日から人事第2班長に補職されるまでの1年4か月の間、「発想録」なる一冊のノ-トを作って、准空尉・空曹及び空士に関わる諸問題と解決へ向けた施策、適正な人事業務について、現状及び将来の問題点・疑問点・改善点・アイディアなど思いついたことを1週間に1回ぐらいの割合で書き留めていたものである。

 「発想録」ノ-トは、自衛官人生の総仕上げにおいて、航空幕僚監部という航空自衛隊の人事施策の中枢に勤務し、「われは何をなすべきか」を見定めるために懸命に努力していた足跡を見る思いがした。

2.自分ならこうする、こうしたい腹案

 当時、空幕人事課人事第2班に配置となり、総括業務を担当しながら、いつの日か班長に補職される日が訪れたならば、「こうする、こうしたい」という腹案を持つことに努めた。

 将来の補職については全く知る由もなかったが、自衛隊入隊以来、自分のおかれた環境、階級、職務の中で、どのポストについても「自分ならこうする、こうしたい腹案」を持ち努力してきた。

 昭和61年(1986)12月 班長に補職されるや、あらためて班長の立場で全般状況の確認を行い、在任間取り組むべき人事第2班の主要課題を明確にし、本格的に取り組むことにした。その根底になったものは、多くが「発想録」で自問自答しながら自分の考えを固め、肉付けしていったものであった。

 「発想録」の内容は、准空尉・空曹及び空士に関わることすべてを対象としていた。取り組むべき課題の整理整頓に役立ったように憶えている。

参照 2016-09-21   昭和の航空自衛隊の思い出(351) 昭和62年度における人事第2班主要課題

 自衛隊を退官してからも、自算会における所長、隊友会支部長、自治会長・花の会・シニアクラブなどにおいて、しかるべき課長・副会長などの助走期間に、組織の大小にかかわらず組織の長・トップになったら常に「自分ならこうする、こうしたいという腹案」を持つことにしてきた。 

3.「発想録」のメモの一端

 「発想録」には、着任して間もないころに記した最初のぺ-ジから班長就任までにメモが満載されていた。その一部を紹介する。(ここで取り上げた多くの項目内容はその後、かなり施策化されたり改善されていった。)

〇准空尉及び空曹の権威、実力を高めるにはどうしたらよいか。

 (幹部になるだけがすべてでない。それぞれの地位の確立が必須である。)

〇空曹団は結成できないか。  

 現状はどうなっているか。

 空曹団の育成はどうしたらよいか。

〇准尉及び曹長を幹部配置に付ける方法はないか、何が障害か。

 小隊長、小隊長代理につけられないのか。

 准尉及び曹長の地位の向上、能力発揮の場の設定

  実質配置に付けている事例の把握

 陸自・海自はどうなっているか。

〇空曹の異動内示制度は確立できないか。

 空曹になぜ幹部と同じような内示制度が設けられていないのか。

 空曹に内示制度が設けられたら困ることがあるのか。

 内示制度の利点・不利店・問題点

 陸自・海自はどうなっているか。

〇昇任業務日程、要領を見直す点はないか。

〇昇任選考基準は、現状のままでよいか。

 改正を要する点はないか。

〇もつと3曹昇任枠を増やせないか。

 グル-プ枠に柔軟性をもたせられないのか。

 勤務は真面目にやっているが、学科試験に合格しない古参士長をどのように処遇し  

 たらよいか(空自への貢献をどう見るべきか)

 昇任選考基準をどう見直し設定したらよいか。

〇空士昇任は一斉昇任のため昇任選考業務が安易になっていないだろうか。

〇准空尉・空曹の昇任率は陸海に比べて低くはないか。計画段階において人事2班の立 

 場から意見を言うべきでないか。

〇先任空曹及び服務指導係の業務を明確にし、地位の向上を図れないか。

 空幕段階でできることは何か、体系化できないか。

 先任空曹の標識は作れないか(内務班長記章も同じ)

 事務官との関係、格付をどうするか(格差の増大)。

 陸自・海自はどうなっているか。

〇空曹の勤務評定で改善すべき点はないか。

 (幹部については、過去数次にわたり見直されてきたが准空尉及び空曹はそのままで  

  あった。)

 内容及び記入要領はこのままでよいか。

 准空尉及び空曹の特性を十分に活かしたものか、勤評本来の目的を達成しうるか。

 人事管理に資する記入要領であるか否か。

〇准空尉・空曹及び空士の個人申告制度をどのように設定したらよいか。 

〇人事2班は現場部隊への幕僚訪問が少ないという意見がある。

(人事1班は幕僚訪問で部隊の意見を吸い上げて計画実行に反映している。) 

 従来のやり方に改善の余地はないか。

〇充員計画と異動交流

 部隊の准曹士人事で、人計室の影響力の方が強く、人事2班の影が薄いのは本末転倒

 ではないか。計画と実行の分離・二極化の弊害が生じており早急に是正を要する。

 対策処置案  省略

〇人事2班への方面隊レベルの人事幕僚の来訪が少ない。少ない理由は何か。隷下部隊 

 との結びつきを疎遠にしている要因はなにか。

〇人事担当者間で、不用意に使っている言葉はないか。平素から正しい用語を使うよう 

 にするにはどうしたらよいか。

 たまがない、生首、切る、入れる、捨てる  

〇3曹昇任試験問題は、内容・レベルはいままでどおりでよいか。

 3曹選抜にふさわしい問題か、難しくはないか。

 部隊の実務に直結した問題内容か、どこをどのように改善したらよいか。

 試験問題の漏洩はないか、陸自の試験問題漏洩の教訓は生かされているか。

 空幕の処置事項に抜けはないか。不具合発生の事前予測と対策処置は万全か。

〇WAFの3曹昇任はどうしたらよいか。

 WAFの職域拡大はどうしたらよいか。

〇各種選抜基準に改善見直しすべきものはないか。

 受験人員(部隊推薦)の減少化傾向と原因はどこにあるのか。

  栄養士・✕線技師など

 部隊のPR不足、担当者の努力不足、宣伝下手か

〇「服務指導の参考」を改訂したらどうか。

 どんな方向で検討したらよいか。

〇特別昇給の選考基準で見直す点はないか。

〇身分証明書の制度改革について考える必要はないのか。

〇「准空尉・空曹及び空士の経歴管理基準」の見直しと隊員への周知徹底をどのように 

 進めたらよいか。

〇赴任旅費の増額・異動件数の拡大 

 

 《 昭和60年(1985)8月~61年(1986)12月の空幕勤務当時の「発想録」 》

4.空幕人事第2班長職と准曹士人事施策

  空幕人事第2班長の職務は、私にとってもったいないほどの職務であった。長年胸にしまっていた「こうする、こうしたい腹案」をあらゆる機会に諸施策に反映できるか機会を与えてくれたからである。

 人事第2班長職は、当時、航空自衛隊の3万7千名の准空尉・空曹及び空士に関わる人事管理を担当し、昭和62年6月施行された「准空尉・空曹及び空士経歴管理基準」の見直しにあたっては、人事第2班長の立場から参画する機会を与えられた。