1. 空幕新着任者に対する幹部教育
昭和60年8月1日付の人事異動で新たに航空幕僚監部に勤務した2佐以下の幹部に対する新着任幹部教育が行われた。
人事教育部勤務者に対しては、着任の翌日6日に人事教育部副部長石塚勲将補(空将・航空幕僚長)の講話、空幕全体では8月27日に一日がかりで、航空幕僚副長大村平空将(航空幕僚長)の講話のほか統幕業務、防衛力整備計画等、予算業務、秘密保全及び広報・当直勤務などについての説明が行われた。
この中で人事教育部副部長石塚勲将補と航空幕僚長航空幕僚副長大村平空将の講話は「空幕勤務における心構えと幕僚業務の進め方」を説かれたものであり、日記に要点を記していた。
この講話は、初めての中央勤務であり、着任早々と20日ばかりの勤務から感じとったものと合わせて、その後の空幕勤務に大いに役立った。
着任時においては、石塚将補とは全く面識がなかったが、理路整然とした話に感服した。大村空将は、私が西警団人事部長のとき、西部航空方面隊司令官であられ、隊員の強盗傷害事案発生に際して指揮所活動において特別の指導をいただいたりしたことがあった。
着任以来、毎日の業務を通じて中央勤務の何たるかを身をもって知ることになり、腹を据えて勤務することになった。
2. 人事教育部副部長石塚勲将補の講話「空幕人事教育部の幕僚として」の要点
(遙か31年前の昭和60年8月6日の日記に話の要点をメモしていた。勤務日数を重ねるにつれて体験し、実に核心をついた教育指導であったと敬服したものである。)
❶ 空幕勤務の特殊性
(!) 環境、勤務の態様・・・健康・家庭(個人の責任)
(2) 施策の立案、実行・・・空自の将来を決定
❷ 幕僚業務実施上の着意
(1) 担当正面に関して、庁内最高のオ―ソリティであること。
〇 特に、部隊の状況把握、共通の問題意識
(2) 空自将来のために
〇 知恵を出し尽せ
〇 議論をせよ
〇 現実のフレ-ムに安易に妥協するな
(3) 業務を円滑に推進するために
〇 仕組みの熟知を・・・空幕、陸・海・統幕、内局、施設庁、部隊など
〇 抱え込むな
〇 ネゴしまくれ・・・理解させる努力を惜しむな
〇 現実との調整点を見いだせ
3. 全般(Airman ship)
(1) 積極進取の態度
(2) 柔軟多様な思考と行動
(3) 迅速機敏な判断力と行動
3. 航空幕僚副長大村平空将の講話「空幕勤務にあたって」の要点
(同じく、31年前の昭和60年8月27日の日記のメモである。着任後しばらくしてからの話であったので、迫力と説得力があったことを覚えている。)
空幕は施策決定の機関である。360度の見識を要求される。
❶. 他人の意見をよく聴け
〇 自己の知識経験にとらわれるな。
〇 解らないのに解ったような顔をするな。
〇 謙虚に他人の意見に耳を傾けよ。
〇 申し送りをよく知れ
❷. 指揮官のぺ-スで仕事をせよ。
〇 空幕長を補佐する幕僚である。
〇 自己のぺ-スで考えるな。
〇 たった一回で評価が決まることもある。
❸. ミクロもマクロも出来るよう頭を柔軟に切り替えよ。
両方ができないと駄目だ。
❹. 精神的にタフになれ
〇 自己のぺ-スで進まない。
〇 勤務時間が長い。
〇 人生すべてゲ-ムだ、参加した限り 勝負せよ。
* 家族によく了解してもらえ
* 身体を壊すな
4.空幕勤務
航空幕僚副長大村平空将の講話は、「空幕は施策決定の機関である。360度の見識を要求される。」で始まり、幕僚の一人として人事施策に参画することに身を正したものであった。選ばれた優秀者が空自将来のために最良の施策・企画立案の知恵比べをし、これを具現するための予算化など真剣勝負が待っていた。
その後、3年の空幕勤務を無事に終了した時、部隊勤務と全く異なる勤務環境を克服してよくぞ職務を全うしたという充実感と達成感は特別のものがあった。
空幕勤務1年余後、人事第2班長(1佐職)に補職された。空幕へ配置する准尉及び空曹の人事管理について、最も意を用いたことは、部隊からの推薦による優秀者の人選あたっては、修羅場の空幕勤務に耐えうる人材の選定であった。
幹部同様に、准尉・空曹も部隊勤務と全く異なり複数でカバ-する余裕はなく、階級に関わらず特定事項の主担当者であり、全航空自衛隊を背負って立っていた。その重圧感と仕事量は想像を絶するものがあり、強靭にして何物にも押しつぶされない精神的なタフを必要としていた。