元自衛官の時想 (7) 地域社会における1人一役 の勧め

1.  自衛隊OBへの勧め

 自衛隊OBになって、後輩のOBや現役に勧めていることがある。それは定年退官して、生活環境等が安定したら「地域の活動に参加すると良いよ」とさりげなく助言していることである。

 自衛隊生活は、大抵の場合30余年の勤務となるが、自衛隊の区分・職種・勤務地・職務及び階級に関わりなく勤務の間に、奉仕感・責任感・積極性・挑戦力・企画力・調整力・起案力・行動力及び実行力・指揮力が養われているということである。

 地域社会において、いずれ回ってくるのが、自治会・町内会の組長・班長である。これらは会員の世帯で順番に回ってくることが多い。多くのOBが役員全員でやる協同作業や担当業務の処処理などから頭角を現し、部長などの役員を経て、地域住民の推挙で自治会長などのリーダー的役割を果たすことになる。

 かって、退官後数年にして、隊友会浜松支部長をした時も「1人一役」を提唱し推進した。現在も引き継がれており、地域社会において自治会長などの役員として多くの隊友・OBが活躍し大きな成果を挙げている。

2.自衛隊OBが地域社会の役割に向いている理由 

 なぜ地域活動、とりわけ自治会・町内会の自治組織のリ―ダ―的役割りに向いているのかと考察してみると、つぎの点に集約できるのではなかろうかと考える。

❶ 奉仕感と責任感が強い

 自衛隊勤務そのものが、国の防衛という使命から国家国民への奉仕であり、違和感なくすんなりと地域の役割分担に入って行ける素地があることではなかろうか。現代は社会奉仕・ボランティア活動の指向は強いのに、責任を伴う役割となると意外に敬遠する傾向にある。

 与えられた任務・職責をやり遂げる責任感となると、どんな困難があってもくじけることなく任務を遂行する使命感は在隊間に培われており、途中で投げ出さないで最後までやり遂げる面が強いように思われる。

❷ 積極性と挑戦力があると

 地域社会では、古くからの慣習、しきたりの上に新旧の住民の意識のずれ、時代に対応した施策の実行といった面では、こうしてもらいたい、こうありたいと思っても先頭に立って旗を振ることをためらう傾向があるのではなかろうか。

 こうした面では、常に時代を先取りして創造性をもって新しいことに挑戦することを常に求められてきた自衛隊勤務は自然に創造・改善に躊躇せず取り組む習性が培われている。

   多くの場合、新住民の立場から因習に囚われず、抵抗を恐れず、地域の諸問題の解決に取り組む積極性と挑戦力があるのではなかろうか。

❸ 企画力・調整力・起案力がある

 地域社会に住んでいると様々な問題があり、解決を迫られていることがあるが、発議をすることにためらっていることが多い。

   言い出した者にお鉢が回って来ることを恐れて無関心を装つたり、知らぬ振りをすることになる。ましてや、これらを意見集約・調整・企画する能力がなければ、分かっていても言わないで敬遠し従前通りとする傾向がある。その上、その解決策の計画を作れとなると深刻に悩みかつ何日もかかることになる。

 その点、階級・職務などに関わりなく意見を集約し分析検討し、策案を作り、関係先と調整し、文書化して諸問題の解決策を作成する能力を持ち合わせている。

    在隊間、状況と時間に合わせて計画や命令を作ることは日常茶飯事であり、こうした大役が回ってきても躊躇することなく処理する機会を体験したからではなかろうか。 

❹ 行動力・実行力及び指揮力がある 

 計画や施策の実行に当たっては、自治会等総会で議決をして実行することである。手順を経た決定事項は地域住民の総意であり、整斉円滑な実行を容易にし、成果を倍加する。行動力・実行力及び指揮力を発揮することができる。

 OBは日常の隊務遂行の間に、行動力・実行力及び指揮力を身につけている。特に国民の目の届かない、見えない場所で24時間任務を黙々と確実に遂行してきたことが、陰ひなた無く奉仕する地域社会の活動において生きてくるものだ。

 OBにとって、先頭に立って率先垂範して地域社会の活動を行うことは得意中の得意の分野ではなかろうか。集団作業等の指揮力は当然であろう。