1. 思う存分の部長勤務と晴がましい第3級賞詞
昭和58年3月16日付で西部航空警戒管制団司令部人事部長に補職され2年が過ぎた頃、西警団司令正信恭行将補が60年3月16日付で北部航空方面隊司令部幕僚長へ補職・離任されることになった。
正信恭行団司令には、人事部長として約1年6月お仕えしてきた。これは人事部長職在任期間約2年6月の大部分を占めるものており、わが自衛官人生において一番脂が乗り切った時期であった。
今振り返ると、指揮官から全幅の信頼を受けて思う存分やるべきことをやらせていただいた時代であったと自負し感謝している。受賞したことよりも団司令に破格の高い評価を受けたことが嬉しかったことを記憶している。
正信恭行団司令は、離任を控えて60年3月6日、小官に対して、第3級賞詞を授与されたが、当時、主要幹部が個人表彰を受けるという気風はほとんどなく、司令部部長職にあるものが表彰を受けることはあまり例のなかったように記憶している。(その後、防衛記念記章がらみで主要幹部に対する表彰も一般化されていったように記憶している。》
2. 人事部門の表彰業務の所掌
表彰と懲戒は指揮官の持つ権限であり、人事部の所掌の一つである。要撃管制官から転じて人事幹部となり、各級部隊において人事担当者として隊員の表彰に関して、指揮官を補佐し表彰業務に従事してきた。
人事担当として、各級部隊長の上申のほか、表彰に該当する事項がないかどうか常に隷下部隊の隅々まで目配りをして功績について資料収集に努め、積極的に指揮官を補佐してきた。表彰案文の作成に当たっては、英知を絞り推敲に推敲を重ねて練り上げて進達したものであった。
したがって、人事担当者になって以来、表彰は自分がもらうことなど考えたこともなかった。当然この表彰案件は、当事者である自分を外して、直接早田副司令と正信団司令が進められたものであった。
前任地の第3術科学校第4科長時の第4級賞詞に次いでの受賞であった。人事部長として当然進めるべきことを進言して、団としての人事施策を積極的に推進したものであった。
3. 長年温めてきた策案の具現化
この受賞は自分にとって何より心に残るものがあった。幹部に任官して以来常に心して調査研究し長年にわたり積み上げてきた策案が、それなりの階級に昇進して人事部長という配置に補職されることにより、団司令の意図に基づいて主要幕僚勤務を通じて実現することができたものであった。
団司令の人事施策の推進の要は、実にその中心となる幕僚組織の活動にあり、人事部長以下の幕僚の働きにかかっていた。指揮官が号令を発しても、どんな立派な策案も指揮官との一体感とそれに従事する全員の情熱・実行力・団結力がなければ達成し得ないものであった。
司令部の各部の有機的な活動や人事部の各班長を中心とした組織的な活動があって成し遂げられたものであった。組織的な能力発揮が原動力であり、個人表彰を受けることに気恥ずかしさがあった。司令部活動は延々と続くものであり、まだまだ道半ばであったがそれなりに評価されたものであった。
その後、私の空幕勤務で人事部を離れる折も田中団司令から人事部に対して第3級賞状が授与されることになった。
《 早田副司令等立ち合いで、正信恭行団司令から賞詞を授与された。》
《受賞した表彰状、第3級は、職務遂行上特に著しい功績に対して表彰するものであった。》
4. 自衛隊における表彰
❶ 表彰の意義
自衛隊における表彰とは、任務遂行上功績のあった隊員又は部隊等を称賛する行為である。これは、隊員又は部隊等に名誉を与えるとともに、他からの尊敬を受け、将来に励みを持たせることになり、士気を高揚し、犠牲的精神を育成助長し、部隊の任務遂行に寄与するものである。
❷ 表彰権者、表彰等の種類及び区分等
表彰権者は、内閣内閣総理大臣、大臣またはその委任を受けた者であり、表彰には、賞詞、賞状及び精勤章があった。なお、表彰に準ずるものとして善行ほう賞及び感謝状があった。
① 賞詞
賞詞は、任務遂行上功績があつた場合、技術上優秀な発明考案をした場合及び車両無事故操縦を1万キロ以上記録した場合、隊員個人に対して授与される。これにはそれぞれの功績の程度により特別賞司及び第1~第5賞詞の区分があった。
② 賞状
賞状は、任務遂行上功績があつた場合及び車両無事故操縦を15万キロ以上記録した場合及び第1~第5賞状の区分があった。
③ 精勤章
精勤章は、職務に精励した空曹及び空士に授与される。空曹に対しては1年間、空士に対しては6ヶ月間、勤務に精励した者のうちから選考により授与されるもので、通常は4月と10月の初日に各表彰権者から授与されていた。
④ 善行ほう賞
善行ほう賞は、職務に関係なく、個人として道徳上の模範的な行為のあった隊員に授与されるものであった。
⑤ 感謝状
感謝状は、自衛隊に対し、又は自衛隊を援助してその功績の著しい隊員以外の個人又は団体対して授与されていた。
5. 現在における表彰に関する規定
表彰に関する基本法令に変わりはないと思われるが、昭和の当時の規定から時代のの推移とともに逐次改正されて現行の規定が施行されている。参考までに記載した。(自衛隊法施行規則等の一部から出典)
❶ 自衛隊法施行令第1章の一部(昭和29年6月30日政令第179号)
❷ 自衛隊法施行規則第1章の一部 (昭和29年6月30日総理府令第40号)
❸ 表彰等に関する訓令第2章の一部
第2章 賞詞
(第1級賞詞)
第3条第1級賞詞は、次のいずれかに該当する隊員に対して授与する。
(1)自衛隊法(昭和29年法律第165号。以下「法」という。)第76条第1項、第78条第1項、第81条第2項又は第81条の2第1項の規定による出動に参加し、隊員の模範と認められる顕著な功績があつた者
(2)法第77条の4、第82条、第82条の2、第83条第2項、第83条の2、第83
条の3又は第84条の規定による行動に際して、危難を顧みず率先てい身して、隊員の
模範と認められる顕著な功績があつた者
(3)技術上推賞に値する発明考案をした者
(4)前各号に掲げるもののほか、職務の遂行に当たり推賞に値する顕著な功績があつた者
(5)国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(平成4年法律第79号)第27
条第1項の規定により派遣された自衛官(以下「国際連合派遣自衛官」という。)であ
つて、国際連合の業務の遂行に当たり、推賞に値する顕著な功績があつたもの
(6)国際機関等に派遣される防衛省の職員の処遇等に関する法律(平成7年法律第122号)第2条第1項の規定により派遣された者(以下「派遣隊員」という。)であつて、派遣先の機関の業務の遂行に当たり、推賞に値する顕著な功績があつたもの
(第2級賞詞)
第4条第2級賞詞は、次のいずれかに該当する隊員に対して授与する。
(1)法第76条第1項、第78条第1項、第81条第2項又は第81条の2第1項の規定による出動に参加し、隊員の模範と認められる功績があつた者
(2)法第77条の4、第82条、第82条の2、第83条第2項、第83条の2、第83条の3又は第84条の規定による行動に際して、危難を顧みず率先てい身して、隊員の模範と認められる功績があつた者
(3)技術上特に優秀な発明考案をした者
(4)前各号に掲げるもののほか、職務の遂行に当たり推賞に値する功績があつた者
(5)国際連合派遣自衛官であつて、国際連合の業務の遂行に当たり、推賞に値する功績があつたもの
(6)派遣隊員であつて、派遣先の機関の業務の遂行に当たり、推賞に値する功績があつたもの
(第3級賞詞)
第5条第3級賞詞は、次のいずれかに該当する隊員に対して授与する。
(1)職務の遂行に当たり、特に著しい功績があつた者
(2)技術上優秀な発明考案をした者
(3)国際連合派遣自衛官であつて、国際連合の業務の遂行に当たり、特に著しい功績があつたもの
(4)派遣隊員であつて、派遣先の機関の業務の遂行に当たり、特に著しい功績があつた者
(第4級賞詞)
第6条第4級賞詞は、次のいずれかに該当する隊員に対して授与する。
(1)職務の遂行に当たり、著しい功績があつた者
(2)技術上優れた発明考案をした者
(3)国際連合派遣自衛官であつて、国際連合の業務の遂行に当たり、著しい功績があつたもの
(4)派遣隊員であつて、派遣先の機関の業務の遂行に当たり、著しい功績があつたもの
(第5級賞詞)
第7条第5級賞詞は、次のいずれかに該当する隊員に対して授与する。
(1)職務の遂行に当たり、功績があつた者
(2)技術上発明考案をした者
(3)国際連合派遣自衛官であつて、国際連合の業務の遂行に当たり、功績があつたもの
(4)派遣隊員であつて、派遣先の機関の業務の遂行に当たり、功績があつたもの