昭和の航空自衛隊の思い 出(299 ) サラ金苦による強盗傷害事案の発生と対処

1.    サラ金苦による隊員の重大な事件発生

 ❶  隊員の強盗傷害事件

  34年余の自衛隊勤務で衝撃的な事件が発生した。昭和58年3月西警団司令部人事部長として着任以来、意欲的に人事管理、服務規律の向上など諸課題に取り組んでいたときであった。西空及全国の武道大会でも優勝を遂げるなど成果を挙げていた。

 昭和59年7月のある日、勤務を終えて官舎でくつろいで食事をしているときに当直幹部から隊員の服務事案が発生したとの連絡を受けた。直ちに登庁し、状況の把握に努めるとともに団指揮所を開設した。基地所在の部隊に非常呼集が発令された。服務事故は人事の担当であり、それから3日間は基地に宿泊し事案の処理に当たった。

 事件は、非番の営外居住の空曹が銀行から出てきた市民のカバンを奪おうとして振り払った折にけがを負わせて逃走するも逮捕された事案で、西警団を揺るがす一大不祥事は新聞テレビで連日報道された。原因は当時社会的にも問題となっていたサラ金苦によるものであった。家庭内における借財・経済的状況まで踏み込めない難しさがあった。

    着任以来、社会的に蔓延し大きな問題となっていたサラ金問題と覚せい剤問題に関する服務事故防止には全力を挙げて取り組んでいただけに、この問題の深刻さと対応の難しさがあった。

❷   当該事案への迅速な対応と対策処置

 自衛隊勤務において、新聞・テレビの報道記者とは全く縁がなかったのに、初めて、副司令の記者会見、団司令の記者会見の立会及び直接の記者との取材に応じたりした。

   事件報道で団司令の記者会見は全国に放映され、わきに立つ私も映像の入り、全国の知人がこれを観てどうしたんだと心配してわが家に電話が入った。

 この事件は、団司令・副司令にとっても、担当幕僚の私にとっても痛恨の極みであったが、発生後の正信団司令の指揮、報告、適時適切な部内外への対応措置、士気高揚の手だては見事なものであり、早田副司令の補佐等と合わせて、全隊員に安心感を与え、今まで以上に団結を強固なものにした。

    隊員の重大服務事案を深刻に反省し、かかる事件を絶対起こしはならないと決意を新たにした。

   今から32年前の事であるが鮮明に覚えている。事案の内容から詳細は省略する。

2.   重大な服務事案に関しての教訓

   重大な服務事案に関しての教訓は、次の点であった。

❶  社会的事象は6ヶ月後には必ず、自衛隊・隊員の服務面にも発現するから、事前に調査研究しで対処すること。

    長年の服務担当幕僚の経験から、メディアで社会的に大きく取り上げられるような事象は、6ケ月後には、必ず、隊員の服務事案に現れてくるという事である。

     自衛官も國民の一人であり、社会人であるからだ。自衛隊の厳正な服務規律に密かに忍び寄るのが社会事象である。厳しい防波堤を築いているからと夢夢安心してはならない。

   社会一般で話題となる事柄は、自衛官の家庭で起こり、時として自衛隊内に波及し、服務事案となる事がある。独身隊員も同じである。ジュワジュワと家族や隊員に忍び寄り、必ず潜入・潜伏し、時が来て、表面化するものだ。件数的に少ないという事だけである。警察も、消防も同じである。

     従って、世間の社会事象に最新の注意を払って、どんな事象でも、自衛隊・隊員・家族にどんな影響を及ぼすのか、事案の調査研究、資料資料・分析検討・対策処置を先行的に行う必要がある。先手必勝の施策が必須である。

❷   事案発生に際して、指揮官の一元指揮の下、部隊の全力を挙げて対処すること。

    事案が発生したら、包み隠す事なく真実を明らかにし、事案の処理に当たる事である。航空事故の発生時の対処と同じで、被害局限を図る一方、事案処理をしっかりとやる事であろう。

     この種の事案対処は、団司令等指揮官の的確な指揮・報告・対処能力が明白となるものである。また、部隊の対処能力が評価されるものだ。

     突如として、発生した事案であるだけに、そこには、事前の計画書はない。いかなる事態が発生しも、いささかも動じる事なく状況に対応できる能力を常日頃から鍛錬し、全力を発揮できるかである。航空作戦と同じである。災いを転じて福となす心がけが必要である。世間の不祥事の対応も同じであろう。

     事案の処理にあたり.、団指揮所は 西空司令部指揮所をそのまま使い、司令官、幕僚長以下主要幕僚の見守る中で、事案対処活動を行った。

    変則的ではあったが、状況が両者とも一目瞭然となり、円滑な指揮活動ができた。航空幕僚長も空幕にあって、司令官から適宜報告がなされた。

     団司令は、素早く被害者を訪問し、陳謝するととに関係先への対応を行った。主務幕僚として、団司令の命令指示の伝達、状況の把握・報告、対処状況の報告など、また、逮捕された隊員に関しては警務隊を通じて状況を確認したものだった。

 所在部隊の部隊運用に関して防衛部長、事後の広報は監理部長が担当し、おおむね適

な指揮所活動ができたように感じた。