昭和の航空自衛隊の思い出(234)  資料作成と部下隊員の能力発揮

 飛行教育集団司令部勤務を終えて、送別会における川川柳調の一つに「浜風去りデンジコ管理者一安堵」とあった。各種の資料等を作るために、従来以上にコピ―用紙とインクを使ったことが班員の脳裏と身体にしみついて強烈に印象に残ったということであろうか。
 相撲の世界で、土俵には宝の山が埋まっているとよく言われ、力士の精進次第では宝の山を自分のものにすることが出来る。要するに自分の実力を発揮する場は土俵の上であることを指している。
 司令部幕僚にとって、その実力を発揮するところは指揮官を補佐する司令部活動にあった。幕僚作業の一つである資料作成は部下隊員の能力発揮の場でもあった。それは昔も今も変わりないであろう。
 
 1.  各級司令部は情報・データの宝庫
. 各級司令部及び航空幕僚監部勤務を経験して見て、 当然のことであるが、司令部の格が上がるほど集約する情報・デ-タの質と量は格段の差がある。
     これは、行政組織・上級官庁、会社の本社等中枢部等においても同じことが言えるであろう。それに付随して、情報・データの保全管理は重要な課題である。
    司令部班長職について、一番力を入れたことは所掌業務の人事に関するに情報・デ-タを基にして分析検討し、司令部活動の基礎となる各種資料等を作成することであった。
    第一線部隊の現場にいて本部の班長をしていた時、指揮官を補佐する上で必要な資料等が欲しかったが、末端に配付されていなかったり、その資料がどのレベルの部署において作成され存在するのか知らないことが多かった。
    仮にあったにしてもその資料を有効かつ適切に活用するとことについての理解が不足していたようだった。
    自分の幕僚としての活動経験に鑑み、状況に対応した指揮官の状況判断・決心に資する適時適切な資料等が準備・提示できるかによって指揮官の幕僚補佐の適否が決まってくる。指揮官の当該幕僚に対する信頼と評価につながってくる。
 人事幕僚として、各級司令部に勤務して感じたことは、司令部活動及び担当職務の遂行の基になる情報・データは司令部に宝の山ほどあるということであり、それを使いこなせるかどうかにかかっていることを知った。
 
2. 各級指揮官の指揮統率及び部隊運営に資する資料
    各級司令部は幕僚長等をはじめとする幕僚組織を有し指揮官を適切に補佐する体制にある。特に人事幕僚の場合は、人事面から専門幕僚として直接的に補佐する立場にある。人事幕僚として長中期的な視野で人的戦力を形成するためには基礎デ-タに基づく各種の策案が求められた。
  一般的・事務的な資料ではなく、各級指揮官にとって真に指揮統率及び指揮管理に資する有効な資料が強くの求められた。 どんな時にどんな資料が求められているのか、今何か必要なのか将来的な推移を見通した役立つ資料が必要であった。
 このため資料等の作成にあたっては、班の総力を結集して精魂を込めて作り上げ、各級指揮官指揮官の指揮統率及び部隊運営に資することに努めた。
 
3.  班長がどれだけ料理しきれるか腕の見せ所  
   各級司令部にどれだけ情報・データがあってもそれを必要にして十分な資料等として整理・分析・評価して使える資料に作り上げる能力が幕僚には求められ、その要になるのが班長であった。
 資料等を作成し、説明・提供・提示するからには、班長指揮のもと、各班員の能力を最大限活用して資料の精査・整理などを行い、正確性を最も重視した。
    事あるたびに各級指揮官等に活用してもらうために使用目的に応じて、データ・資料が正確性・信頼性・説得力を持ち、一目瞭然分かり易くアッピールできることに努めた。
 班長の動き次第で人事部門全体の組織的な能力が評価され鼎が問われた。そのため各班員が腕を振るって作り上げた、データ・資料を適宜要所要所で指導し、料理を仕上げる如く最後に味見をし、必要に応じて味付けをして最高のものにするのが班長の最大の役目であった。それは班長がどれだけ料理を裁き切れるか、腕の見せ所であった。
  
4.  資料作成は部下隊員の能力発揮の場であった 
 司令部活動で各級指揮官の指揮統率と指揮管理に資する資料の作成は部下隊員を指導する絶好の機会であり、部下の能力発揮の場であった。
 司令部の有する情報・デ-タをどのようにまとめるかは実に担当者にとって腕の振るいどころであった。大量かつ複雑な資料を一目瞭然の図表化、数量化、ポンチ絵化、さては漫画化など創意工夫・アイディアありであった。部下隊員の意外な能力を引き出す機会でもあった。部下の作成した資料は、更にアレンジしてもらい使用する時と場所、利用者に対応して、手を変え品を変えて活用することに努めた。
 こうしたことから、部下の作成した資料は3回以上は活用されるよう努めその労に報いることに努めた。また、よく誰が作ったのだと問われるたびにさりげなく 作成の主担当者の名前を披露することに努めた。
   隷下部隊の人事幕僚には、当該部隊に関わる資料を積極的に提供し、できるよう指揮官の補佐を適切にできるよう努めたことは非常に喜ばれた。