元自衛官の時想(2) 自衛隊最高指揮官たる内閣総理大臣

1.自衛隊最高指揮官たる総理大臣と統合幕僚長等との面会

    自衛隊の最高指揮官は、内閣総理大臣である。航空自衛隊退官後25年経つが、毎日の生活の中で、朝新聞を開くと、必ずチェックするところは、首相の前日の行動を報じる小欄である。

 新聞によって、「安倍日誌」「首相の動静」」「首相の一日」等々表題は異なるが、誰に会って、どんな会議・行事に出席したのかということがまとめられている。

 特に、防衛省自衛隊の高官、とりわけ制服自衛官からの直接報告等の頻度、官職等に最大の関心を持って読んでいる。昭和の時代は、統幕会議議長・幕僚長の就任と退任の表敬ぐらいであったが、今や防衛事務次官・局長のほか統合幕僚長や情報本部長の官邸への出入りなどが頻繁となったことが印象的である。国家として、総理大臣として当たり前のことが当たり前になりつつあると受け止めている。

 いみじくも、先の高級幹部会同の訓示の中に、

「私は、「現場」の情報を、何よりも重視しています。
 統合幕僚長を含む安全保障スタッフから、毎週、様々な情報や自衛隊の運用状況について報告を受けています。国家安全保障会議も、月に2回は開催し、様々な課題について議論し、判断を下しています。
 防衛省自衛隊からもたらされる日々の動態情報、戦略情報は、各国との首脳会談を行う上で、そして、内閣総理大臣としてベストな意思決定を行う上で、欠かせないものとなっています。」と述べておられる。

 よく大臣及び政党幹部と総理との面会回数と時間の一覧表が載ることがあるが、政治の世界を分析する一指標であることは確かであろう。

 これと同じように、各国の安全保障体制を分析する場合に、大統領と参謀総長等武官との接触回数と時間を分析すれば、国家安全保障体制の度合いと信頼関係を推し量ることができる。

 

2.自衛隊最高指揮官たる総理大臣の訓示と内容

 次に、毎回関心を持って読んでいるのは、自衛隊の最高指揮官として内閣総理大臣がどのような内容の訓示したかである。大部分は、官邸のホ-ムぺ-ジのほか主要新聞、つばさ会のホ-ムぺ-ジ、朝雲新聞などで関心を持って読んでいる。

 最近の訓示の内容は、次の訓示に見られるように、よく練られた内容で分かり易い言葉で呼びかけものとなっており、隊員の琴線に触れるような内容となっている。こうした訓示内容などは多くの国民の皆さんに知ってもらいたいと思う。

 自衛隊最高指揮官たる内閣総理大臣は、指揮統率の要であり、大げさにいえば全自衛隊員を心服させる力がなければならない。第一線で黙々と任務に励む自衛隊員の心情に思いを馳せた訓示の一つといえるであろう。

 

安倍内閣総理大臣訓示  ( 首相官邸ホ-ムぺ-ジ 出典)

 

平成27年10月18日 

平成27年度自衛隊観艦式 安倍内閣総理大臣訓示 

 本日の観艦式に臨み、堂々たる艦隊、整斉たる航空機、そして高い練度を示す隊員諸君の凛々しい姿に接し、自衛隊の最高指揮官として、大変心強く、頼もしく思います。
 海に囲まれ、海に生きる。海の安全を自らの安全とする国が、日本です。我々には、「自由で、平和な海を守る国」としての責任がある。その崇高なる務めを、諸君は、立派に果たしてくれています。
 この大海原の真ん中にあって、波濤をものともせず、正確無比なる「海の防人たち」の勇姿を目の当たりにし、その感激もひとしおであります。
 荒波を恐れず、乱気流を乗り越え、泥まみれになってもなお、ただ一心に、日本の平和を守り続けてきた、全ての隊員諸君。この困難な任務に就く道を、自らの意思で進み、自衛隊員となった諸君は、日本の誇りであります。
 この夏、先の大戦から、70回目の8月15日を迎えました。
 この70年間、日本は、ひたすらに平和国家としての道を歩んできました。それは、諸君たち自衛隊の存在なくして、語ることはできません。先人たちは、変転する国際情勢のもと、平和を守るために、そして、平和を愛するがゆえに、自衛隊を創設したわけであります。
 残念なことに、諸君の先輩たちは、心無い、多くの批判にさらされてきました。中には、自衛隊の存在自体が憲法に違反する、といった議論すらありました。
 しかし、そうした批判に歯を食いしばり、国の存立を全うし、国民を守るために、黙々と任務を果たしてきた、諸君の先輩たち。現在の平和は、その弛まぬ努力の上に、築かれたものであります。
 相次ぐ自然災害。そこには、必ず、諸君たちの姿がありました。
 先月の関東・東北豪雨における、ヘリコプター部隊による懸命の救助活動。逃げ遅れた人々を救うため、危険も顧みず、濁流へと飛び込む自衛隊員の姿は、多くの国民の目に、鮮明に焼きついています。
 豪雪、地震、火山の噴火。自衛隊災害派遣は、実に4万回に達します。
 そして今や、自衛隊に対する国民の信頼は、揺るぎないものであります。その自信を持って、これからも、あらゆる任務に全力であたってほしいと思います。
 我々には、もう一つ、忘れてはならない8月15日があります。
 「緊急発進せよ」
 16年前の8月15日、宮崎県の新田原基地に、夜明け前の静寂を切り裂く、サイレンが鳴り響きました。
 国籍不明機による領空接近に、近者明宏2等空佐と、森山将英3等空佐は、F4戦闘機でスクランブル発進しました。
 稲妻が轟く悪天候も、上昇性能ぎりぎりの高い空も、二人は、まったく恐れることはありませんでした。
 そして、「目標発見」の声。「領空侵犯は決して許さない」という、二人の強い決意が、国籍不明機を見事に追い詰め、我が国の主権を守りました。
 しかし、その直後、突然、交信が途絶えてしまった。二人が再び基地に戻ることはありませんでした。
 「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託に応える。」
 この宣誓に違うことなく、近者2等空佐と、森山3等空佐は、文字通り、命を懸けて、自衛隊員としての強い使命感と責任感を、私たちに示してくれました。
 アジア太平洋地域における諸君の確固たるプレゼンスが、米国や、志を共にする民主主義諸国とともに、冷戦を勝利へと導き、そして日本の平和を守ってきた。そのことは、歴史が証明しています。
 諸君を前にするたび、私は、一つの言葉を思い出します。
 「雪中の松柏、いよいよ青々たり」
 雪が降り積もる中でも、青々と葉をつけ、凛とした松の木の佇まい。いかなる困難に直面しても、強い信念を持って立ち向かう人を、讃える言葉であります。
 ただ、ひたすら、国民のため。その志を抱いて、24時間365日、大きなリスクもいとわず、任務を全うする。諸君の崇高なる覚悟に、改めて、心から敬意を表します。
 どうか諸君には、これからも、どんな風雪にもビクともしない、松の木のごとく、いかなる厳しい任務にも耐えてもらいたい。そして、常に、国民のそばにあって、安心と勇気を与える存在であってほしいと願います。
 遥かかなた、アフリカ・ソマリア沖。海の大動脈・アデン湾は、かつて、年間200件を上回る、海賊襲撃事案が発生していた、危険な海でした。
 ここを通過する、ある船の日本人船長は、海賊への不安を口にする乗員やその家族にこう語ったそうであります。
 「海上自衛隊が護ってくれるから大丈夫だ。安心していいんだ。」
 今年ついに、海賊による襲撃事案はゼロになりました。諸君の献身的な努力の結果であり、世界に誇るべき大成果であります。
 そして、戦後初めて、自衛隊から多国籍部隊の司令官が誕生しました。これは、これまでの自衛隊の活動が、国際的に高く評価され、信頼されている、何よりの証でありましょう。
 先日来日したフィリピンのアキノ大統領は、国会で演説を行い、このように語っています。
 「かつて、戦艦『伊勢』が、史上最大の海戦に参加するため、フィリピンの海域を航行しました。」
 「しかし、2年前の台風の時、同じ名前の、護衛艦『いせ』は、救援、思いやり、そして連帯を、被災者に届けてくれた」のだと。
 これまでの自衛隊の国際協力は、間違いなく、世界の平和と安定に大きく貢献している。大いに感謝されている。世界が、諸君の力を、頼みにしています。
 その大いなる誇りを胸に、諸君には、より一層の役割を担ってもらいたいと思います。
 さて、本日の観艦式には、オーストラリア、フランス、インド、韓国、そしてアメリカの艦艇が参加してくれています。全ての乗組員の皆さん。はるばる御参加いただき、ありがとうございます。
 また、本日は、アメリカの空母ロナルド・レーガンも、日米共同訓練の途中、姿を見せてくれました。東日本大震災の時、被災地に駆けつけてくれた、「トモダチ」であります。今月から、横須賀を母港に、再び日本の守りに就いてくれる。ありがとう。ようこそ日本へ。心から歓迎します。
 日本は、皆さんの母国をはじめ、国際社会と手を携えながら、「自由で平和な海」を守るため、全力を尽くします。「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄に、これまで以上に貢献していく決意であります。
 「平和」は、他人から与えられるものではありません。自らの手で勝ち取るものであります。
 イギリスの元首相・チャーチルは、ヨーロッパがミュンヘン会談など安易な宥和政策を重ねながら、最終的に第二次世界大戦へと進んで行ってしまった、その道のりを振り返り、次のように述べています。
 「最初はすべてが容易であったが、後には事態が一段と困難になる」。そして、この戦争ほど「防止することが容易だった戦争は、かつて無かった」。こう反省しています。
 二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない。そのために、私たちは、常に、最善を尽くさなければなりません。国際情勢の変化に目を凝らし、必要な自衛の措置とは何かを考える。そして、不断に抑止力を高め、不戦の誓いをより確かなものとしていく。
 私たちには、その大きな責任があります。
 日本を取り巻く安全保障環境は、一層厳しさを増しています。望むと望まざるとに関わらず、脅威は容易に国境を越えてくる。もはや、どの国も、一国のみでは対応できない時代です。
 そうした時代にあっても、国民の命と平和な暮らしは、断固として守り抜く。そのための法的基盤が、先般成立した平和安全法制であります。積極的な平和外交も、今後、一層強化してまいります。
 私たちの子どもたち、そして、そのまた子どもたちへと、「戦争のない平和な日本」を引き渡すため、諸君には、さらなる任務を果たしてもらいたいと思います。私は、諸君と共に、その先頭に立って、全力を尽くす覚悟であります。
 御家族の皆様。
 大切な伴侶やお子様、御家族を、隊員として送り出して下さっていることに、最高指揮官として心から感謝申し上げます。
 皆さんの支えがあるからこそ、彼らは全力を出し切って、国民の命と平和な暮らしを守ることができる。本当に、ありがとうございます。彼らがしっかりと任務を遂行できるよう、万全を期すことを、改めて、お約束いたします。
 さらに、常日頃から自衛隊に御理解と御協力をいただいている御来賓の方々をはじめ関係者の皆様に対しても、この場を借りて、感謝申し上げたいと思います。
 隊員の諸君。
 諸君の前には、これからも、荒れ狂う海が待ち構えているに違いない。しかし、諸君の後ろには、常に、諸君を信頼し、諸君を頼りにする、日本国民がいます。
 私と、日本国民は、全国25万人の自衛隊と共にある。その誇りと自信を胸に、それぞれの持ち場において、自衛隊の果たすべき役割を全うしてください。大いに期待しています。

平成27年10月18日
自衛隊最高指揮官
内閣総理大臣 安倍晋三

 

 

平成27年12月16日

第49回自衛隊高級幹部会同 安倍内閣総理大臣訓示 

 本日、我が国の防衛の中枢を担う幹部諸君と一堂に会するにあたり、自衛隊の最高指揮官たる内閣総理大臣として、一言申し上げたいと思います。
 本年は、戦後70年の節目の年にあたります。
 戦後、我が国は、ひたすら平和国家の道を歩んできました。しかし、この平和は、ただ唱えるだけで実現したものではありません。時代の変化に対応しながら行動してきた、先人たちの弛まぬ努力の賜物であり、自衛隊の存在なくして、語ることはできません。
 先人たちは、変転する国際情勢の下、平和を守るために、そして、平和を愛するがゆえに、自衛隊を創設しました。
 さらには、日米安保条約の改定、PKO法の成立。そうした努力の上に、現在の私たちの平和がある。この節目の年にあたって、諸君たちと共に、その重みを噛みしめたいと思います。
 しかし、昨日までの平和は、明日からの平和を保証するものではありません。
 56年前の今日、12月16日。憲法の番人である最高裁判所は、判決の中で、このように述べました。
 「わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然のことといわなければならない。」
 変転する国際情勢の下、「必要な自衛のための措置」とは何か。これを考え抜くのは、私たち政府の、最も重い責任であります。
 今を生きる私たちもまた、先人たちにならい、国際情勢の変化に目を凝らし、「必要な自衛のための措置」をしっかりと講じていかなければならない。私たちの子や孫に、平和な日本を引き渡すため、強固な基盤を築かなければなりません。
 そのことを考え抜いた末の結論が、「平和安全法制」であります。
 審議の過程においては、「自衛隊員のリスク」をめぐって、様々な議論がありました。
 しかし、諸君には、もどかしい思いがあったかもしれません。
 いかなる事態にあっても、国民を守り抜く。安全保障環境が厳しさを増す中にあって、「国民のリスク」を下げる。そのためにこそ、自ら進んで、リスクを引き受ける。それが、諸君たち自衛隊員の、気高き「志」であるからであります。
 「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託にこたえる」
 この宣誓の重さを、私は、最高指揮官として、常に、心に刻んでいます。
 自衛隊員に与えられる任務は、これまで同様、危険の伴うものです。しかし、その目的は、ただ一つ。すべては、国民の命と平和な暮らしを守り抜く。そのことに、変わりはありません。
 その強い使命感と責任感を持って、それぞれの現場で、隙のない備えに万全を期し、任務を全うしてほしい。
 そして、幹部諸君には、「現場」の隊員たちが、新たな任務を、安全を確保しながら適切に実施できるよう、あらゆる場面を想定して、周到に準備してもらいたい、と思います。
 安全保障をめぐる議論は、常に、国論を二分してきました。「戦争に巻き込まれる」といった無責任なレッテル貼りは、今回の平和安全法制に限らず、60年安保の時も、PKO法を制定した時も、行われてきました。
 しかし、時代は大きく様変わりしました。かつて行われた、「自衛隊の存在自体が憲法に違反する」といった批判は、今回、国民的には、まったく議論にならなかった。それは、諸君たち自衛隊が、国民から大きな信頼を勝ち得てきたからに、他なりません。
 御嶽山が噴火した時も、関東・東北豪雨による洪水被害の時も、そこには必ず、人命救助に向かう陸上自衛隊の姿がありました。1万2千㎞離れた交通の要衝アデン湾では、日本の海上自衛隊が、世界の船舶から頼りにされています。10年間で7倍にも増加した、国籍不明機による領空接近にも、24時間365日体制で日本の空を守る、航空自衛隊の諸君がいます。
 それらは、国民の目に、しっかりと焼き付いています。
 国内だけではありません。
 自衛隊が初めてPKOに参加したカンボジアのフンセン首相、2年前、台風による被災者の救援活動を行ったフィリピンのアキノ大統領。多くのリーダーたちが、世界の平和と安定のために汗を流す諸君たちを称賛し、その規律正しさに尊敬の念を抱き、そして、その能力の高さを大いに頼みにしています。
 こうした世界のリーダーたちから、平和安全法制は、高い評価を得ています。これも、諸君たちが、長年にわたって、世界に貢献してきた。その証であります。
 国民の信頼、そして世界の期待。
 それらを胸に深く刻みながら、新たな任務に当たってもらいたいと思います。さらに、その信頼と期待に一層応えられるよう、それぞれの持ち場において、常に、最善を尽くしてほしいと思います。
 私は、「現場」からの問題提起を歓迎します。
 「現場」が直面する様々な課題に、必ず答えを出していく。これは、最高指揮官たる私の、大きな責務であります。
 「現場」に立つ隊員一人ひとりと私とは、この場にいる諸君を通じて、結ばれている。私は、そのことを忘れたことはありません。なぜなら、私と「現場」との紐帯の強さこそが、我が国の安全に直結する。そう信じているからであります。
 私は、「現場」の情報を、何よりも重視しています。
 統合幕僚長を含む安全保障スタッフから、毎週、様々な情報や自衛隊の運用状況について報告を受けています。国家安全保障会議も、月に2回は開催し、様々な課題について議論し、判断を下しています。
 防衛省自衛隊からもたらされる日々の動態情報、戦略情報は、各国との首脳会談を行う上で、そして、内閣総理大臣としてベストな意思決定を行う上で、欠かせないものとなっています。
 今や、諸君の日々の活動の一つひとつが、日本の国益に直結している。この事実を、改めて、諸君に認識してもらいたい。そして、このことを肝に銘じ、職務に一層邁進してもらいたいと思います。
 さらに、諸君には、世界を視野に入れて、ダイナミックに発想し、そして行動してもらいたい。
 私は、これまで既に63の国と地域を訪問してきましたが、首脳会談の際には、必ずと言っていいほど、防衛協力が大きな話題となります。キャパシティ・ビルディングや、装備・技術協力など、防衛省自衛隊の有する高い能力による協力が求められています。
 諸君には、これを、大きく前に進めてほしい。こうした協力を進めていくことが、地域、ひいては世界の安定につながり、日本の安全を確かなものとする。私は、そう確信しています。
 各国の陸軍と陸上自衛隊、海軍と海上自衛隊、空軍と航空自衛隊といった、サービス・トゥ・サービスの間でも、戦術的な関係にとどまらず、地域や世界における平和と安定にいかに寄与していくか、戦略的な協力を進めてもらいたいと思います。
 いわば「戦略的な国際防衛協力」であります。
 自衛隊国際貢献が、世界における高い評価を勝ち取れば、勝ち取るほど、自衛隊との防衛協力へのニーズも高まっていく。これは、必然の結果でもあります。
従来の発想にとらわれることなく、大胆に、戦略的な国際防衛協力を進めてほしい。そのことによって、私が地球儀を俯瞰する視点で展開する、戦略的な外交・安全保障政策の、一翼を担ってもらいたい。切に希望しています。
 国民の命と平和な暮らしを守る。
 この崇高なる任務に、「最終ゴール」などありません。国際社会は、私たちが望むと望まざると関わらず、激変を続けています。こうした時代の荒波を、しっかりと見定めながら、未知なる事態にも柔軟な発想力で立ち向かい、いかなる困難にもひるまない強い使命感を持って、不断に努力を続けてもらいたい。
 その中枢を担う幹部諸君には、大いに期待しています。
 最後に、2年前、この場で紹介した言葉を、もう一度述べて、この訓示を締めくくりたいと思います。
 「悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は意志によるものである。」
 フランスの哲学者アランの言葉です。
 道を切り拓くのは、いつの時代も、「意志」の力であります。どうか、強い「意志」を持って、それぞれの持ち場で、自衛隊の果たすべき役割を全うしてほしい。
 私と日本国民は、常に、諸君を始め全国25万人の自衛隊と共にあります。その自信と誇りを胸に、日本と世界の平和と安定のため、益々精励されることを切に望み、私の訓示といたします。

平成27年12月16日
内閣総理大臣 安倍 晋三

平成27年12月16日

自衛隊高級幹部会同に伴う総理主催懇親会

メイン画像:挨拶する安倍総理1

挨拶する安倍総理1 

    平成27年12月1 6日、安倍総理は、総理大臣官邸で「自衛隊高級幹部会同に伴う総理主催懇親会」を開催しました。

 総理は、挨拶の中で次のように述べました。

「本日は、我が国防衛の中枢で、そして、最前線で活躍する皆さんと懇談する機会が得られたことを大変嬉しく思います。
 私は、内閣総理大臣の最も重要な責務は、国民の命を守り、平和な暮らしを守ることだと考えています。
 25万人の自衛隊の皆さんが文字通り24時間365日厳しい環境の下で、黙々と、この責務を果たしてくれていることに改めて敬意を表したいと思います。同時に、隊員の御家族の皆様に心から感謝を申し上げたいと思います。
 昨今は、自衛官が結婚相手として人気を博し、『J婚』という言葉が生まれるなど、自衛隊は大変な人気であります。自衛隊をモデルとしたドラマ・アニメ・写真集なども、随分登場しているようであります。私自身、多くの時間を自衛隊の皆さんと過ごしておりまので、その理由はよく分かります。
 例えば、私の地球儀を俯瞰する外交は、政府専用機のクルーが支えてくれています。直近の2ケ月間だけでも13ケ国を訪れ、飛行時間は累計で120時間に上りました。まる5日間、機内で過ごした計算になります。
 一方、外国の首脳が、この総理官邸を訪れる時は、いつも特別儀じょう隊による出迎えからスタートします。
 私の行動を世界に発信する官邸カメラマンには、今年、自衛隊から新たなメンバーを迎えました。そして、官邸の医務室は自衛隊医官と看護官が支えてくれています。
 国内での人気もまた、一途に国民のための自衛隊であり続けてきた証ではないかと思います。
 もちろん、これは国内だけではありません。自衛隊は、台風被害を受けたフィリピンに救援に赴きましたが、その様子を紹介した官邸の英語版フェイスブックには、世界中からなんと18万4千件を超える『いいね!』が寄せられました。英語版のフェイスブックでは、これまで『いいね!』の数は、大体1件あたり平均で約400でございました。3,000を超えれば、当然ベスト10に入ります。ですから、英語版のフェイスブックにおいては、圧倒的、最長不倒距離になるのではないかと思います。
 このように、自衛隊が内外から高く評価されていることを、私は、大変誇りに思うわけであります。
 我が国を取りまく安全保障環境が、一層厳しさを増している今日、皆さんとこれまで以上に心を一つにして、しっかりと力を合わせていかなければなりません。
 大切なことは、国民のため、国民の命を守るため、この60年間、自衛隊の皆さんは時にはいわれのない非難を浴びながら、しかし、歯を食いしばって、頑張ってきた結果、国民から最も信頼される組織になっている。これも日々の、正に365日頑張っている自衛隊諸君の、現場での活躍の成果ではないかと思います。
 私は、彼らの最高指揮官であることを本当に誇りに思います。これからも皆さんと心を一つにして、国民の命と幸せな暮らしを守っていきたいと思います。どうぞ、これからもよろしくお願いいたします。」