昭和の航空自衛隊の思い出(151) 指揮幕僚課程の教育内容

 1. 私にとっての指揮幕僚課程の位置づけ

 私の手元に古びた1冊の資料が残っている。昭和47年7月東京は市ヶ谷台にある幹部学校に入校し、第21期指揮幕僚課程を一年間学んだ。「第21期指揮幕僚課程教育実施計画」である。入校式の終わった後、導入教育で配付されたものであろう。

 入校当時、幹部学校は創設以来17年の歴史と伝統を有しており、教育目的、教育目標及び教育方針は明確であり、実施計画には教育基本計画(教育方針、教育期間、教育課目表及び校外講師招へい予定表)のほか細部計画の中には、教育実施上の留意事項,教育課目時間配当表、教育課目の流れ、教育課目内容表、教育予定表及び学生名簿などがつづられていた。

 今後一年間どんな内容をどのように進めるのか、入校から卒業までの 毎日の課目の細部まで示されており、一年間何をどのように学ぶのか、目標は何なのかが明確に示されていた。学生に対してすべてが開示されており、卒業までの間の予定がはっきりしていたので私的な面でも計画が立ち非常に合理的・効果的であった。

 今日振り返ってみても当時の時代背景の中で、教育内容は充実したものであり、さすがCSCであったと感じている。卒業後、約17年の自衛官生活を過ごすことになったが、諸勤務において自信を持って積極的に職務に専念することができた。

 私の自衛官生活で第1期操縦学生として基本課程を学んだこと、部内幹候出身幹部として指揮幕僚課程を学んだことは、わが胸に秘める誇り・プライドであり、大きな自信を生んでくれたように思える。

 これらが強固な精神的主柱となり、あらゆる面で独創性・積極性・研究向上心・実行力を助長し、公私にわたり心を豊かにして何事にも一生懸命あたることができたように思える。したがって、自衛隊勤務は厳しかったが満足感と感謝の念をもって退官することができた。

2. 指揮幕僚課程教育

 教育目的

  「教育目的は、幹部自衛官としての資質を向上させるとともに上級の指揮官及び幕僚として必要な基礎的知識及び技能を習得させる。」(航空自衛隊訓令)

    当時、航空自衛隊の幹部自衛官の一般教育は、主として幹部普通課程、指揮幕僚課程及び高級幹部課程が挙げられるが、幹部普通課程は「中級」、指揮幕僚課程及び幹部高級課程は「上級」の指揮官及び幕僚を養成することを目的としていた。今日もその教育目的に変わりはないであろう。

❷ 教育目標

① 防衛に関する一般の事項、特に方面隊以下の部隊等の指揮運用及び幕僚勤務に必要な一般の知識及び技能並びに防衛力の建設維持に必要な一般の知識及び技能を習得させるとともに将来進展の素地を与える。

② 幹部自衛官としての資質を向上させる。   (航空自衛隊達)

❸ 教育方針 

⑴上級の指揮官及び幕僚としての資質のかん養及び基礎的な識能の向上を図る。

⑵教育の終始を通じ独創力及び意志力の養成を重視するとともに学生の自主的研さんと相互啓発による教育成果の充実を図る。

教育実施計画からみて以上の二点であったと思われる。入校式における幹部学校長岩崎亭空将の訓示の要点を、私は簡潔に「1本質 2自主的研さん 3相互啓発」とメモしていた。

❹ 教育実施上の留意事項

 教育実施は次のように行われていた。

⑴課程の特質及び履修の意義にかんがみ、資質練磨のため、適宜多大の課題作業等による厳しい鍛錬の機会を与え、困難な条件下にあってもひるまぬ強固な精神力と的確な判断力の涵養に努めさせる。

⑵教育内容中、SOC等における既修課目及びCSC選抜試験対象に含まれる事項は、重複講義を避け、討議等を活用して教育効率を図る。

⑶全般に、努めて「読書-講義-課題(応用)-演習」のサイクルによるとともに特に読書及び課題(応用)研究の指導に留意し、学生の自主的研さんと相互啓発を助長させる。

❺ 教育課目と時間

 教育時間2,136時間の内、防衛基礎376時間(約18%)、指揮統御124時間(約6%)、戦略戦術914時間(約43%)、戦史164時間(約8%)、総合図演100時間(約5%)、現地研修156時間(約7%)、その他302時間(約14%)であつた。

 教育課目の内容等は、時代の推移と共に指揮統御は指揮幕僚活動、戦略戦術及び総合図演は防衛力運用と防衛力整備などと用語、時間配分が変わってきている。

遥か昔のことであり、現在はかなり変わってきたものと推察している。

 

3.印象に残っている指揮幕僚課程

 ❶ 防衛基礎における校外講師の講義(講話)

 防衛基礎においては、内外情勢、資源管理、科学技術、社会科学等著名な大学教授等の講義があったことである。高い関心と興味を持って耳を傾けたものだ。一流の専門家の話が聞けるので結構楽しい時間であった。交代で講義(講話)内容の要旨をまとめてすぐに教官室に提出した。

❷ 防衛基礎課題研究論文の作成

 防衛の基礎となる社会思想について、わが国と関係の深い主要国について防衛の基礎となる社会思想の主要点を考察した作業は、真剣に取り組み論文を書き上げて発表した。

 関係国の歴史と社会思想に関する著書を通学通勤の途上、自宅で深夜まで片っ端から読み漁りながら、ねじ鉢巻きで方向をまとめて論文を作り上げたことがあった。現在も当時勉強したことが、国際情勢・軍事情勢を理解・判断するうえで役立っている。

 航空作戦史と大東亜戦争叢書

 戦史の中でも、第2次世界大戦までとその後の航空戦略戦術の変遷を学び、英本土、ハワイ、南西方面、東部ニュ-ギニア、日本本土防空の航空作戦史を通じて航空作戦の特質及び戦場における指揮統率の実相を学んだ。幹部学校入校間及び卒業後、防衛研究所戦史室 編纂による大東亜戦争叢書(朝雲新聞社発行)約100巻を読むことに繋がった。

❹ 防空事例研究やウォ-ゲ-ムによる能力評価

 防空作戦については、要撃管制官を経験しておりその運用要領は相当理解していたが、ナイキ部隊の展開、ウォ-ゲ-ムによる防空能力評価などは電子計算機の活用等目新しいものがあり強く印象に残った。

❺ 司令官・幕僚長・幕僚になった総合図演

 指揮演習講堂を利用した司令部実設による方面隊以下の部隊の運用に関する指揮官及び幕僚の演練は、学生が司令官、幕僚長、各部長等になり白熱したやり取りが展開された。かって要撃管制官として実任務に就いた経験があったので、状況下で活動できたように記憶している。

❻ 現地研修と同期の団結・融和

 第1次研修は主として後方部隊と基幹産業の現状、第2次は方面隊司令部、更に第一次関東研修は警戒群:、ナイキ陸上自衛隊、第2次関東研修は海上自衛隊と教育の大きな流れの中で研修が組まれた。初めて訪問する部隊等が多く、現地の部隊等を研修でき有意義であった。

 校外研修は、解放感もあり、行動を共にし同期生の団結と親睦融和にも役立ったように思われる。 

 

 

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 《 幹部学校教育部第3教官室 》

 

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 《 主要国の社会思想の発表討議 松田1尉・濵田1尉・山口3佐・石川3佐 》

 

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《 主要国の社会思想の発表討議 、司会及び書記は交代で行った。》