昭和の航空自衛隊の思い出(36)   もう一度上空から見てみたい

1.   もう一度上空から見たいところ

 58年前を思い出して、上空から眺めてみたいところはと尋ねられたら、いの一番に「小月基地を中心とした水族館・マイクロウエーブ塔・満珠・干珠の二つの島」の三つを上げるであろう。初級操縦課程における飛行訓練時の位置判断・確認の目標にしていたからである。今上空で眺めたらどのように自分の目に映るのかとたわいもないことを思ったりした。

 そこで、ネットで調べてみたら、当時の水族館・マイクロウエーブ塔はなくなっていた。今も昔も変わらないものは「満珠・干珠の二つの島」だけだった。人の人生と同じなのだなぁと思った。

    昭和31年10月から32年3月まで、山口県下関市の小月基地に所在する第1操縦学校で学んだ。小月基地はこじんまりとした落ち着いた雰囲気の基地であった。当時の身分は第1期の「操縦学生」、階級は空士長で21歳であった。浜松の英語教育隊を卒業し、希望に燃えて地上準備教育、初級操縦課程へ進み、大空への夢を実現しようと毎日が真剣な青春時代であった。

 操縦学生としてあれほど一生懸命に操縦訓練に励み取り組んだのに、単独飛行寸前で、「操縦免」となったせいか飛行日誌等操縦に関する当時の資料は全く残っていない。多分、心機一転して出直すためにすべて破棄したのであろう。

 第1操縦学校在学中のことは、わずかな写真と変色した一冊のノ-トが残っているのみであった。それは操縦訓練で感じた大空に関する随想であった。内容は随想と当時の地方新聞の「春シ-リズ山」のタイトルで画家今井平馬氏の挿絵11枚を切り抜き張り付けてあった。よほど気に入ったのであろう。58年前の随想を読み返して、当時の情景が浮かび上がってくる。今の所感を付記してみた。

 

2.  上空から見た下関の印象

 「僕が浜松からこの第1操縦学校に入校したのは昭和31年10月2日である。内海国立公園の西の果て、下関に第一歩を印した時はずいぶん田舎だと思った。平和などこにでもある半魚半農の地である。

 なぜこんなに印象づけられたかというと、それは上空より見た美しい情景に他ならない。この下関の山々、町、内海、・・・・…あらゆる自分の目に入るものは愛着さえ感じる。これらはわが飛行の目標となり自分の生死とむすびついているからである。それだけにこの地の一つ一つを一生涯忘れないにちがいない。」と記している。

 

3.  下関水族館

❶ 当時の下関水族館

 飛行中の位置確認の目標としていた下関水族館について次のように記している。

 「下関が誇るこの水族館は、関門海峡を潜り抜けて満珠・干珠に近づくとき、白い水族館はよく目に入る。冬のある日この水族館を訪れてみた。強い印象が残った。」 

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《 画家今井平馬氏の挿絵 「下関水族館」、下関市立水族館について調べてみたら、当時の水族館は長府地区に昭和31年11月開館、平成12年12月閉鎖され、平成13年4月唐戸地区に建設され開業したとある。今は位置確認の目標となっているだろうか。 》

 

❷ 現在の下関市立しものせき水族館 海響館

  ネットの百科事典によると、「下関市立しものせき水族館 海響館は、山口県下関市唐戸にある水族館2001年平成13年)4月1日に開業した。愛称は「海響館」(かいきょうかん)。指定管理者制度により、公益財団法人下関海洋科学アカデミーが管理・運営を行っている。

   下関市には長府地区に1956年昭和31年)11月29日開館の「下関市立水族館」があったが、老朽化が激しく、さらに1999年(平成11年)の台風18号で施設の破損のみならず、一部の動物等の海への流失(特にゴマフアザラシは2頭が流失するも1頭が戻ってきて当時話題となった)など壊滅的被害が出たため、移転・改築することとなった。

    旧水族館は2000年(平成12年)12月3日に閉鎖、2001年(平成13年)4月1日に新たな水族館が開館した。

    下関という土地の利を生かして、100種類以上の世界各地のフグを展示している。また、下関が調査捕鯨基地であることに関連して、ノルウェートロムソ大学付属博物館の倉庫で保管されていたシロナガスクジラの全身骨格標本を借り受けて展示している。水族館の建物の形もクジラをモチーフにデザインされており、上空から見ると特にそれが分かりやすい(屋根の部分がクジラをイメージした形状であるが、地上から見た外観ではそのことは若干分かりづらい)。」とある。

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  《 下関市立しものせき水族館 海響館、建物の形はクジラをモチーフにデザインしたとのこと。 》

 

4.  マイクロウエ-ブの塔

     「飛行訓練での位置の判断確認で最も多く目標ににしたのがマイクロウエーブ塔、なかなかスマ-トだ。青山の頂にあるだけに 他より抜きんでている。ある日感謝の気持ちを込めて上空をグルグルと飛んでみた。さぞやマイクロウエーブ君、第1操縦学校の飛行訓練学生の位置確認の貴重な存在とは知るまい。」と記している。 

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 《 画家今井平馬氏の挿絵・マイクロウエーブ塔、絵は白黒であるが当時色鉛筆で色を付けたようだ。上空から見ると遠くからでもはっきりと見えて、初級の練習生にとっては、有視界飛行だけに精神的に自機の位置確認ができて安心感がもてた。 》

 

《 ネットで調べてみると、4年前に青山のマイクロウエーブ塔は撤去されているようだ。58年の歳月の重みを知ることとなった。長い年月には老朽化や科学技術の発達により新しいものになっていく。》

 

5.  満珠・干珠の二つの島

  満珠・干珠の二つの島ほど印象の深い島はない。高度を高くとって、エンジンを切って失速時の回転落下を行い、再びエンジン始動して引き起こし水平飛行に移る課目では、回転中一回、2回、3回と数えながらこの二つの島を視野に入れてすべてを判断していたからであった。

 初級の操縦訓練で、飛行位置・姿勢の確認の重要な目標であった。当時の水族館・マイクロウエーブ塔はなくなっていたが、今も昔も変わらないものは「満珠・干珠の二つの島」である。いつの日かもう一度上空から眺めてみたいものだ。かなわぬ夢であるとあれば、山頂に立って青春の日々を思い出してみたい。 

 下関市観光課の資料によると、「満珠(まんじゅ)、干珠(かんじゅ)とも、忌宮神宮の神域で、長府沖の瀬戸内海に浮かぶ、樹林におおわれた美しい2つの小島です。
 満珠、干珠の名は、1300年前以上に書かれた「日本書紀」にも見られ、神宮皇功(じんぐうこうごう)伝説が島の名前のもととなっています。
 2つの島にある樹林は、常緑広葉樹と、落葉広葉樹がまじっていて、すこし背の低い森林をつくっています。100%手付かずの自然の状態ではありませんが、瀬戸内海西部における原生樹林の植生を教えてくれる貴重なものです。暖地性の植物がほとんどで、ハマセンダン、ノシラン、ナタオレノキ、サカキカズラ、オオイタビなどが注目されます。
 長府地区にある忌宮神社の飛地境内となっています。」とある。

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 《 画家今井平馬氏の挿絵・満珠・干珠の二つの島、この島の上空で上昇し、エンジンをカットし、スピンに入った状態で回転落下するとき、1回・2回と呼称しながらこの二つの島で位置を確認し、再びエンジンを起動し正常な引き起こし飛行姿勢に戻した。歴史のある島で忘れ難い。 》

 

《 下関市観光課による満珠・干珠の二つの島、「神功皇后が龍神から授けられた2つの珠(満つる珠、干る珠)から生まれたと言われる伝説の島。2つの島が寄り添うように見える豊功(とよこと)神社や御船手(おふなて)海岸付近からの景色がオススメです。 忌宮神社の飛地境内(とびちけいだい)で、渡ることはできません。また島は千古(せんこ)の原始林に覆われており天然記念物に指定されています。」とある。 》

 

6.  58年前を今から思うこと【付記】

❶ 操縦訓練の度に上空から見る下関の海・山・街並みの情景に感動したことを思い出した。また、最初の訓練段階では有視界飛行だけに、顕著な目標をしっかりと脳裏に叩き込むことに努めた結果であろうか。

 残された唯一のノ-トには随想とともに下関の位置確認となった目標の挿絵が張られていた。画家今井平馬氏の挿絵である。上空で目標を見失うことは即自分の位置が分からない・位置を見失うこと・生死につながることであるからそれこそ真剣であった。

❷ 初級の飛行において、白い市立「下関水族館」を目標の一つにしていたのがよく分かる。当時、水族館を訪れた時のンフレットが貼り付けられており、入館料大人50円、東洋一の設備と内容とある。厳しい訓練の合間に外出して英気を養ったのであろうか。

 後年、関門海峡は家族を帯同して九州への2回の転勤で神戸から門司までフェリーで通った。若き時代の下関の海と山を見て、感慨深いものがあった。

❸ 青山の頂のマイクロウエーブ塔は、位置確認の重要な目標物であった。青山と向かい側の勝山は古戦場であった。歴史のある山口県だけに名所旧跡巡りもしたことが思い出された。

❹ 満珠・干珠の二つの島は、最も三つの中で印象が強く現在も記憶が残っている。空中における飛行特性を体得させる訓練で真剣に取り組んだ課目であった。歴史のある満珠・干珠の二つの島は、内海にどっしりと鎮座した小島で堂々として美し見える。

 

(つづく、次は大空についての所感)