昭和の航空自衛隊の思い出(14) 自衛官としての自覚と入隊動機

 1.自衛官としての自覚

   「自衛官としての自覚」は即自衛官としての「使命の自覚」と同義語と言っても過言ではないかと今でも思っている。昭和36年6月28日制定された「自衛官のこころがまえ」には五つのことが示されている。

❶使命の自覚

❷個人の充実

❸責任の遂行

❹規律の厳守

❺団結の強化

    隊員が「自衛官 としての自覚」・「使命の自覚」を強く持つようになったのはいつかと問われると各人各様で心の中を紐解くことは難しい。

    多くの隊員に共通して言えることは、入隊当初の淡い憧れや諸々の志願動機・理由があったにせよ、厳しい教育訓練を乗り越え、自衛隊の生活、実任務につながる勤務、担当業務を遂行している内に「自衛官としての自覚」・「使命の自覚」が徐々に形成され本物になってくることではなかろうか。

   そこで、昭和の時代における在隊時を思い起こして、入隊当初、自分が「自衛官になった」「自衛官として進んで行く」「自衛官になった己の使命」を自覚するにつながったものは何かと思い出してみた。

    一番最初に上げられるものは、制服の着用、服務の宣誓、認識番号の付与などであろう。

    だが、これらは、一つの外形的なものであり、自分の内なる自覚は、自らが汗を流し、歯を食いしばって乗り越えた訓練、ともに学び切磋琢磨した同期との絆、組織として困難な任務をやり遂げた達成感・喜び・感動と連帯感・帰属意識、自分を取り巻く上下の信頼と感謝などの心の遍歴の積み重ねの中で形成されたように思う。

    そこには、上官等の講話、先輩の話、教科書的なもの、「自衛官のこころがまえ」など拠りどころとなる指針・文書、部隊・隊員の活動の記録・物語などは、内面を形成していく上で、道しるべになったことを覚えている。

  

2.自衛隊入隊の動機、理由

   私が航空自衛隊を選んだ理由は、「大空に憧れパイロットになりたい」との単純な理由であった。陸上自衛隊から転進した。

    航空自衛隊に入隊した60年前と現在とを比較すると志願の動機・理由はさまざまであろうが、時代によっても変化があるように思う。

  どの 時代にも共通する動議・理由は、自衛隊自衛官に憧れ、かっこいい、やり甲斐のある仕事をやりたい、国家公務員になれる、安定したした職業などさまさまである。 最近では、自衛隊の3.11のような大震災の活動、国際貢献などの影響などもあるようだ。

    多くの国民は、最初から愛国心に燃えてとか、国防の重要性を認識して身を投じるといった理由がないとダメのように思う人がいるかもしれないが、理由はそれほど重要ではない。自分なりの志願の理由があればそれで十分ではなかろうか。

    自衛隊だけが特別ではない。会社を選ぶ場合と同じである。 新入社員として、次第に会社の仕事に馴染み、社風に溶け込んでくるとそれらしくなってくるものである。どの職業の場合も特別な人を除き、程度の差でほぼ同じであろう。

    従って、自衛隊入隊の動機・理由は、自分の経験等からみて、入隊後の自衛官の自覚にさほどの影響を与えるものではないように思った。

    むしろ入隊後の所定の教育訓練と隊内における自衛官としての諸勤務・起居をしている内にかなりの自覚が出来上がり、担当職務等を通じて徐々に自分なりの確固たるものを確立するようになる。

     その過程で困難な事にぶつかりフラフラすることがあるかもしれない。誰しもが経験する事柄で、上司・先輩のちよっとしたアドバイスと励ましで案外乗り越える例が多かった。

     若い時は、いろいろと悩みが多いもの、今も昔も大差ないであろう。特に空士の時は進路について悩むことがある。大部分の者は3曹になると将来設計を描けるようになってぐっと落ち着いてくる。私も士長で操縦免となって挫折したとき迷ったことがある。上司先輩の助言指導が意外に大切になってくる。

 世の中の景気がよくなると、どこでもそうであるが、部下の中から退職したいと相談を受けたことがあった。相手の立場になって共にじっくりと将来を語りあって思い留まり、後年、部隊で押しも押されぬ重鎮の大先任や部内幹部として大成していった。

   大方は厳しい勤務を通じて、次第に自らが選んだ自衛官への道、己に課された使命、職務に対する信念・信条が確立されてくる。最終的には、「自衛官としての自覚」は、与えられるものではなく、自ら作り上げるものであるからだ。

 

 自衛官の心がまえ

昭和36年6月28日制定)
 古い歴史とすぐれた伝統をもつわが国は、多くの試練を経て、民主主義を基調とする国家として発展しつつある。その理想は、自由と平和を愛し、社会福祉を増進し、正義と秩序を基とする世界平和に寄与することにある。これがためには民主主義を基調とするわが国の平和と独立を守り、国の存立と安全を確保することが必要である。
 世界の現実をみるとき、国際協力による戦争の防止のための努力はますます強まっており、他方において、巨大な破壊力をもつ兵器の開発は大規模な戦争の発生を困難にし、これを抑制する力を強めている。しかしながら国際間の紛争は依然としてあとを絶たず、各国はそれぞれ自国の平和と独立を守るため、必要な防衛態勢を整えてその存立と安全をはかっている。
 日本国民は、人類の英知と諸国民の協力により、世界に恒久の平和が実現することを心から願いつつ、みずから守るため今日の自衛隊を築きあげた。
 自衛隊の使命は、わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つことにある。
 自衛隊は、わが国に対する直接及び間接の侵略を未然に防止し、万一侵略が行なわれるときは、これを排除することを主たる任務とする。
 自衛隊はつねに国民とともに存在する。したがって民主政治の原則により、その最高指揮官は内閣の代表としての内閣総理大臣であり、その運営の基本については国会の統制を受けるものである。
 自衛官は、有事においてはもちろん平時においても、つねに国民の心を自己の心とし、一身の利害を越えて公につくすことに誇りをもたなければならない。
 自衛官の精神の基盤となるものは健全な国民精神である。わけても自己を高め、人を愛し、民族と祖国をおもう心は、正しい民族愛、祖国愛としてつねに自衛官の精神の基調となるものである。
 われわれは自衛官の本質にかえりみ、政治的活動に関与せず、自衛官としての名誉ある使命に深く思いをいたし、高い誇りをもち、次に掲げるところを基本として日夜訓練に励み、修養を怠らず、ことに臨んでは、身をもって職責を完遂する覚悟がなくてはならない。
1 使命の自覚
 (1) 祖先より受けつぎ、これを充実発展せしめて次の世代に伝える日本の国、その国民と国土を外部の侵略から守る。
 (2) 自由と責任の上に築かれる国民生活の平和と秩序を守る。
2 個人の充実
 (1) 積極的でかたよりのない立派な社会人としての性格の形成に努め、正しい判断力を養う。
 (2) 知性、自発率先、信頼性及び体力等の諸要素について、ひろく調和のとれた個性を伸展する。
3 責任の遂行
 (1) 勇気と忍耐をもって、責任の命ずるところ、身をていして任務を遂行する。
 (2) 僚友互いに真愛の情をもって結び、公に奉ずる心を基とし、その持場を守りぬく。
4 規律の厳守
 (1) 規律を部隊の生命とし、法令の遵守と命令に対する服従は、誠実厳正に行なう。
 (2) 命令を適切にするとともに、自覚に基づく積極的な服従の習性を育成する。
5 団結の強化
 (1) 卓越した統率と情味ある結合のなかに、苦難と試練に耐える集団としての確信をつちかう。
 (2) 陸、海、空、心を一にして精強に励み、祖国と民族の存立のため、全力をつくしてその負託にこたえる。

 

f:id:y_hamada:20140827100546j:plain

 《 操縦学生として飛行訓練に励んでいたころ、21歳 》

(続く)